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傘と私
強い風と雨の中、やっとの思いで絵画教室の時間に間に合った。
でも、服は濡れて靴の中も濡れて心地悪い。
「さー、みなさん。本日は写生をやってもらいます」ここの教室の中年の太った男性講師が言った。続けて、
「今日はですね。モデルになってもらう人が来てくれています。モデルさん、お願いします」
講師の言葉で、準備室から男性が扉を開けて教室に入って来た。185センチはある身長と整った顔にインテリを演出する銀縁メガネ、アイビーのジャケットにインナーの白いTシャツが肌の白さと顔が明るく見えた。グレーのフリーのパンツから白い肌の足首、生成り色の麻のくつを履いていた。その男性は講師が用意してくれたカーキ色のソファに座った。
浜坂桃子は、クロッキーブックにカッターナイフで尖らせた鉛筆で輪郭を描いていった。他の15人くらいの生徒はもう鉛筆で素早く描き始めている。
顔を描いていくとその男性の端正な顔が強調された。
ソファからはみ出すような足を描いていく。
「そろそろ出来ましたか?デッサンはスピードが大事です」講師が言った。続けて、
「井上さん、描けたデッサンをみんなに見せてください」
「表状が出てますよね。いいですよ」残念そうに講師が、
「浜坂さん、もう少しペースアップしてくださいね」と言った。
上手く描こうとして桃子は人より時間が かかり過ぎている。
教室が終わる時間が来て、片付けていると、
「僕、この自分の顔、好きですよ」とモデルの男性が言った。
「えっ、ありがとうございます」
「じゃあ、これで、お疲れ様」
「お疲れ様です」
教室を出て傘をさそうと思ったら、傘が強風で潰れて開かなかった。
そんな桃子の頭の上に傘が開いた。
「入りますか?その傘じゃこの雨、どうしょうもないですよ」
「いいんですか、ありがとうございます」
ゴールデンウイーク中のこの日の雨は冷たい。でもあの日傘が壊れていなかったら、この日のようにまた一緒に一つの傘のした二人で歩き、人生も一緒に歩くことはなかったね。
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