ヒロインが映し出すもの 行定勲著『映画女優のつくり方』
女優って、小麦粉みたいだな。
行定勲監督の著書『映画女優のつくり方』を読んだ最初の印象だ。パンにもうどんにも天ぷらの衣にもなってみせる万能さと、産地や品種でまったく異なる個性が、違和感なく同居している。
行定勲は、どんな風に小麦粉を使う料理人なのかを垣間見ることが出来る本。「へえ」とか「ほお」とか、ページをめくるたび口にしそうになる。いかん。ここは電車の中だ。我に返ったり没入したりを繰り返しているうちに、あっという間に読み終わった。体感30分。気づけばまた最初のページをめくっていた。
行定監督の「語りおろし」
この本は行定勲監督が、作品と出演した女優について語る形になっている。映画監督としてどうヒロインを見つめているか。作品のことや女優のことを語っているようで、見えてくるのは「映画監督・行定勲」自身である。
そこにはてらいも、虚飾もない。あるのは少しの自己顕示。いや、少し違う。そんなに声高な主張ではない。監督がまっすぐな姿勢でただそこにいる、そんなイメージだ。
行定監督の女優を見つめる視点
繰り返し使われる印象的な言葉がある。「フラット」と「ニュートラル」。女優に対する褒め言葉として何度も繰り返されるこの言葉に、監督自身の女優観がダイレクトに映し出されている。
と同時に、「フラット」で「ニュートラル」なのは監督としての行定勲自身なのではないか?とも強く感じた。ご本人のリアルはいざ知らず。
作品を彩る女優たちは、どう感じていただろう。
錚々たる女優たちの珠玉エピソード
吉永小百合、柴咲コウ、綾瀬はるか、竹内結子、沢尻エリカ、薬師丸ひろ子、芦田愛菜、有村架純に松岡茉優。名前を並べただけでもクラクラしそうな彼女たちは、現場で実に「フラット」。だが同時にとても個性的だった。具体的なエピソードのひとつひとつが、キラキラ違う輝きを放っている。次の出演作が楽しみになる。
終わりに 信頼関係がつむぐもの
聞き手と構成を担当されたのは、ライターの相田冬ニさん。行定監督がここまで無防備に自身をさらけ出すのは、おそらく相田さんと行定監督との信頼関係あってのことだろう。いや、もしかしたら監督は誰にでもこういう人なのかも。どちらでも良いか。「フラット」で「ニュートラル」な行定勲監督の撮る映画を、また観たくなっただけで充分だ。
最後に、読み手を信じる書き手だからこそ描き出せる「映画監督・行定勲」を見せてくれた相田さんに、心から感謝したい。
次作『リボルバー・リリー』の公開を、ワクワクしながら待つことにしよう。
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