喉の奥が、熱くぎゅうと縮こまる。 その感覚がなによりも不快で、私は泣くことが嫌いだった。 鼻で息をするのが苦しく、嘔吐くように口から空気を取り込む。 その度にヒ…
窓を開けると、そこには青春があった。 ランドセルを背負った男の子と女の子が手をつなぎ、なにかを話しながら歩いている。 アパートの二階にある私の部屋からは、二人のつ…
ケノヒさんが書いた小話(頭おかしい)を演じてみました。 (リビングに妻と夫。テレビを見ている。妻はポテトチップスを食っている。一方夫は、テーブルの上で腹筋して…
いい気なもんだな、と思う。 人がこんなにもぐちゃぐちゃした感情を抱えているのに。そんなのしったこっちゃないなんて顔して。 おまえだよおまえ。私の目の前でへらへら笑…
僕が愛しているのは、僕の家にいる「人型家政婦ロボットM-19」だ。僕の3歳の誕生日から15年間、ずっと僕のそばにいてくれた。仕事で忙しい両親よりも、ずっとずっと。 僕はそ…
満員電車までいかずとも、席はすべて埋まっていた。 べつに、10分程度で降りるからいいもん、と誰にするでもない言い訳を頭に思い浮かべて、適当なつり革に手をかける。 …
私は「寝落ちの瞬間」が好きだ。 あの、現実の私と、空間とが入り混ざるような感覚がたまらなく癖になる。 とはいっても、「気づいたら寝てた」のように、本当の意味での「寝落…
花音
2022年8月28日 20:54
喉の奥が、熱くぎゅうと縮こまる。その感覚がなによりも不快で、私は泣くことが嫌いだった。鼻で息をするのが苦しく、嘔吐くように口から空気を取り込む。その度にヒッ、と情けない声が漏れてしまうのが恥ずかしかった。誰も聞いちゃいないけれど。美しい玉のような涙を、綺麗に流す女にはなれなかった。誰も拭ってはくれない、流れっぱなしの涙を可哀想に思う。ああ、私が美しい女であれば、優しい指先に掬われ
2022年8月8日 21:58
窓を開けると、そこには青春があった。ランドセルを背負った男の子と女の子が手をつなぎ、なにかを話しながら歩いている。アパートの二階にある私の部屋からは、二人のつむじがよく見えた。表情は見えないが、きっと楽しい時間なのだろう。女の子の笑い声が、小さくなっていく二人の後姿から響いていた。なぜか、鼻の奥がツンとした。久しく感じていない感覚だった。そうそう、涙がでる前には、鼻の奥が痛むんだったーー
2021年8月10日 22:30
ポテチと腹筋
花野
ケノヒさんが書いた小話(頭おかしい)を演じてみました。(リビングに妻と夫。テレビを見ている。妻はポテトチップスを食っている。一方夫は、テーブルの上で腹筋している)妻:ねえ、あなた。カエルとってきてよ、カ・エ・ル。私のこと、愛してるんでしょ、ならとれるわよね?夫:ふん、ふん、ふん、ふん。妻:ねえ、聞いてる? ボリリィ、聞いてる?夫:ふん、ふん、ふん、ふん。なんだ奥の様よ。私は今、フン
2020年7月19日 00:31
いい気なもんだな、と思う。人がこんなにもぐちゃぐちゃした感情を抱えているのに。そんなのしったこっちゃないなんて顔して。おまえだよおまえ。私の目の前でへらへら笑いながら喋ってるおまえ。わかってるか?にこにこ笑って返事してる、私の心が穏やかだとでも思ってるのか?思ってるだろうな。言ってないもんな。言わなきゃ伝わらねえよな。いい気なもんだよ。ああでも…。もしかしたら、目の前でへらへら私に喋りか
2020年7月13日 23:25
僕が愛しているのは、僕の家にいる「人型家政婦ロボットM-19」だ。僕の3歳の誕生日から15年間、ずっと僕のそばにいてくれた。仕事で忙しい両親よりも、ずっとずっと。僕はそのロボットを「メアリー」と呼んだ。3歳のとき、よく見ていたアニメのヒロインの名前だった。家政婦型ロボットは、今から50年前に一般家庭にまで普及した。当初は「人型」とまで形容されるような様相ではなかった。ドラム缶のような寸胴なボ
2020年7月13日 22:25
満員電車までいかずとも、席はすべて埋まっていた。べつに、10分程度で降りるからいいもん、と誰にするでもない言い訳を頭に思い浮かべて、適当なつり革に手をかける。今日は雨が降っていた。梅雨。朝から雨。今も雨。ずっと雨。仕事中、営業で走り回っていた私のヒールの中はグチャグチャになっていた。つま先を丸めると、ぐちゅ、となんとも言えない不快感…。でも、癖になって何度もやっちゃう。実は快感なのかな?私、
2020年6月4日 23:49
私は「寝落ちの瞬間」が好きだ。あの、現実の私と、空間とが入り混ざるような感覚がたまらなく癖になる。とはいっても、「気づいたら寝てた」のように、本当の意味での「寝落ち」に陥ることが多く、「寝落ちの瞬間」にありつけることはあまりないのだが。あまりないからこそ、「あ!今、寝落ちしてる!」と、最後の最後、空間に溶けだす"私"が思考する瞬間が、たまらなく好きなのである。似たような感覚だと睡眠から覚