テディ・Dと実験機9-サイレント・ネオ-boy meets girl-
不意をつかれたムドーは、素早く左肩にあるシールドで防御を試みるも、一瞬で切り替え、上体を目いっぱいにそらして光線をかろうじて回避した。
光線に撃ち抜かれた盾は一瞬で夏のアイスのように溶けてなくなり、ムドーの乗るCAは勢い余って地面に倒れてしまった。
9
「し、しまった!」
ムドーに戦慄が走り、額からたらりと冷たい汗が落ちる。
致命的な隙である。ここで光線でも打たれれば、あの世行きが確定する。 ムドーはもはや実験機を見る余裕もなく、あてずっぽうに地面をごろごろと転げまわってから、体制を立て直して立ち上がった。そのわずか数秒の時間が、どれほど長く感じられたか。しかし、それは何とか成功したのである。
なぜか—実験機のコクピットでは異変が起きていた。
テディ・Dが息を荒くさせ、頭を抱えて苦しそうな表情をしている。
一瞬でテンションをマックスにあげた戦闘で異様なほどのアドレナリンを出していたテディ・D。超感覚を極限まで働かせた代償は大きく、意識が朦朧としてきたのだ。
「薬を…薬をちょうだい…お願い、ねえ、お願いよ」
テディ・Dは手を震えさせながら、後ろにいるオジャムの胸ぐらをつかんで懇願した。しかし、オジャムが薬を持っているわけもなく、それはゴサクの家にあるテディ・Dの黒いかばんの中にしまわれていたのだ。
「テディ・D、しっかり、しっかりするんだ!」
オジャムはテディ・Dの肩に手をかけ、軽くゆするが、苦しそうな表情は増すばかりである。
実験機は突然動きを止め、赤々と燃えていたモノアイは、まるで命を失ったかのように色を失い、黒くなるとやがて光を失ってしまった。
命拾いしたムドーは、動きを止めたその隙だらけの実験機を前にして、ほんの少しだけぼんやりしていた。
今、ビームライフルで恐ろしいモノアイを持つ頭を射抜けば、勝利は目に見えているというのに……。
それから、少しして思わず我に返った。
「私としたことが……任務を忘れて、孫娘もろとも殺すところだった」
ムドーはそういって苦笑したが、実際は手を抜く余裕など全くなかっただけであった。
「とにかく、3機を失ったは痛手なれど…白影殿、任務ははたせそうだ!」
通信をつかって陸戦艇の白影にムドーが知らせた。
「てこずらせましたな…しかし、さすがはムドー先生、相手の電源をシャットダウンさせるとは、このような戦法、一度たりとも見たことがございませぬ」
「白影殿、世辞は無用だ。ただ、運が良かっただけのこと…陸戦艇で孫娘ごとこの化け物を収容してしまうのがよかろう。孫娘はその後、つかまえればよい」
ムドーがほっと息をはきながら、安堵の表情を浮かべた時だった。
サイレント・ネオ-boy meets girl-(テディ・Dと実験機全10話・先行配信中)
BGM
-登場人物-
テディ・D:ゴスロリの格好をし、腕には9.8と数字をほり自死がんぼうがある少女。
オジャム:お飾りの提督をしていたが、父親をころされたあげく、砂漠に追放された。命からがら助かり、ゴサクの家で豚小屋などを掃除して糧を得ている。心優しい少年。
サシャ:誘拐船でオジャムと出会った6歳の女の子。勘が鋭く、ゴサクに気に入られている。その正体は…!?
ムドー:月歌だけでなく、コロニー連合などで十数年の間、傭兵として戦場をわたりあるいてきた猛将。残酷な攻撃をすることもあるが、騎士道と義理を尊ぶ武人。シュトライツァー党では義兄弟のシュトライツァーの副将として活躍、北国随一の武将とまで呼ばれるにいたった。
ムサシ:地球(テラ)・ネオ東京出身の19歳の青年。愛機サイレント・ネオをあやつり、第5次地球・コロニー戦争において100機落としを達成、スーパーエースに認定された。しかし、戦う意味を見失い、月歌に放浪の旅に出る。
ソック:ムーンキングダム・斥候隊副隊長。ボーナスをなくしてしまい、恐妻トド子に家を追い出された悲しき中年男性。
マギー教授(おねえ)とみなみちゃん(アイドル):一年前に地球(テラ)から月歌に向けて出発したが、未だに到着せず。