The Wing for Truth (『リリカルなのは』二次創作小説・連作名『rallentando』)
なのはシリーズ?二次創作小説の拙稿、note公開できそうな作をあげてみようかと。まずはファンの間ではポピュラーな「なのフェ」CPです。
時間枠が前後しますが、基本は三期(Strikers)より3年後ほどを想定しています。いわばスピンアウト的作であり「1ファンの活動の一環であり『原作とはいささかも関わりがない』ことをご理解の上(GLというテーマ含め)ご自身の判断に基づいてご高覧いただければと。
この作の他、あと二作ありますが、それぞれ一話完結、シリーズ(rallentando)三部作の第一作が当作です。区切り線より下、本文です。
予定より3時間ほど早く辿り着いた、そんな些細なことが嬉しかった。吹く風に春の香りが混ざり始めたのと同じ位に。
左手にフライトバック、右手にはスーパーマーケットのレジ袋。制服姿の両手に下げた姿はちょっと滑稽だろうか、と苦笑いする。
独り笑いにつられた様に、ビニール袋がカサリと揺れた。
- The Wing for Truth -
【Level 0】
― ゴメンっ、フェイトちゃん! ―
出来るだけ早く帰るようにするから、と手を合わせつつ詫びるなのは。
仕事なんだから仕方無い、そんなに気に病まないで、とコンソール画面に向かって微笑んだ。ヴィヴィオは授業発表の為の調べ物で少し遅くなると伝えてから、"『全力全開!!』で片付けます!夕方までには帰るからね "、と
敬礼付きで続けてきたので、こちらも返礼で了解の意を告げ、コンソールを閉じた。
" お帰りなさいと言ってもらうのはとても嬉しいけど、お帰りと言ってあげられるのも、凄く嬉しいんだよ。"
帰還の日、我が家の一番乗りが私かもしれないのなら、1ヶ月振りの団欒のために料理の腕を振るいますか。うん、それはとても素敵だ。
帰宅の日取りを報告した日に決めて、艦(ふね)を降りた後はマーケットに直行した。献立を頭の中で復唱しながらインターフォンのボタンを押す。
応答がないのを確認してドアの鍵を開け、玄関からリビングに向かおうとした時 ―
「やっぱり納得いかないよぉー、これっ!!」
― 苦悩の声がリビングに響いた。
「……ヴィヴィオ?」
「……あ゛」
「帰ってたんだね。それ、宿題かな?」
テーブルに広げられたノートと分厚い表紙の本を指して訊ねると、宿題っていうより自由課題かな、と少し赤くなった頬を撫でながら答えた。
見開きの頁に描かれていたのは2つの絵。
一方は息絶えた翼人を悼み、彼を取り囲むニンフ達。画布の中の存在も、その外側で絵を見る者も、共に翼人に引きつけられる。
もう一方は驢馬に荷台を曳かせる農夫、ぼんやりと空を見上げる羊飼い、海面に糸を垂らす釣り人、そして、彼らの視界に映ることも無く、海面でもがく一対の脚。
「正反対でしょ、この絵。同じもの描いてるのに何でこんなに違っちゃうのかな、って」
ヴィヴィオの頭を悩ませていたもの。
それは、私が海鳴で中学に通っていた頃に図書館で読んだことのある、ギリシャ神話のワンシーンだった。
【Level 1】
「お疲れ様です。目的座標、最短ポイントへは5番ポートからお願いします」
「了解しました。状況捕捉、随時宜しくお願いします」
オペレータから指示されたポートへ向かい、バリアジャケットを展開する。転送された上空でデータ確認をしようとした時 ―
" ……えっ、これは…… バルディッシュ、状況は? "
" They are not in my data, and It is infallible.The magic light belongs of her."
( 敵兵器は当該データにありません。魔力光についてはSirの感知に相違無く。)
即答をくれたバルディッシュに頷き、作戦本部への回線を開いてオペレータに打診する。
「別動隊・執務官フェイト・T・ハラオウンより本部へ。現地の異変を感知、確認を願います」
「……捕捉完了、未確認兵器が予想の5倍は展開しています!
高速接近する一群も確認!」
「了解、直ちに向かいます。救援増員を宜しく」
" よし! 行くよ、バルディッシュ!"
" Yes,Sir. "
― Sonic Move ―
「……予定より、ちょっとハードかなっ。今の処は、何とかなってる、けどっ!」
― Accel Shooter ―
出動先にはブリーフィングで提示されていた何倍もの兵器がいた。はやてちゃんがいたら、手当て増額、いや倍増やなきゃ割に合わん!ってぼやくだろうな。……なんて言ってる場合じゃないけど。
「高町!大丈夫か?」
「何とかオーケーです、後続を叩いて下さい!」
隊の皆と確認を取り、次のカートリッジをロードする。
" ……って、あれっ?これって……? "
" Yes Master,It is infallible.She is comeing here by maximum Speed."
( はい、Master。間違いありません。 全速力でこちらに向かっています )
" 分かった。じゃあ、方針変更!レイジングハート、防御、任せた!"
" All light my master. "
― Starlight Breaker,standby ready.count…5,4,3,2 ―
「ブレイカー!!」
「プラズマスマッシャー、ファイアッ!!」
二人の攻撃はほぼ同時に放たれ、幾体もの機械兵器が弾け飛んだ。
" フェイトちゃん!"
" なのは、話は後だ! "
" Master " " Sir "
" It comes. "
「くっ、間に合うか!」
-Photon Lancer(フォトンランサー)-
「出過ぎちゃ危ない、フェイトちゃん!」
-Barrier Burst(バリアバースト)-
機械兵器のアームがこちらに向かって大きくその鎌を伸ばした。間に合わない、と思ったその時、空間を超え詠唱が届く。
― ……遠き地にて……闇に沈め…… ―
「「……え?!」」
「Diabolic Emissio(デアボリック・エミッション)!!」
「……はやて」
「はやてちゃん」
球体の魔力に少し遅れて、漆黒の翼が地に降りた。
「真打は最後に登場……なんてな。間に合うてよかったわ。ちょう遅うなって、ゴメンなぁ」
"カッコ付けちゃってますけど、状況解析早よう!って焦ってたですよ、はやてちゃんってば "
「ちょ、リィン、余計なこと言うたらあかんて!」
「よし、残機ゼロ、敵撃破を確認した!警戒態勢Level-Maxを維持、まだ気を抜くな!」
隊長の檄が響いた。
蒼天の風の茶目っ気に笑うのは隊舎に戻ってからだ、と三人で目配せをして綻ぶ口を引き締めた。
【Level 2】
「……という訳でやな。フェイトちゃんはなのはちゃんの居場所を知らず、なのはちゃんも知らずとも、お互いを感じ取った。そして、それを影で支える友情あり、や。今思い出しても胸が熱うなる感動巨編やね」
「美味しいお茶をご馳走するって言うから来たってのに、どうして与太話を聞かされてるのかしらね、は・や・て!」
ちょ、アリサちゃん、角はあかん、マジ痛いって、と、はやてがアリサの制止を躱しつつ叫んでいる。
「じゃ、平らなら良いってのね。すずか、さっき貸した英和辞典、出して」
「教科書位にしておかないと危ないよ、アリサちゃん」
……殴ることは止めないんだね、すずか。
「……時間の浪費だわ、馬鹿馬鹿しい。本来の目的に戻るわよ。なのは、翠屋さんの新作、持ってきてくれたんでしょ?」
「あ、うん。お母さんの自信作なんだよ。はやてちゃん、勝手に冷蔵庫借りちゃってゴメンね」
なのはがケーキを取りにキッチンに向かいながら、はやてに声をかけた。
「気にせんでええて。ほな、翠屋さん春の新作に負けないEnglish・Teaを振舞わんとなぁ」
ダージリンのファーストフラッシュや、心して味おうてやー、と、いつの間にかキッチンに移動していた家主が言葉を返す。
昼休みになのはが翠屋新作ケーキのカタログを皆に見せ、放課後みんなで食べようという話になった。はやてが、良い茶葉が手に入ったから家で食べないか、と言い出して。はやての家で小さなティーパーティ、となったのだけど。優雅な午後のティータイムとはいかないのが、かえって私達らしい。
ふと、窓の外を見上げると、青空に桜の花びらが舞っているのが見えた。
「何を物思いにふけってるのよ、フェイト」
黄昏るには早いわよ、卒業パーティはまだ先なんだから、と言いながら、アリサが隣に腰を下ろす。
「……今のほうが言いやすそうだから、言っとくけど」
「どうかした?アリサ」
「……あんた達が頑張ってるって事、これからもそうやっていくんだって事。伝えたかったから、はやてもあんな話したんだろうけど」
機密保持とやらで話せない事の方が多いんだろうに、とアリサが言葉を続ける。私は黙って頷いた。
「信頼はしてるけど、心配はするから。危ない事が増えるんだろうし」
「……うん」
「体には気を付けるのよ。あんたは自分の事はいつも後回しなんだから。それと……。なのはの事、頼むわよ」
「……分かった。はやてには言わなくていいの?それ」
「あの子には二人分頼まなくちゃいけないから、後で」
……そうか。そうだよね。アリサには適わないな、ほんとに。
「分かってるんだよね、結局。アリサちゃんは」
私達の横で、藤色の髪が微笑む様に揺れていた。
「今の話、聞いてたの?すずか?」
顔を赤くして慌てだすアリサに、聞いていたのは私だけだから、と声を掛けつつ、すずかが私の横に座る。
「忙しくなるだろうけど、お休みの日は時々帰ってきてね」
空を見る度に、フェイトちゃんやなのはちゃん、はやてちゃんがそこで頑張ってるんだって思うから。私たちも負けないように頑張るからね。
そう言葉を繋いで私に微笑んだ。
「ありがとう、すずか。アリサの事、お願いするね」
頼む相手が逆でしょうが、それっ!と声を上げるアリサを右隣、頷きながら笑うすずかを左隣に感じながら、もう一度、窓の外を見上げた。
「お茶、入ったよー、早よう食べようや」
「お店にもまだ並んでいない、正真正銘の新作だよ」
はやてとなのはの声が重なる。
青空に舞う桜色が綺麗だと思えるから。これからも、この先も、私達は進んでいける。15歳の春に、私は誓った。
【Level 3】
制服を私服に着替えてリビングに戻ると、ヴィヴィオが待っていた。
眉間に皺が出来ている。悩みは未だ継続中らしい。
「フェイトママも読んだことあるんだ、この本」
「うん、中学の頃にね。なのは、はやてと一緒に。図書館で読んだ後、はやてが同じ本を買っていたけど……あれ?」
「うん、はやてさんから借りてきたの。無限書庫で調べようかと思ったけど、公私混同になっちゃうし」
「地球のお話だけど、大丈夫なのかな?学校では」
「ママ達のお陰で結構有名だよ、第97管理外世界」
翻訳は自分ですればいいし、と続けるヴィヴィオ。
日本語の読み書き、随分出来るようになったんだね。司書らしさが板についてきたのかな。
「……まだ司書補だってば」
小さな頃から本好きだったヴィヴィオは、無限書庫へ通う回数が日を追って多くなった。小学3年の今年に司書補の資格を取り、来年は司書を目指す。
「フェイトママはどう思う?イカロスの翼」
ハーバート・ドレイパーの哀悼も、ピーテル・ブリューゲルの達観も、どちらも有り得る事だろう。
そう思いながら、テーブルの上に置かれた美術書を見つめた。
「そうだね……。飛ぶこと自体に思うことは、これといって無いかな。私達が魔法で飛べるのを抜きにしてね、勿論。ひとつ思うのは……」
― 還る地の為に、還ってくる為に飛ぶ。それが大切だと思う -
「思いが違えば、翼を持つ意味も変わってくるんじゃないかな。イカロスが抱いていた本当の思いは分からないけれどね。ヴィヴィオなら、どう考える?」
「……私は今、検索魔法を学んでいるから、これからもそれは極めたいけれど、翔んでみたいとも思う」
「……それは何の為に、なのかな?」
後ろから近づいてきた栗色の髪が、ヴィヴィオを優しく包んだ。
「なのはママ。お帰りなさい」
「お帰り、なのは」
「うん、ただいま」
なのはの微笑みにヴィヴィオが言葉を返す。
「翔びたいって思うのはね。なのはママやフェイトママ、私が暮らす世界を、そしてまだ見た事のない世界をちゃんと見るために。大切に思うために」
― そして、いつか守れる様になりたいと思う -
「ヴィヴィオは大人になったね。あんまり急いで大きくなると、ママ寂しいよ」
後ろから抱きしめたままそう言うなのはに、ちっちゃい子扱い禁止!と返すヴィヴィオの顔がまた赤くなった。大体纏まったから後は明日にする、とテーブルの上を片付ける。
「さて、晩御飯の支度しようか。ヴィヴィオ、手伝ってくれる?」
「うん、お芋の皮は私担当ね」
私もやるよ、と言いかけたなのはを制して、私とヴィヴィオはキッチンに向かう。なのはは、ゴメンね、ありがとう、と制服を着替えに部屋に向かい、
思い立った様にその足を止めて振り返った。
「あ、そうだ。先を越されちゃったけど……」
「ちょっと待ってママ、私に先に言わせて」
口を開きかけたなのはを制してヴィヴィオが私に向き直る
「順番があべこべになっちゃったけど。お帰りなさい、フェイトママ」
「お帰りなさい。航行任務お疲れ様でした、フェイトちゃん」
二人の声が重なるその声に私も自然と笑顔になる。
そして、久し振りの団欒のために、いつもの様に挨拶を。
「ありがとう。ただいま、ヴィヴィオ、なのは」
「休暇が一週間取れたから、週末にでもちょっと遠出しようか?」
「ほんとに?じゃ、海鳴に帰ってみない?お母さん達は勿論だけど、アリサちゃんやすずかちゃんもヴィヴィオに会いたがってたし」
「アリサさん達に会うの久し振りだなぁ。おみやげ何にしよう」
「はやて達にも声掛けてみようよ。大きい任務は片付いてるってリィンが言ってたし」
私達の明日は変わらない様に見えて、少しずつ進んで。
これからまた始まる。
この作のイメージ曲(アルバム)をリンクしておきます。
Re/oblivious【完全生産限定盤】映画「空の境界」主題歌
…….原作はリリカルなのはなのに申し訳ない次第です(滝汗)