そこに在ったかもしれない日常の風景『KYIV(キーウ)』
ロシアがウクライナへの軍事侵攻を開始して7か月。数日前のニュースによると、プーチン大統領は、30万人のロシア人を戦場に送り出すことができる部分的な動員令を発表したといっていた。
2022年3月31日、日本政府はウクライナの首都の呼称を「キエフ」から「キーウ」に変更した。ウクライナとの一層の連帯を示すための行動らしいのだが、政府がそういったスタンスを示す以前に、私は「キーウ」という表記を都築響一氏のメールマガジン(ROADSIDERS' weekly 2022/03/16号 Vol.493)で目にしていた。
ウクライナを訪れたことのない自分にとってはありがたい情報だった。連日のニュースで戦場の悲惨な映像を眺めながら、それまで知らなかった街の名が、変わり果てた姿とともにどんどんインプットされていくのが悲しかったから。ここでは具体的な内容にかかわる引用を控えるが、「ひとびとが生きる場所としてのウクライナ、キーウの空気感を少しでも伝えられたらうれしい」との言葉が添えられているとおり、そこには戦争とは別の顔をしたウクライナが存在していた。
こちらの書籍は、キーウの出版社〈Ist Publishing〉より2021年に刊行された『KYIV』。京都の書店〈誠光社〉のオンラインストアで購入。まず、イラストレーションや装丁の美しさにひかれた。
ゆたかな色彩の風景画と、モノクロの線画で描かれる街の人々。そこに描かれている日常と、リアルタイムで起こっている出来事とのコントラストにくらくらする。この感情をどんな言葉で表現すればいいのかわからない。日本人である自分が読むからこそ、いろいろな意味での現実を突きつけられ、考えさせられる。
この本にまつわる英語のインタビュー記事を、翻訳サイトなんかを使って読もうとはするものの、すぐに挫折してしまう。まだまだ「読んだ」とはいえないので、読みつづけていきたい。
追記:2022.9.29
本記事の投稿後、『KYIV』の著者であるSergiy MaidukovのInstagramアカウント(@sergiymaidukov)を見つけた。3月以降に投稿されている作品を見ると、戦時下の様子がわかるものも多く、色彩のトーンも変わっている。爆撃を受けたビルと立ち上る煙。ロケットに粉砕されたスタジアム。兵士と戦車。遺体を運んでいる隊員。書籍のなかで描かれていた人々の、そこに在ったはずの日常を思う。
【参考】
◼︎ ROADSIDERS' weekly
◼︎ウクライナの首都等の呼称の変更(外務省ホームページ)
◼︎朝日新聞デジタル連載 「キエフ」から「キーウ」へ ー 地名は誰のもの?