見出し画像

her/世界でひとつの彼女

鑑賞時の感想ツイートはこちら。

2013年のアメリカ映画。近未来のロスを舞台に、出て行った妻を想い傷心の代筆ライターと、女性の人格を有した人工知能型OS(AI)との恋を描いた、SFラブストーリー作品です。原題 "Her"。

画像1

監督は『マルコヴィッチの穴』、『かいじゅうたちのいるところ』のスパイク・ジョーンズ。出演は、『ジョーカー』のホアキン・フェニックス、『ロスト・イン・トランスレーション』のスカーレット・ヨハンソン、『ドラゴン・タトゥーの女』のルーニー・マーラ、『魔法にかけられて』のエイミー・アダムス、ほか。

秀逸なアイディア! まず設定に引き込まれる。

本作の主人公は、セオドア(ホアキン・フェニックス)。

画像2

ハートフル・レター社の代筆ライターで、依頼人に代わって相手への想いを手紙に綴るのが彼の仕事です。セオドアの文章はとてもロマンチックで詩的なので、顧客からの評判も上々。文才があるのですね。

でも、私生活でのセオドアは、他人の手紙に紡ぎだす言葉とは裏腹に傷心を抱えていました。

画像3

愛し合っていたはずの妻キャサリン(ルーニー・マーラ)から離婚を突きつけられ、別居中なのです。妻への想いを断ち切れず、幸せだった頃の想い出に浸ってばかりいる、空虚な日々。

・・・

そんな時、街角の広告で見かけた AI搭載型の最新オペレーション・システムOS1」を購入してみます。

画像4

作中の世界は近未来。PCの操作にマウスやキーボードは不要で、現在わたしたちが使っている「Siri」や「アレクサ」のように、声で話しかけて操作するのが一般的になっている社会です。

セオドアが使い始めた「OS1」は、その中でも最新の機能を持つ進化版。人工知能(AI)の学習能力により、一瞬一瞬ユーザー好みにどんどん成長を続け、“痒い所に手が届く頼もしい存在となってくれるのです。

本作を未見の方は、「Siri」や「アレクサ」の超超超賢いバージョンだと思ってください。笑

まずは、新しいスマホやPCを買った時のように、初期設定。設定の手順も対話形式です。幾つかの質問に答えながら、「OS1」がお話しする時の声を「男性」にするか「女性」にするか、選べます。

(今どきのゲームで最初に行う「キャラメイク」みたいですね!)

・・・

この時のセオドア。妻が去って以来、心にぽっかり穴が開いてしまっています。

ここで、ちょっと脱線。

これはわたしの私見ですが、離別/死別を問わず “パートナーを失ったことに対する耐性って、男女で比較すると圧倒的に男性の方が弱い気がします。
離婚後の寂しさに耐えきれず、早々に再婚するのは男性の方が多いように思います。また、晩年に妻に先立たれ、別人のように元気がなくなってしまった故・野村克也さんの姿なども印象的でした。
わたし自身、過去に離婚を経験しましたが、わりあい早い時期に再婚した元夫と比べて、わたしは「もう一度パートナーが欲しい!」という強い願望を持たぬまま現在に至っています。
周囲を見ても、実家の母は病気で夫(わたしにとっては継父)を亡くした後、しばらくは落ち込んだ様子でしたが、今ではすっかりエネルギーを取り戻し、人生をエンジョイしているようです。(女は強し?)

どちらが良い/悪いという話ではなくて、これまでの経験の中で、わたしが “なんとなく感じていた” ことを言語化しただけですので、「へー。はるひはそう思うのね」くらいに ゆるく読み流してくださいね。

そういえば、こちらの映画も、妻子と死別した男性の「喪失」のお話でした。

といっても『再会の街で』の場合はまたちょっと別物で、9.11 テロ事件がストーリーに絡んできたりするので本作とは主題が異なるのですが――。

以上、脱線はここまで。

・・・

本作のお話に戻りましょう。

「OS1」の初期設定で、ホアキン・フェニックス演じるセオドアは女性の声を選びます――

日本語字幕なしの動画ですが「」をよ~くお聴きください♩

みずからを「サマンサ」と名乗る人工知能型OS(AI)。まるで PCの向こう側に人がいるかのように、セオドアと自然に会話しています。

ちょっとハスキーな声がセクシーで、とっても魅力的!♡

(上の動画の 0:36 あたり、「ハーイ!」と挨拶する声が少し掠れるところとか、たまりませんねぇ~♩笑)

このサマンサの」を演じているのは、スカーレット・ヨハンソン。声のみの出演です。

画像5

スカーレット・ヨハンソン(右)。第8回ローマ国際映画祭でスパイク・ジョーンズ監督(左)と。同映画祭でスカーレット・ヨハンソンは最優秀女優賞を受賞。「声のみでの受賞は史上初という快挙だったそう。


わーいスカヨハ スカヨハ
だ~い好きっ

マリッジ・ストーリー』(2019年/Netflixオリジナル)と『ロスト・イン・トランスレーション』(2003年/ソフィア・コッポラ監督)を観て以来、スカヨハはわたしの大好きな女優さんです♩

スカヨハ観たさに『LUCY/ルーシー』も観たなぁ。

えー、わたしの “スカヨハ推し” はこれくらいにしておきまして……。笑

・・・

それでね♩

本作の秀逸なところは、生身の男性であるセオドアと、肉体を持たないサマンサ(人工知能)が、互いに惹かれ合い恋愛関係になってゆく―― というプロットなのです! 実にユニークですよね。

画像6

実体を持たない声だけの女性を好きになってしまう、ということ。

サマンサは、ユーモアがあって、賢くて、いつも気の利いた言葉をかけてくれて、セオドアを明るい気持ちにさせてくれる。まさに理想の女性

ただ、触れたり、抱きしめたりできないことを除けば――。

・・・

何があれば「人格」なの?
人間とAIの恋愛なんて、成立するの?
――とても興味深い、面白いモチーフですよね~!

備考:上記の感想ツイート内に出てくる「石黒先生」とは、こんな研究をなさっている方(YouTube 検索結果)です。先端技術であると同時に「人とは何か」を本質的に問う、哲学的なテーマだと思います。

そりゃ、優しくしてくれる相手には好感を抱いちゃうよね、という話。

ところで、最近わたしが楽しく遊んでいるゲーム「あつ森」(Nintendo Switch ソフト『あつまれ どうぶつの森』)では、「ヘンリー」というカエルのキャラクターがおりまして――

画像7

このように、イタリア男性か? 石田純一か? というくらい(例えが古い……笑)、いつもキザな優しい言葉をかけてくれるんです。

「あつ森」では、島の住民である動物たちが、たま~に

「この島を離れて、違う場所へ行ってみようかと迷ってるんだ」

なんて、引っ越しの打診をしてくるのですが(この時、賛成して送り出す回答を選ぶと、その動物は島を出て行ってしまい、別の新しい動物が移住してくる)、ほかの男子(?)キャラクターの時には、わりとクールに “去る者は追わず” 的なスタンスを取るわたしですが、

ヘンリーの時は行かないで!」って引き留めましたからね。笑

・・・

ましてや、本作に登場するサマンサは、もっともっと身近な存在として毎日の生活の中にいて、家族や親友以上に(プライベートな情報含め)自分のことをよく知ってくれていて、最高の秘書やコンシェルジュのように公私のサポートをしてくれるんです。

しかも、学習すればするほど、自分好みの理想形に近づいてゆく――。

孤独を抱えるセオドアのような状況だったら、なおのこと、「好感」→「恋」に発展してしまっても不思議ではありません。

名言の連続! 脚本が素晴らしい!

セオドアに愛想を尽かし、「もう無理なの」と別れを突きつける妻キャサリン(ルーニー・マーラ)。

画像8

・・・

セオドアと同じマンションに住んでいる、学生時代の友人エイミー(エイミー・アダムス)。

画像9

・・・

ほかにも、新しく出会い一緒にデートする女性など、リアルな世界でセオドアと関わってゆく(生身の)人々。そして、端末の中にいて「声」で繋がる存在、サマンサ――。

様々な登場人物とセオドアの間で交わされる会話の中に、グッと心に刺さる名言がたくさんあります。

・・・

わたしの印象に残ったのは、例えば、セオドアのこんなセリフ――

「時々思うんだ。僕は一生で味わう感情を既にぜんぶ味わってしまって、新しい感情はもう湧かないかもしれない。これから感じるのは、ただ過去に味わった感情の劣化版だけ……」(意訳)

"Sometimes I think I have felt everything I'm ever gonna feel. And from here on out, I'm not gonna feel anything new. Just lesser versions of what I've already felt.

おお~、わかる~!! 大人になった世代の人ほど、そう感じるのではないでしょうか? 深い

・・・

それから、セオドアの良き女友達、エイミーが言うこんなセリフ――

「恋に落ちた人間は誰だってイカれてるわ。クレイジーなものなの。恋に落ちるって社会的に受容された狂気よ」(意訳)

 I think anybody who falls in love is a freak. It's a crazy thing to do. It's kind of like a form of socially acceptable insanity.

恋とは「社会的に受容された狂気」! 言い得て妙! 恋の初期って、だいぶ狂ってますもんね~。笑(己の来し方を振り返ってみても、ね)

・・・

こんな感じの名言が、作中ではドサドサと降ってきます。脚本を書いたのは、監督のスパイク・ジョーンズ。小説のような美しい言葉の数々から、きっと知的な方なのだろうなぁ、という印象を受けました。

ちなみに、マメ知識。スカヨハの出世作『ロスト・イン・トランスレーション』に登場するヒロインの夫(フォトグラファーの仕事のために、妻スカヨハを伴って来日する)は、同作の監督ソフィア・コッポラが元夫であるスパイク・ジョーンズをモデルにした役柄なのだそう。(スパイク・ジョーンズもフォトグラファー出身。二人が夫婦だった頃、渡航先のホテルでソフィア・コッポラが経験した孤独が作品の元になっている)

セオドアが代筆ライターとして生み出す手紙の文面も、素敵な言葉ばかりです。

・・・

それから、ロスの風景や、使われている色彩が印象的な映像も、とても綺麗。

画像10

よかったら、そこにも注目してみてくださいね♩

本作の予告編はこちら。



▼ 全作品インデックスはこちら




いただいたサポートは、大切にわたしの「しあわせ時間」に役立てます。いつもより多く映画館へ行けるかも♩