
面接を受ける立場から、面接する立場になるまでの長いお話(2)
沢山履歴書を書いて送って、それが返送されてきて・・また短期でアルバイトを始めて・・・その繰り返しで3年ほど過ぎた。その間簿記試験に合格し、パソコンも勉強した。
今日の話は、前回からの続きになります。
運が向いてきたのか、それとも・・・
ある日新聞の折り込みの求人を見ていたら、自転車で10分くらいの距離にある小さな建築会社がパートの一般事務員を募集していた。
自宅から近いと昼休みは一度家に帰ることができる。
建築業や不動産業避は避けていた業種だけれど贅沢は言えない。
経理事務ではないけれどパソコンを使った事務経験を積むことができる。
そう思った私は、もうどこでもいいから事務職として働きたいという気持ちの後押しもありすぐに履歴書をその会社へ送った。すると翌日面接の連絡がかかってきた。
そこは住宅街の真ん中にある小さな会社で、社屋は普通の住宅だった。
「え? ここ・・・???」
本当にここで間違いないのか、あたりを何度もウロウロして確認をした。表札をよくみると「○○株式会社」と書かれているので、間違いはないようだ。
面接をしてくれたのは、専務さん。一見強面だったのでいつも以上に緊張してしまったが、話してみると穏やかで上品な男性である。
事務員は女性2人。面接時に事務所にいた人は経理事務をしている人だった。もう一人の女性は外出中で、彼女の後任として今回募集を出したという事だった。
面接当日の夕方には採用の連絡があった。
「明日から出社をお願いしたいのですが」と、電話口で女性が言った。「え? 明日からですか・・・」翌日から勤務開始ということに私は驚いた。
実は、面接へ行ってみて気が進まなかったので仮に採用されても辞退しようかと思っていたのだ。理由は、社屋は社長のご自宅であること(アットホームすぎる)、1階事務所の雰囲気がどことなく暗かったこと、面接で前任がどのような人なのかを確認できなかったこと。
採用の連絡を受けて数秒迷ったが、これまでの就職活動の大変さが頭をよぎり、私は「明日からよろしくお願いします」と承諾をした。
「やっと、私を認めてくれる会社に出会った」 ずっと欲しかった採用という言葉。
ところが運が向いてきたというより、この採用を受けたことで私はますます自信を無くしてしまうことになる。
会社が採用を急いでいた理由
今から考えると、駅からは離れているアクセスの悪い住宅街、応募者が私以外にいなかった様子、時給は相場よりやや低め。正直、応募があれば誰でもで採用されたように思う。
私だから採用したのではなく、他に誰もいなかったので私が採用されたのだ。
入社した当日に、前任者の女性が2週間後に退職し新しい会社へ行ってしまうという状況だという事を知る。以前から募集をしても応募がなかったのか、彼女の転職先が急に決まったのかどうかは分からない。
彼女は、すでに次の会社の研修をうけているので毎日は出社しない。実質仕事を教えてもらえる期間は2週間もないのに、引継ぎはとても雑だった。
もう時間がないというイライラを私にぶつてくる。システムを移行中らしいが具体的には進んでいない状態、前のファイルを見ればいいと言われても場所の説明がない、業務の指示が具体的ではないこともあった。
例えばあるExcelブックを開くと中に数式が入ってる列があるのだが、PCの表示がおかしくてところどころ消えている表は、はじめてその表を見た私には何をすれば良いのか見当がつかない。
表示がおかしいのですが・・・と質問をすると、「大体この辺りをクリックすればいいの。パソコンを半年触った経験があると聞いたから採用したのに、そんなこともわからないの?」
「大体」って、なんやねん?!と、腹が立ちつつも、自分のスキルの無さが悔しかった。
就職活動で失っていた自信が今回採用されたことで少し回復したが、引継ぎを受けていくにつれ私はよりいっそう自信を無くしていくようになる。
捨てる神あれば拾う神あり
働いてみて2日で、この会社・・というか前任者とは合わないと感じたものの「辞めたい」と言い出せなかった。勤務開始して5日目、この会社で長く働くイメージがどうしてもわかず、朝一番に専務に退職の意思を伝えた。
専務は、今日の仕事を終えたら後の事は気にしないで安心して退職してください。忘れ物をしないようにね。慣れない中大変だったね・・とねぎらってくれた。
終業時間になり、専務に挨拶をした。
「急な退職になってしまったので、これまでのお給料は要りません。ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした」と私がいうと専務は、
「いえ。働いた分はちゃんと受け取ってください。必ずお振込みしますので振込先をここへ書いていただけませんか」とおっしゃった。
私はその場では書かず、家に用紙を持ち帰り必ず郵送すると答えたが、実際に郵送したかどうかは覚えていない。
それから、2ヶ月ほど過ぎた。
私はちいさな監査法人の総務部へ経理補助のパート社員として採用された。資格取得後も簿記の勉強を続け、パソコンの操作ももう一度勉強し直した努力が実を結んだ瞬間だった。
時給も、これまで働いてきたパートの時給の中で一番高く、通勤定期代も前払いで半年分いただけるとのことだった。
雑居ビルの一室とはいえ、広々とした清潔なオフィスに入った時は本当にうれしかった。勤務地も、大阪のオフィス街の中心だ。
今回は、私が面接に来る直前にほぼ採用が決まっていた女性がいたそうだが、私の事を気に入ってくれた面接官が、是非私をと強く推してくれた事を後になって知った。
仕方がないから私を採用ではなく、私だからこそ採用された。とてもありがたい事ではないか。
ここからがキャリアアプのスタートだ。十分な経験を積んで、30歳代のうちに必ず経理事務の正社員として再就職するのだと、私は気を引き締めた。
ところが、1年もしないうちに、私はまた就職活動を余儀なくされることになる。この監査法人は、代表社員の先生方の急な方針転換で事務所を閉鎖することが決まったからだ。
(つづく)