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コロナで悪者になったライブハウス

世の中にはバンギャルと呼ばれる人種がいる。
ヴィジュアル系バンドの追っかけをしている人たちである。
日本武道館やアリーナクラスを埋める大きなバンドから、
動員30人も満たないバンドまで、星の数ほどいるバンドの中で
お気に入りを見つけてひたすら追いかける。

自宅から近いライブハウスはもちろん、
コアな方だと新幹線や夜行バス、飛行機を使って
北海道から沖縄まで飛び回る。
もっとすごい方は国境すらも越えて、お目当てのバンドのライブに通う。

私もそんな一人だった。どちらかというとコアより。

年間で通うライブ本数は100本弱程度。
その日の気分で新幹線や飛行機に乗って各地に飛び、
バンドさんによってはツアー全部についていく。
ライブはもはや生活の一部だった。
去年のあの日まで。

2020年2月中旬 ライブハウスでクラスター発生

少しずつ少しずつ感染者が全国で出てきて
コロナが今よりもっと未知のウイルスで
みんなの恐怖は今よりずっと大きくて、
あっという間にライブハウスは悪者になった

けれども、それでも、あの時はまだライブを続けるバンドが多かった。
私も昨年の2月29日までライブに行っていた。
そしてその日、安部首相の会見があったことを受けて、
翌日のライブが中止になることがその場で告知された。

この頃にはライブハウスが報道で取り上げられることが非常に多くなり、
規模の大小を問わず、ライブやコンサートは軒並みつぶれていった。
私自身が3月以降持っていた10枚を超えるチケットも
すべて返金もしくは延期になった。

確かに、今考えると環境としては最悪だと思う。
音が漏れたら困るから、ライブ中の換気は絶望的。
動員の多いバンドだとお客さん同士の距離はゼロ。
メンバーを呼ぶために声を張り上げる。
密接、密集、密閉。密のオンパレード


ライブハウスは苦境に立たされた
もともとライブハウスが儲かっている時代でもない。
平日の夜は、通常時だって
一クラス分にも満たない動員で開催されることも多々あった。
それが全く営業ができなくなってしまった
クラウドファンディングを募ったり、
生き延びる手段をなんとか探す会場もあったけれど
コロナの影響で閉店する場所も少なからずあった。

あれから一年。
相変わらずコロナは猛威を振るっている。
けれども、少しずついろんなことがわかってきて、
昨年の初夏あたりからは、配信の活用はもちろん、
声を出さない、ソーシャルディスタンスを取る、ライブ中に換気時間を取る
検温、マスク着用での鑑賞、ドリンクの配布時間を決める等、
様々な対策を取り、有観客でもライブハウスは営業をしている

・・・でも私はというと、何年も通い続けていたライブハウスへ
ぱったりと行かなくなっていた

去年の今頃は、すぐに元に戻るだろうと思っていたし、
ライブがスタートしだしたら、また足繫く通うのだろうと思っていたのに
実際そうはならなかった

現在、私はテレワークで仕事をしており、
仕事で外出する機会がほぼない。
これでもし私がライブハウスにいったら。
たとえ、買い物中や、たまの通勤時に感染したとしても
ライブハウスのせいになってしまうだろうと思った。
それだけを極度に恐れたわけではないけれど、
いつの間にか私にとって「ライブハウスに行かない」が
普通になってしまっていた
のだ

そんな中、ほんの気まぐれで、
ちょうど一年ぶりにライブハウスに足を運んだ。
大きな決意があったわけでも、
どうしようもなくいきたくなったわけでもない。
知人がチケットを余らせていたので行くことにした。

私が通っていたバンドさんは規模があまり大きくない。
お客さん同士顔見知りになることも多い。
会場に一年ぶりに行っても顔ぶれは変わってなかった。
それぞれの事情で来られない方もいて、
全体のお客さんの数は減ってはいたけれど、
久しぶり、お帰りと、見知った顔から沢山の声をかけてもらった。

そしてライブスタート。
一年前と変わったのは、隣のお客さんとの距離を開けること、
そしてメンバーの名前を誰も呼ばないこと。
代わりに私たちは精一杯の拍手を送る
お客さんの声が全くない、ある意味静かなライブ
とても新鮮だった。

しかしステージ上の彼らは一年前と変わりなく、
大きな熱量でバンドの音を出し、
会場内も一年前と同じように笑顔に包まれていた。

私はもともと、バンドそのものを見るのと同じくらい、
会場のお客さんの顔を見るのが好きだった。
全員が笑顔でいられる空間。
声は出せないながらも、変わらない笑顔がそこにあった。

二時間で数千円から一万円台のチケットは、決して安くない。
でもそれを払って会場に行き、ライブハウスの中では
皆が笑顔で、ステージ上の彼らに視線を送り続けている。
他では見ることが出来ない眺めだろう。

自分がどっぷりその中にいなくなったことで、
より一層、その場所の大切さと、凄さ、特別さを感じた。
こんな鬱々とした毎日にあっても、会場内全員が笑顔になれる
上演中一秒もこぼれることなく、ずっと幸せが満ちている空間
他にそんな場所を、私は知らない
ライブハウスはとても身近なエンターテインメントで
それは見る側を心底幸せにするのものだと、改めて思った。

社会がどんな状況であったとしても多分
あの空間を求める人が、いなくなることはないんだろう。

まだまだ厳しい状況は続くと思うけれど
変わらず彼らには音を奏で続けてほしい。

そして、彼らが音を出せる唯一の場所
それがライブハウス
悪者になってしまったライブハウスは
みんなを幸せにするヒーローだと思う。

これからもどうか、そんな空間が続いていきますように。

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yulia
日々を生きていく力にします。本当に、ありがとうございます。