9夜◇世を経ても逢うべかりける契りこそ~藤原清輔朝臣
世を経ても 逢うべかりける 契りこそ
苔の下にも 朽ちせざりけれ
(意訳:時代を越えて、めぐり逢うことになっていた縁というものは、あなたが既に亡くなっていても、朽ちないのだなあ。)
藤原清輔朝臣 玉葉和歌集
あの日、あなたに逢ったこと。
世を経た契りというのでしょうか。
新緑まぶしい石水院。光を透かす青もみじ。
誰もいないお堂の中、澄んだ風をうけながら、私は外を眺めていたのです。
少し離れた、左後ろに感じた気配..
あらわれたのは、あなたですか。
慈愛に満ちてあたたかく、まるであたりを照らすよう。思い返せば、あなたの心のありよう、そのものでした。
そっとかがんで、揺れる青葉を、一緒に眺めてくれましたね。肩ごしの優しいまなざし、生涯忘れないでしょう。
振り向けば消えてしまいそう、祈るおもいで、私はただ、前を見つめていたのです。姿は見えず、言葉も交わさぬ、ほんの一刻。
されども、確かに逢ったといえるのは、心を感じ、同じものを共に見つめる瞬間こそ、人と人が逢うということだからでしょう。
時を越え、苔の下にも朽ちない契り。
あの日、わたしはお堂の縁に、すわっていました。