はぴねす

 爽やかな風の向こうに悠然と建つ――三島由紀夫の『暁の寺』の舞台にもなった――ワット・アルンの壺状の巨大仏塔が碧空に映える。寺院には、茫々たるチャオプラヤ川を舟で渡って参詣するというのもまた風情である。川を挟んで都心部と隔たっただけにもかかわらず、緑溢れるワット・アルンの日差しは驚くほど柔らかい。川面を撫でて吹き込むたおやかな風が、土産物屋の軒下に幾つも吊るされた風鈴を澄んだ響きで鳴らす――。仏塔から離れた川沿いに観光客は少なく、どこまでが寺院関係者か定かでない現地の人々がガーデンチェアを引っ張り出して思い思いに脱力している。寺院に匿われるようにして棲息している、街中では影を潜めている猫達も、日溜りの芝生に寝転がって“マイペンライ”と言わんばかりである。淡いブルーに黄色を溶いた菫色の夏空のもと、夢見る寺猫の幸せはいかほどだろうか――。

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