ガンゼとノナ -稚内での思い出-
私は高校時代と
新卒で就職してからの
のべ6年を
北海道最北の地の稚内で過ごしました
稚内は私にとって第二の故郷です
(第一は生まれ故郷の室蘭です)
稚内で出会った人たちが
心優しく温かい人たちだったので、
人間的に成長をさせてもらった街です
それまでは
北海道の太平洋沿岸の街で暮らしていたので、
日本海とオホーツク海に挟まれた
稚内という街は、
今まで住んだ環境とまったく違うところでした
まずは
べらぼうに雪が多い
ママさんダンプで
雪かきしたところを振り返ると、
もう既に雪が大量に積もっており、
『相殺』というのはこのことか…
と身を持って体験いたしました
次に
地元民が人間的に優しい
これは未だにうちの親も話していることなのですが、
「純朴な人たちばかり」
なのです
困っている人を放っておけない地域性のようで
「なしたのー? 何か困ってるのー?」
と、必ず手を差し伸べてくれるのです
あと、バス停でバス待ちをしているときに
知らないお年寄りの方から
「今日はいいお天気ね〜 どちらまで行かれるの〜?」
と声をかけられる
初めて声をかけられたときは
何なの?何事なの!?
と、ものすごくビックリしました
しかし、しょっちゅう声をかけられているうちに、
それにもすっかり慣れてしまいました
次が表題と絡んでくることなのですが、
海の幸がべらぼうに美味しい……!
特にウニの美味しさは
筆舌に尽くしがたいほど
私の高校の友人には、
ご家族が漁師をしている人が
何人かいました
今でも付き合いのある友人も
市街地で漁師をしている家の子で、
よくバスに乗って遊びに行かせてもらっていました
そこのお父さんが
ユニークなおじさんで、
ある夏のお天気のいい日に遊びに行った時に
「船乗れ」
と、家業で使う手漕ぎ船に
友人と私を乗せてくれたんですね
生まれて初めて手漕ぎ船に乗って
沖側まで移動してもらい、
それだけでも貴重な体験なのですが、
「ほれ、タモと箱やっから、海の中見て とってみれ」
と、木の枠で底がガラスになった箱と、
めちゃくちゃ長いタモを渡して下さったんですね
言われるがままに
箱から海の中を見てみるわけです
よーーーく見てみると
バフンウニやらムラサキウニやらナマコが
あちこちにいるんです
採ってみようと
長ーーーいタモを海に突っ込んで
動かして掬ってみるのですが、
これがね、なかなかうまくいかないのです
何度やっても
タモと獲物の距離感がつかめなくて、
タモの中に入らないのです
おじさんがその様子を見て
「イヒヒヒヒヒヒ!」と笑いながら、
タモの動かし方をサポートしてくれたんですね
そうしたら、獲れたんですよ!
バフンウニとムラサキウニが!
時代が時代なら
「獲ったど〜〜〜!!!」
と叫んでいたと思います
(「獲ったどー!」は、この話よりも後に流行った言葉です)
「ガンゼとノナ、知ってっか?」
おじさんに聞かれたけれど、何のことやらサッパリ
「バフンウニのことをこっちではガンゼって言うの ムラサキウニはノナ」
と教えてもらいました
初めて聞いた……!!
ウニを獲ったことも、
ガンゼとノナという言葉を知ったことも、
いい体験をしたな~と思ったのですが
そこからが衝撃的でした
おじさん、どこからか
小刀みたいなものを取り出して、
獲ったばかりのウニを割りはじめたんですね
そして、割ったウニを海水でちょちょっと洗って、
それを私に差し出したのです
「食ってみれ! んまいから!」
高校生の私、実はウニが嫌いだったので、
差し出されたウニに
ちょっと戸惑っちゃったんですね
一緒に乗っていた友人も、
私がウニが嫌いなことは知っていたのですが、
「経験だと思って、ほれ、食べてみれ」
とニヤニヤ笑ってすすめてくる
勧められたものを断るわけにもなぁ……
と思って、
恐る恐る口に入れてみました
「……!? ウニが口の中で溶けてなくなった……! 甘い! 潮の味もする! 何これ、めちゃくちゃ美味しいんだけど!!」
今まで食べてきたウニって何だったん!?
と思うほど、
美味しかったのです
今思えば、
友人も友人のお父さんも
この反応を見たくて、
獲れたてのウニを
食べさせてくれたんだなと思います
はじめにガンゼ(バフンウニ)をいただき、
次にノナ(ムラサキウニ)をいただいたのですが、
ガンゼは味が濃く、
ノナはサッパリした味でした
おじさんから
「どっちがんまい?」
と聞かれたので、
「獲れたてだから、どっちも美味しい」
と答えたら、
「イヒヒヒヒヒヒヒ!!」
と、またもやおじさんは大笑い
個人の好みはあるそうですが、
地元民は、ほぼガンゼを食べるそうです
……違いの分からない馬鹿正直な小娘ですみません
おじさんが言うことには
・獲れたてほど美味しいウニはない
・今まで食べてきたウニは、ウニの鮮度を保つためにミョウバンが入っているものなので、味が違う
とのこと
この時食べたウニのおかげで、
鮮度のいいウニと
塩ウニは食べられるようになりましたが、
ミョウバンが入ったウニは
余計に食べられなくなりました(笑)
この話は
もう四半世紀前の話になるのですけれど、
あの時の空や海の色、
小舟から聴く波の音、
箱から見た海の中、
獲れたてのウニの味、
未だに忘れられません
この友人と友人のご両親には
カジカやアオサ、
タコのとんびこ、
利尻昆布の美味しさも
教えていただくことになるのですが、
それはまた別の機会に
人生の中で
何にも代えがたい経験をさせてもらった
稚内のお話でした