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誰かを落とすために必死になって掘った穴は、自分の足元のすぐ近くにある。
渦のなかに長く留まり過ぎて、ぐるぐると攪拌されるうちにすっかり目が回ってしまった。ふらつく頭で幾ら考えたところで、最適解など出てくるはずもない。
どうして、理性で出した答えの通りに動けないのだろう。感情で出した答えは、大抵大きな後悔が付きまとうのに。それが人間だと言ってしまえばそれまでなのだけど、感情なんてものがなければ、もっと生きるのが楽だったろうとも思う。楽な代わりに豊さを失うのだと、わかってはいても。
制御できない感情。手余しする問題。その渦の流れの早さに、私の心身は持たなかった。
「入院できませんか?」
そう問いかけた救急の医師の表情を、私は見ていない。ただ、深い労りを感じる声であった。その音を聞いて溢れた滴は、みるみるうちにマスクを濡らした。鈍く痛む臓器を押さえ、私はいつもの台詞を口にした。
「子どもがいます。預ける人も頼れる人もいません。入院はできません」
子育ては、どんなときでも待ったなしで続いていく。仕事を休めない旦那。同じく仕事で大忙しの兄弟。虐待サバイバーである私は、両親に育児を任せるという選択肢を、はなから持ち合わせていない。
無理をしないほうが良い。休んだほうが良い。わかっている。でもじゃあ、明日の息子たちの朝ご飯を、一体誰が作ってくれるっていうんだろう。
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