彼と彼女と先輩と
ー忘れられた人と忘れられない人ー
私には家庭があった
彼には婚約者がいた
その婚約者は私の友人だった
友人に紹介された時は
印象が悪かった
何を考えているかわからない
苦手なタイプだった
何度か3人で会う機会があって
彼の優しさに触れた
私の夫にはない
さりげない優しさ
押し付けない自然に振る舞うその姿に
私は嫉妬とうらやましさが混じった
複雑な気持ちを持った
そんな気持ちが彼に伝わったのだろうか
彼女の家で2人っきりになった時
彼は私の手を優しく握った
包み込むような、あたたかさ
びっくりした私に
彼はふふっと笑った
彼の瞳は私を捕らえていた
彼はまるで
ゲームのように
彼女の目を盗んで
2人きりになった時に私に接近した
ふたりで見つめあった
耳元で私の名を呼んだ
後ろからハグされた
さりげなく私に触れた
その度に私の中で
小さな花が咲くように
彼への好きが増えていった
今の生活に不満があった訳でも
夫を愛してない訳でもない
ただ、彼を好きになっていく、私がいた
それから2人で会うようになった
どうしてこんなに魅かれるのだろう
私たちは本能のまま
感情を抑える事なく
愛し合った、何度も
彼に会った後に平静を装う私
この状態が続くのが怖くなった
この関係を知られて
今まで築いてきた物を無くしてしまうのが
怖かった、逃れたかった
それよりも
彼に溺れていく自分自身が怖かった
私は、彼の連絡先を消去した
さよならも告げず
彼を置いてひとりで去った
私は友人の連絡先も消去した
私の中からふたりが消えた
……………………………………
私には忘れられない人がいる
今は家族も増えて、しあわせな毎日
だけど、彼を忘れた事はなかった
私が一方的に終わらせた恋しい彼のこと
私の中の秘密
……………………………………
雑踏の中で彼を見つけた
会ってはいけない
このまま、通り過ぎてしまえばいい
そう思ったが
彼を追いかけていた
彼は、病院に入って行った
神経内科で彼の名前が呼ばれた
病気なの?
もう、過去の人なのに
私はどうしたいのだろう
私は思い切って
彼の前に立った
彼は
ぶつかりそうになった私に
すみませんと言って通り過ぎた
かつて愛した人は
私のことを忘れていた
……………………………………
病院の受付で
彼を迎えに来ていた友人と会った
彼女は私を見つけて
先輩、久しぶりです
5年ぶりぐらいですか?
連絡取れなくなって
どうしてるのかなと思ってました
携帯を無くして、連絡できなくなってた
ごめんね
先輩、相変わらず綺麗ですね
歳、取ってないみたいです、すぐわかりました
あなたも変わらないね
彼も
わたし達、一年前に結婚しました
彼の記憶が治ってからと思ってたんですけど
なかなか、治らなくて
そうなの?
5年前に、事故に遭って
それから、それ以前の記憶がなくて
大変でした
彼に聞いた
私の事も憶えてないの
すみません
先輩、また、会いたいです
と、連絡先交換して別れた
彼は私の事を忘れてしまったんだ
少しの安堵とさみしさが
心の奥の方をチクッと刺した
……………………………………
私の中の忘れられない人は
友人だった彼女と結婚していた
あの時逃げた私を忘れた彼は
彼女の友人として受け入れてくれた
彼の優しさは
変わっていない
優しい眼差し、笑顔は
いまは、彼女の物
私が手放したものは
とても、素敵な宝物だったのかも知れない
彼が、もし、
記憶が戻ったら
どうなるのだろう
私は
彼は
彼女は
あの時の気持ちは
変化しているのだろうか
私だけがむかしの彼を愛していた
取り残されたようなさみしさを感じた
私があなたを壊したのだろうか?
あなたが私を変えたのだろうか?
私は 忘れられた人
私の 忘れられない人
この辛さは私のカルマ
カルマはいつまで続くのだろう
私の罪と罰
ここからも逃れた方がいいのをわかっているのに
彼から逃れられない私がいる
忘れられた 私と
忘れられない あなた
ー彼女の先輩のあの人ー
彼女に先輩を紹介された
美しい人だ
はにかんで笑う顔は
子供のように無邪気で可愛い
そのギャップ
それだけで人を惹きつける
初めて紹介された時から
この人の全てを知りたいと思った
結婚してるのも聞いた
触れたかった
彼女が見ていない所で
あの人の手を握った
あの人は驚いた顔をした
それが、可愛くて
この顔を何度も見たいと思った
あの人は俺を意識するようになっていた
もっと俺を意識するように
彼女の目を盗んで
あの人を振りまわした
そのたび、あの人の反応を見ていた
かわいい人だ
俺はこの人を壊してみたくなった
彼女のいない所で
2人きりであった
綺麗で可愛い人は
俺を好きだと言った
俺はきっと、最初に会ったあの日から
この人を好きになっていた
お互いを求め合っていた
愛し合った
あの人といる時間が増えれば増えるほど
独占欲が増した
あの人を家族から奪いたかった
……………………………………
突然、連絡が取れなくなった
彼女も連絡が取れないと言っていた
何かあったのだろうか?
無事なのだろうか?
俺はあの人の名前と
携帯の連絡先しか知らなかった
探すすべがなかった
……………………………………
あの人に似た人を追いかけて
事故にあった
あの人の記憶が俺の中から消えていた
……………………………………
記憶を無くした俺に
彼女だと言う人が、俺の事を教えてくれた
教えてくれた事とは別の
なにか
大事な物を忘れている様な気がしていた
……………………………………
彼女の先輩だと言う人に病院で会った時
初めて会った人なのに
胸の奥がザワザワした
綺麗で可愛いその人は俺を見ていた
少しさみしそうに見える
俺と目が合うと目を逸らした
俺が近づくと距離を置く
俺を警戒していた
彼女の先輩のあの人
俺は以前、あの人と何があっのだろう
彼女の先輩だと言うあの人と
頭の奥の方で小さな声がする
俺の名を呼んでいる?
ー先輩と彼とわたしとー
わたしは知っていた
彼が先輩を好きな事
わたしは知っていた
先輩も彼に魅かれているだろうこと
何故なの?
先輩はわたしの持っていない物全部あるのに
何故?わたしの唯一の大切な物を奪うの?
先輩はわたしの憧れ
凄く綺麗な人
笑うと可愛い人
きっと、誰もが好きになる
友だちになりたがる
先輩と友だちになれた事が嬉しかった
彼に紹介するのが誇らしかった
自慢の彼を先輩に紹介したかった
ふたりを合わせたのは間違いだった
彼は、先輩に恋した
先輩も彼を
わたしの誤算だった
先輩が彼と同じ気持ちになるなんて
わたしは嫉妬で壊れそうだった
先輩と連絡が取れなくなった時、ホッとした
彼は忘れるだろう、一時の恋だと
忘れたのは
それ以前の全てだった
事故にあった、ショックで
記憶を無くしてしまった
わたしのことも忘れていた
……………………………………
5年ぶりに先輩に会った
相変わらず綺麗な人
しあわせそうな人
彼女に会えば、忘れた記憶が
戻るかも知れない
わたしは、以前の様に連絡先を交換して
わたしたちの家で会うようになった
危険な賭けのような気がする
また、ふたりが求め合うかも知れない
彼と先輩の良心のような物に期待する
先輩には大切な物が増えている
5年前の彼の記憶が戻っても
同じあやまちは侵さないだろう
ただ、わたしは5年前の
わたしと彼のしあわせだった思い出を
取り返したかった
先輩のいない思い出を
先輩と彼とわたしとー
どうなっていくのだろう
誰も傷付かない終わりはあるのだろうか?
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