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三浦春馬の芝居に漂う”やさしさ”を堪能する 『tourist ツーリスト ホーチミン編』

TBS・テレビ東京・WOWOWの3局が合同で制作したオムニバス形式のドラマ『tourist ツーリスト』。3話構成になっており、これまで第1話バンコク編、第2話台北編について、この場で綴ってきた。

だが、第3話のホーチミン編の事を、私はなかなか書けずにいた。何故か?
3人の主人公の中で、3話のカオルの立場がおそらく自分に一番近くて、胸をぎゅっと掴まれるような感覚を、強く感じてしまうからだと思う。

【ホーチミン編 あらすじ】
第3話は、酔っぱらってホーチミンのクラブで踊るカオル(尾野真千子さん)と、放っておけずに彼女に声をかける天久真(三浦春馬さん)との出会いから始まる。彼女の落としたスマートフォンを拾った天久真は、翌日バスの中から、たまたま歩道を歩いている彼女を目撃する。

バスを降りて、彼女を追いかけてスマートフォンを渡したあと、二人でベンチに座って、バインミーを食べる。彼女は天久真に語りだす。浮気夫を追いかけて、わざわざホーチミンまでやってきたのだと・・・

第1話バンコク編、第2話台北編の感想はこちら。

見どころその1:天久真の「大丈夫?」の破壊力

第3話の天久真から漏れ出ているのは、第1話のような「危険な色気」でも、第2話のような「理想の彼氏感」でもない。


すべてを包み込んでくれるようなやさしさ」である。


彼のやさしさが最も色濃く表れているシーン。それは、夫の浮気相手(成海璃子さん)とアオザイ店に行き、美しいアオザイをカオルが試着する場面だ。

カオルは、ここで浮気相手と夫が、彼女と夫の思い出の教会へ行くことを知る。教会の名前を聞いたとき、カオルの表情がわずかに強張る。ほんの一瞬のわずかな変化。すぐに気を取り直して、話の調子を合わせるカオル。

ここで、真はカオルに声をかけるのだ。「大丈夫?」と。
その声色は、ただひたすらにやさしい。まるで、カオルの気持ちにそっと寄り添ってくれているかのようだった。

私は、不覚にも泣いてしまった。誰もいないところでこのシーンを見ると、どうしても目の奥が勝手に熱くなってくるのを、避けられない。

母になり、夫との関係は同志のようなものに変わり、ともに子どもと一緒に家族として、互いの人生を支えあっていこうと思っていたのは、自分だけだったと知った時のカオルの思い。いったいどれほど悲しかっただろう。

何が悪かったのだろうか。どこでボタンを掛け違えたのだろうか・・・頭にそんな思いがよぎったに違いない。

カオルの心の奥底にある傷口に、浮気相手と夫は「夫婦二人の思い出の上書き」という塩を塗りたくる。

塗りたくられてひどい痛みを感じるカオルの一瞬の表情を、天久真は見逃さない。

真がカオルのそばにいてくれて、本当に良かった。

見どころその2:「食べる」という行為が意味するもの

二人でバインミーを食べる場面に戻ろう。

カオルは言う。「ベトナムの食べ物が好き」だと。
真は言う。「食べ物の相性って大切なんだってよ」というような意味のことを。

私はこの言葉を二通りに受け取った。

一つは、その土地の食べ物になじめるかどうかは、その土地を生活の基盤にするとき、とても大事な要素になるということ。もう一つは、同じ食べ物を同じように「おいしい」と思えるカップルであれば長続きする、ということ。

この後、真とカオルはホーチミンの市場のような場所で、たくさんベトナム料理を頼み、笑いながら「あれが気に入った」など、わいわいと食卓を囲む。二人とも、たぶん食に対する趣味が合うのだろう。そこにやってきたカオルの夫の浮気相手が、真とカオルをカップルだと勘違いするほどに。

真のカオルに対する接し方は、第1話のサツキに対するものとも、第2話のホノカに対するものとも違う。真は、カオルに対して居心地の良さを感じているように見えるのだ。少しだけ自分の生い立ちの事を話すのも、そのせいではないかと思っている。

カオルとカオルの夫には、こんな瞬間はあったんだろうか。少なくともきっと、今は同じものを食べても同じように「おいしい」とは思わないのだろう。

そして、浮気相手とカオルの夫は、同じものを食べて同じように「おいしい」と感じるのだろうか。

ベトナムの食べ物が肌に合うと感じたカオルは、物語終盤でベトナムへの移住を決める。

見どころその3:バカリズムさんのクズ男さ加減

カオルの夫を演じているのは、バカリズムさんである。まあ、今すぐホーチミンへ行って首を絞めてやろうかと思うほどのクズっぷりだ。

二人の思い出の場所。一緒に泊まったホテル、プロポーズした教会。そういう場所に浮気相手は行きたがり、一つ一つ思い出を上書きしていこうとする。

彼は何故、止めないのか。
正直言って、止めない意味がまったくわからなかった。彼自身不愉快ではないのだろうか。

そして、カオルとの間に何があったのかは分からないが、ひどい言葉をこれでもかと投げつける。

浮気の証拠が欲しいんだろと、ホテルの領収書を無理やり持たせる。
関係ない人を巻き込んで、そういうところがもう無理なんだよ!と怒鳴る。

夫の浮気相手は、当事者以外の何物でもない。なのにカオルに「僕と君との問題で彼女は関係ない」と言い放つ。ふざけたことを言うもんじゃないと、私の怒りのボルテージが増す。仮にも子どもの親なのではないのか。

しかし、そんなふざけた夫にカオルが言った一言は、「ごめんね」だった。

カオルは、自分が我慢して頑張っていれば、夫が変わってくれるかもしれないと一縷の望みを抱いていたのではないだろうか。だから、最後の希望を胸にホーチミンへやってきた。自分の思いが独りよがりな幻想にすぎないと分かった時、カオルは言った。「ごめんね」と。

真でなくたって、カオルをぎゅっとしてあげたくなるではないか。

終わりに 

もう一つ、最後に真のやさしさが色濃く感じられる場面について、語らせてほしい。

カオルは、もう夫との関係がどうしようもなくなっていることを突き付けられ、夜のホーチミンの街を泣きながら彷徨う。真が後ろから追いかけて、抱きしめる。

カオルを真が抱きしめるわけだから、ラブシーンと言えなくもない。
だが、二人の間にエロスは漂わない。例えるならこの場面の二人は、年齢の逆転したきょうだいのような感じだ。

真は泣きじゃくるカオルを抱きしめて、頭をボンポンと軽くたたく。大丈夫だよ、と語り掛けるように。

第3話の天久真は、むせかえるような色気を放つオトコから、相手を包み込むやさしさにあふれた青年に変わっていた。

今、天久真はどこを旅しているのだろうか。どんな女性と関わって、どんな魅力をその女性に見せてくれているのだろうか。

いずれにしても、彼らしいやり方で、悩める女性の背中を押してくれているに違いない。どこかの国で、もしかしたら天久真に出会えるのではないかという気さえしてくる。

俳優・三浦春馬が魅せる大人の男の魅力はさまざまだ。映画『真夜中の五分前』、『アイネクライネナハトムジーク』、『コンフィデンスマンJP ロマンス編』、『天外者』。テレビドラマでは『ダイイング・アイ』、『TWO WEEKS』、そしてこの『tourist ツーリスト』。

どの作品からも漏れ出てしまう彼の「やさしさ」が、tourist第3話と絶妙にマッチしているように、私には思えるのだった。


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はるまふじ
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