#29 社会人編 〜ソファへの憧れ〜
「ソファが欲しい。」
そう切実に思い始めたのは、社会人になり2度目の引っ越しをした直後のことだった。
もともと、6畳の1Kに住んでいた私にとって新しい住処は少し広めで、今まで使っていた座椅子では物足りなく感じていた。
そんな中、ふとテレビを流して見ていると
「お値段以上〜♪」
と某有名家具量販店のCMが流れてくるではないか。最近色々とあったが、基本的に私はその家具量販店が好きだ。
そんなこんなで、
「私好みのソファを買おう!」
と思い立ってしまったのである。
思ったらすぐ行動が多分私のモットーなので、すぐに気に入るソファを調べ始めた。
するとソファにも色々な種類があるではないか。
まず何人掛けかということだが、当初はL字型になっていて、家族でも座って映画も見れちゃうぜ、といった感じのソファを夢見ていた。
が、いかんせん高い。あの手のものは平気で10万円を超えてくるのだ。
今の私の経済力では無理だし、そもそも置くスペースがなかった。
危ない危ない、はしゃいで背伸びをした結果、買い物で失敗することはよくあるので気をつけねばならない。
昔、高いものはいいものに違いないと、巷で話題のキャビアなるものを買う機会恵まれ、意気揚々と購入した覚えがある。
もちろん、あれを大好きと言う人もいるだろう。しかし、そもそも海の幸が大好き!と言うほどでもない私が食べたところで、キャビアの良さを感じ取ることができなかったのである。まさに、豚に真珠、猫に小判といったところだろうか。
そんなわけで、自分の生活に見合ったソファでなければならないと、考えを改め、大きさを2〜3人掛けと決定した。理由は寝っ転がるのにちょうど良さそうだったというだけである。
理由なんてこれくらい適当でいいだろう。大体買い物とはそういうもんだろう、きっと。
大きさも決まってきたところで、今度はデザインというか形を決めていこうとなったのだが、未だかつて私はソファを買ったことがない。
これは専門家の意見を聞いた方がいいだろう。
ということで実際に家具屋に行こう、となったのだった。
到着し早速店員に話を聞くと、
「そうですね、大きさが決まっているならあとは、肘置きと布の材質ですかね。」
とアドバイスをくれた。
なるほど、専門家はやはり一般人にはない視点をくれる。いや、私になかっただけかもしれないが、探すポイントが分かったので結果オーライである。
まず肘置きだが、よく見るとなだらかなタイプと角ばってしっかりしているタイプがあるらしい。
確かに、展示されているソファはそのどちらかの仕様になっていた。
「それは、どちらが良いんですか?」
と、初めてなので全てがちんぷんかんぷんな私は、いかにもちんぷんかんぷんな顔をして聞いた。
「なだらかな肘置きは、座って肘を置くには少し低いのですが、横になった時に寝やすくて、クッションも置けるので扱いやすいです。角ばっている肘置きは、反対に寝るのには角度がありすぎて、首が疲れてしまうのですが、座って肘をしっかり置いてリラックスしたい方には向いています。」
と、プロの解答が返ってきた。ちんぷんかんぷんな私にもわかりやすい丁寧な説明に感動さえ覚える。
これは、どっちが良いではなく、好みの問題ということか。
と悩み始め、結果的に横になれることが目的でもあったので、寝っ転がりやすいなだらかなタイプを選ぶことにした。
次にソファ自体の材質だが、今時同じ型のソファでも色々な布を選ぶことができるし、革製にすることもできるそうだ。
これはかなり難しい決断である。
というのも、昔から洋画でよく出てくるソファが大抵革製で、なんとも言えずかっこいいのである。
革、というところもまたいい。なんだか高級感が出ているような気もする。でも実を言うと布の肌触りも好きなのだ。実に悩ましい。
さてどうしたものか、といよいよ立ち尽くしてしまう私。
ここは、先に暮らしを充実させている兄にでも連絡してみるか。
と、文面で
「〜なソファで、布か革か迷っているんだけど、どう思う?」
と聞いてみる。すると思いの外すぐに返信がきた。
「革、破れると汚い。映画、かっこいいのは俳優、お前は違う。だから布。」
とまさかのカタコトのような文面で送られてきた。
色々とツッコみたい気もするが、そりあえず兄が言いたいことは、
「お前は映画俳優のようにかっこよく座れないから革はやめておけ。」
と言うことだろう。本来なら、
「なんだとー!」
と一怒りくらいするものかもしれないが、兄に言われる
「なるほど。」
と言う気になってくるのだから不思議なもんだ。
悩んでいたわりに、鶴の一声的な兄の一声で、私はソファを買うことができたのだった。
こうして新たに買ったソファは、私が寝っ転がってダラダラする場所として、主に休日に活躍している。
革のソファだったら…と思うことがないというと嘘になる。憧れではあった。
だが、あのソファにダラダラするには向かないだろう。やっぱりイケメン外タレが、かっこよく座るから意味があるのだ。
背中を押してくれた兄に感謝しつつ、今日も仕事の疲れを癒そうとソファでダラダラする私だった。