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女優・松たか子の魅力を照らす松村北斗の献身 映画『ファーストキス 1ST KISS』
29歳の高畑カンナの恋。
45歳の硯カンナの恋と、恋からこぼれたこころのかけら。
誰かを好きになる、好きでいるということを描くのにこれほど大胆で丁寧なタッチを使い、わたしたちを魅了してくれる女優が、居ただろうか。「好き」のグラデーションはこれほど色彩豊かなのだと、まるで世間話をするようにさりげなく見せてくれる女優が、居ただろうか。
松たか子+脚本家・坂元裕二。『カルテット』『大豆田とわ子と三人の元夫』と言う名作ドラマを生んだタッグへの期待値は、観る前から否が応でも爆上がり。同時に「たぶんあんな感じなんだろうな」というステレオタイプさも頭に連れてきてしまう、厄介な組み合わせだ。だが本作は、松たか子さんの芝居は、そんな厄介さを軽やかに超えていく。
主人公カンナの夫・駈を演じる松村北斗さんが、この跳躍に大切な役割を担っている。彼は実に不思議な役者だ。芝居の上でけっして松さんの横に並ばない。2歩ぐらい引いたところにいる。まるでその距離感が松たか子さんをもっとも輝かせると確信しているかのよう。映画の後半で彼女が放つ見慣れぬ光は、きっと月のように寄り添う彼がいたおかげで生まれたものだ。
「女優」はたいてい、主役をサポートする綺麗どころとして、もしくは現実離れしたスーパーマンとして物語の中に存在してきた。けれど女優・松たか子は、どちらの「圧」も華麗にスルー。したたかでしなやか。フェミニンでマニッシュ。キュートで男前。緩急自在。「いまを生きるひと」の複雑な内面を時にコミカルで軽やかに、時に美しくまっすぐに見せてくれる。そんな的確な松たか子さんの芝居と、やや神経質なほど繊細な松村北斗さんの芝居が化学反応を起こす瞬間が、幾度となく訪れる。たまらない。
亡くなった愛する人を救おうと、何度もタイムトラベルをしてあがく。どこかで聞いたことのある手垢のついたストーリー。「型」に陥ることなくそこに生きている駈とカンナをひたすらに見つめ、二人のこころの機微を丁寧に映像ですくい上げてくれたのは、塚原あゆ子監督だ。ほんとうに『ラストマイル』を撮ったのと同じ人なのか?じんわりとわたしの心に沁みていく「なにか」からは、『ラストマイル』とまったく違う感触が伝わってくる。この手触りが、わたしはとても好きだ。
あと何回、映画館で駈とカンナに会えるだろうか。
スマホのスケジューラを見つめながら、今日も悩んでいる。
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