最終回目前!「咲うアルスノトリア すんっ!」を徹底考察!
「咲うアルスノトリア すんっ!」見たけどよくわからない……
そんな人に向けて、本作を解説していきます。
(アニメにまつわる情報だけを基に論じています。筆者は原作ゲームの内容を知りません)
このアニメは何を描こうとしてるの?
本作のシリーズ構成・脚本の後藤みどりさんは以下のようにコメントしています。
ここで注目したいのは、「楽しい日常を書きました」ではなく、そうであることを「願いながら」書いたという点です。
「辛い運命が待ち受けているからこそ、少しでも優しい日々を過ごしてほしい」という思いが読み取れます。
辛い運命とは、warningで描かれている戦争のこと。
日常パートに差し挟まれるwarningは、まさに警告であり、少しずつ危険が迫っていることを知らせています。
本作は、
いつ壊れるかわからない日常を
壊れてしまうまでの日々を、慈しむ
そんなアニメなのだと思います。
日常パートに隠された意味
ニコニコでの振り返り上映会にあわせて、公式Twitterがこんなツイートをしています。
このように、本作では日常の何気ない会話に、世界観や時代背景を示唆するセリフを溶け込ませています。
ゆるやかな雰囲気を壊さないよう、かつ説明的にならないよう、自然に。
中身がないように見えて、日常パートは世界観を明かしていく役割を担っているのです。
以下、日常に込められた意味とあわせて、各話の解説をしていきます。
各話解説
1話
1話は本作のテーマとなるお茶会をメインに、以降の回で出てくる蟲、騎士、ロンドンへのおつかい、深夜の授業についても導入がなされます。
蟲を怖がるみんな、騎士という恐ろしい存在についても明かされ、これから「アンラッキー」が起こるという占いは不穏な空気を醸し出します。
2話
2話では蟲がどういう存在なのか、この学園をどう守っているのかが示されます。
1話と2話で作品の前提となる大体の情報が提示されました。
戦闘服や魔法も見どころ。
3話
3話はアルスノトリアの鼻が利かなくなる話ですが、ペルデラがこう言います。
「嫌なにおい嗅いだのかもな。想像もできないような嫌なにおいを。おまえは優しいから、きっと傷ついたんだ。とびっきり優しいにおいを嗅ぐんだぜ。そしたら心がやわかくなって、きっと鼻も治るんだぜ」
この回のはじめにwarningで戦場の灰が風にさらわれるだけの映像が流れました。
恐らくアルスノトリアはその死のにおいを感じて、無意識にショックを受けた結果、鼻が利かなくなったのだと思われます。
トリたちとwarningに繋がりが出てきました。
4話
4話は深夜の授業ですが、教室に行くまでの道のり、学園の内部や他の生徒たちの様子が初めて描かれました。
「私たちはずっと一緒だよ」「トリがそうしたいならね」という言葉に、なぜかひとり浮かない顔をするアルスノトリア。
何か事情を抱えていることが窺えます。
5話
5話は休日回。徹夜明けで眠たげな昼下がりの静かな雰囲気の中、アルスノトリアの姉妹など、この世界の重要な秘密が明かされます。
パウリナとの会話。
「アルスノトリア。悪い夢は悪いままかな?」
「……毎日は楽しいのです」
ここまで見てきて気付いた人もいるかもしれませんが、アルスノトリアは本作で一度も笑顔を見せたことがありません。
実は公式サイトにて「ある事情により微笑みをなくしてしまった」と説明されています。
パウリナは、ある時から笑うことができなくなったことを「悪い夢でも見てるような」と例えているのだと思います。
つまり「悪い夢は悪いままかな?」は、「今もまだ笑えないまま?」ということだと考えられます。
アルスノトリアの返事も、
「(今も笑えないままだけど)毎日は楽しいのです」
となり、すんなり意味が通ります。
warningはないものの、いつもより重い話がされています。
そのほか、お茶会の部屋の主(伝承の魔法使い)=新任教師についても触れられました。
6話
6話は下界へおつかいに。
アシュラムと下界という区別があること、アルスノトリアたちと人間の関係性(姿を見られてはいけないなど)ことが示されます。
ここで初めて騎士が接近し、みんなはそれを察知して魔法で帰還しました。
7話
7話は髪型を変えるため鳥の羽根を探す話でした。
warningにて騎士が異端への協力者を抹殺、その人物が飼っていた鳥がアシュラムに飛んできて、下界からもアシュラムへ行けるということが示されました。
8話
8話は小アルベールが迷子になる話。
学園の裏側が描かれ、腐食、崩壊、精霊さんによる補修など、アシュラムの脆さが不安を煽ります。
9話
9話は雪が降る話。
雪が降るのは100年に一度という独特の気候。アシュラムはどこにあるのか?ソロー様たちはいつから生きているのか?という疑問が出てきますが、warningもなく、比較的平和な回でした。
10話を考えると、嵐の前の静けさだったのかもしれません。
10話
10話で急展開を迎えます。
なんと、アルスノトリアたちは騎士と戦ったといいます。
騎士は「聞く者」と戦い撤退させられたと。
いつ交わるかと思われた両者がすでに戦っており、「聞く者」とは、そして騎士が突き止めた異端の拠点とはまさか……
不穏な空気が一気に作品を覆いだします。
バランスをとるかのように日常パートは笑ってしまうくらいおバカな風景が描かれました。
11話
11話は幸運の猫のひげを拾う話。
このひげは後で馬の尻尾だと判明しますが、馬=騎士の襲来を暗示しているのではないでしょうか。
度重なる幸運は、これから来る不運の前触れとも考えられます。
騎士はついにアシュラムへ全軍をもって向かいます。
ペルデラは生徒に授業はグラウンドから教室に変更になったと伝え、アルスノトリアの防除係はハミット様が代わりに務めることに。
教師陣は騎士の接近に気付いており、混乱を避けるためそれとなく生徒を安全な場所へ避難させているのだと思われます。
以上、どの回にも作品上の意味があり、
少しずつ影が大きくなっていく中でも、それがただ平和に見えるのは、脚本が絶妙にバランスを取っているからだということがわかります。
シリーズ構成について
本作は一話完結でありながら意図的に前回と繋げているのが見受けられます。
1話で出た占いの通り、2話で防除係をやり、そのせいか3話で鼻が利かなくなり。
4話の夜間実習は1話で申請出す話をしてて、5話はその実習のせいで寝坊する。
6話は1話で行きたがってたお使いに行き、7話ではおつかいで持ち帰った新聞を参考に鳥の羽根を探し、8話はその羽根が原因で小アルが迷子になりました。
8話のラストで窓の外に雪が降り、9話は雪が積もったから遊ぶ話。
個々の話を独立させても別にいいのに、かなり意図的に繋げていることがわかります。
しかし、10話は9話と繋がっていません。
ここではじめて物語に隙間が生まれます。
ここまで意図的に繋げてきたからには、繋げないことにも意図があると考えられます。
そして10話で急に明かされた騎士との戦闘……
1〜9話 / 10話
この繋がってないところ=アニメで描かれなかったところに騎士との戦闘があったということなのではないでしょうか。
「続きはゲームで」?
騎士との戦闘が描かれないまま、残すところあと1話となりました。
続きが見たければゲームをしてね、という宣伝アニメなのか?というと、決してそうではないと思います。
本作はここまで、不穏さを仕込みつつ、優しい日常を丹念に描いてきました。
warningがどれほど恐ろしくても、みんなの日々は温かく、いつまでも続く気がしてくるような、幸せな時間。
だからこそ、そんな日常に騎士が攻めてくること自体が、クライマックスとなりえるのです。
騎士とどう戦い、戦争がどんな展開を迎えるかよりも、大切な日常が終わってしまうのかどうか。
それが重要なのだと思います。
ついに日常が崩れるのか、守られるのか、本当に最後までどうなるかわかりません。
「続きはゲームで」とかではなく、
本作は一つのアニメ作品として完成されていると感じます。
終わりに
エンディングテーマは、cluppoさんがこのアニメのために歌詞を書いた曲。
本作のテーマがまっすぐに歌われているので、その詞を引いて本稿を閉じたいと思います。
ありがとうございました。