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地獄の黙示録

鑑賞時の感想ツイートはこちら。

1979年のアメリカ映画。ベトナム戦争のさなか、極秘の暗殺任務を帯びて奥地へ向かう一人のアメリカ陸軍大尉ウィラード。彼が目的地への道中で目にしたのは、矛盾とカオス――。戦争の欺瞞と狂気を描いた、フランシス・フォード・コッポラ監督による壮大な戦争映画です。原題 "Apocalypse Now"。

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出演は、主人公のウィラード大尉役にマーティン・シーン、共演には『ゴッドファーザー』のマーロン・ブランドロバート・デュバル、『イージー・ライダー』のデニス・ホッパー、『スター・ウォーズ』のハリソン・フォード、『マトリックス』のローレンス・フィッシュバーン―― と、豪華!


『ゴッドファーザー』に並ぶコッポラ監督の代表作

フランシス・フォード・コッポラ監督。映画にそれほど詳しくない方でも、名前だけは聞いたことがあるのではないでしょうか。わたしの好きな映画監督の一人です。

好きになったきっかけは、ずばり『ゴッドファーザー』!

『ゴッドファーザー』、いいですよね〜♩ 映画史に残るコッポラの代表作です。観た時の、あの衝撃は忘れられません。

映画が好きで、長年いろんな作品を観てきましたが、本当に心の底から

!!!!

と、大きな大きな衝撃を受けた作品は、キューブリックの『2001年宇宙の旅』(1968年)とコッポラの『ゴッドファーザー』(1972年)。この2作品がトップですね~! 今のところ。

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映画好きのわたくしに衝撃を与えた二大巨頭。笑

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その『ゴッドファーザー』に並ぶコッポラの代表作が、本作『地獄の黙示録』ではないかなぁ、と思っています。あらすじは、ざっとこんなふう。

ジャングル奥地に自分の王国を築いた、カーツ大佐の暗殺を命じられるウィラード大尉。道中、様々なベトナム戦争の惨状を目の当たりにしながら、ウィラードは4人の部下と共に哨戒艇で川を上っていく……。
ジョセフ・コンラッドの『闇の奥』を基に、コッポラが私財をなげうってまで完成させた、ベトナム映画の集大成。狂気と混乱を象徴させる幾多のエピソードの果てに迎える観念的終幕には賛否もあろうが、この映像と音による一大スペクタクルには圧倒されずにはいられまい。
(出典: allcinema の解説文 より抜粋)

ベトナム映画の集大成”、“映像と音による一大スペクタクル”――まさにその通り! わたしも同感です。

豪華なキャスト陣!

本作の主人公は、戦地から本国アメリカへ一度は帰ったものの、妻と離婚し、居場所のない日々に言いようのない虚しさを覚えていた陸軍大尉「ウィラード」。

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演じるのは、マーティン・シーン。(チャーリー・シーンのお父様ですね。面影あります)

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ウィラードはある日、新しい極秘任務のために再び戦地へ呼び戻されます。

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任務を言い渡す上官のうちの一人が、ハリソン・フォード。若い!

この時、軍からの呼び出しを受けてウィラードが出向いた場所(上官の宿泊先?)には、3人の幹部らしき人たちがいて、

「朝食の用意をさせてある。食べながら詳しい話でもしよう」

的なことを言われるのですが、初対面の上官3人に囲まれた状況で、極秘の(しかも、結構重大な)暗殺任務について説明されながら、ごはんなんて食べられないよね?―― と思ったのはわたしだけでしょうか。笑

さて、ここでひとつ、ハリソン・フォードに関する本作のプチ・トリビアを。

○『地獄の黙示録』プチ・トリビア
主役のウィラード大尉は当初ハーヴェイ・カイテルが演じる予定でしたが、撮影開始2週間で降板。代役がマーティン・シーンに決まる前の段階では、実はハリソン・フォードも候補に挙がっていたのだとか。
当時『スター・ウォーズ』の撮影スケジュールの都合もあり、ハリソン・フォードの主役へのキャスティングは実現しませんでしたが、『地獄の黙示録』の撮影現場に彼が見学に訪れた際、上記の上官役で出演したのだそう。役名は「ルーカス大佐」。

『スター・ウォーズ』のジョージ・ルーカス監督にちなんでなのか、そうでないのか、定かではありませんが……(たぶん、ちなんでる。笑)こういうユーモアの利いた裏話、面白いですよね♩

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ウィラードが命じられた任務は、味方であるアメリカ軍人の暗殺。「カーツ大佐を見つけ出し抹殺せよ―― というものでした。

カーツ大佐マーロン・ブランド)は大変優秀な軍人で、完璧とも言える輝かしい経歴を持つ人物でした。ところが、ある時から常軌を逸し、軍規を無視して独断で作戦を行った後、(ベトナムの隣国)カンボジアのジャングル奥地で独自の王国を築いている、とのことでした。

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ブリーフィングで提示されるカーツ大佐の資料。
この時のマーロン・ブランドは、太っていない……笑。(*撮影開始時に現れたブランドは極度に太ってしまっており、オファー時の役柄のイメージから大幅にかけ離れていたため、監督は苦労したのだとか)

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もう一人の豪華キャスト、「キルゴア中佐」役のロバート・デュバルについては後述しますね。

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ワルキューレの名シーンは、大きな見どころ!

さてさて、『地獄の黙示録』で一番の見どころといえば、何といっても有名なこちらのシーン

ご注意
本当にすっごく良い名シーンなので、本作を「まだ観てないよという方は動画は再生せずに文章だけ辿ってお進みください。このシーンは、ぜひ、本編で堪能して欲しい~!

いやぁ~、最高にカッコいいですよね。曲が!!
ここにワーグナーの『ワルキューレの騎行』を使うなんて、ずるい

噂に聞いていたワルキューレのシーンの格好良さ! 戦争がどう、とかじゃなく、映画としての格好良さ、ね。コッポラ凄いなぁ。

と感想ツイートにも書きました。

ただ、冷静に考えれば、ここは観ている者の良心がチクチク痛むところなのですよね。アメリカのヘリの大群が、ベトナムの海沿いの村を急襲。ベトコンの前哨基地とはいえ、多くの子どもを含む村人たちを容赦なく攻撃するシーンなのですから――。

(しかも、サーフィンに目がないキルゴア中佐が、この村をターゲットに選んだ “理由” そのものが、かなり驚きの発想で……)

でも、映画のシーンとしてはめちゃくちゃカッコいい

ワルキューレを大音量で流しながら、勇ましく登場するヘリ。迫力満点。そこから突如、バックに流れていた音楽がピタリと止み、長閑な村の朝の風景に切り替わります。

うぅぅ、素晴らしい演出と編集この対比

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リヒャルト・ワーグナーの曲『ワルキューレの騎行』がこのシーンに使われていることにも、意味があります。

マメ知識: オペラ『ニーベルングの指輪』
リヒャルト・ワーグナーの代表作で、4つのパートから成る4部作。すべて上演するには4日かかる。合計15時間。4部作はそれぞれ独立した性格を持ち、単独上演が可能である。

● 序夜 『ラインの黄金』(Das Rheingold):2時間40分
● 第1日 『ワルキューレ』(Die Walküre):3時間50分
● 第2日 『ジークフリート』(Siegfried):4時間
● 第3日 『神々の黄昏』(Götterdämmerung):4時間30分

『ワルキューレの騎行』は、このうち「第1日」の演目『ワルキューレ』で第3幕「岩山の頂き」の序奏として演奏される曲。

ワルキューレとは、神々の長ヴォータンを父に持つ9人姉妹のこと。空を駆ける天馬に乗り、戦場に散った戦士たちの亡骸を天馬に乗せて連れて行く。いわば、“戦場に現れる女死神” がワルキューレ。

キルゴア中佐がこの曲を好んで選ぶのは、自らが率いるヘリ部隊を “戦場に現れる死神ワルキューレに見立てているからなんですね。

○ はみだし情報:本作に関連するゲーム
ちなみに、ゲーム『METAL GEAR SOLID V』(メタルギアソリッド5/略称 MGSV)では、ヘリに乗って移動したりするのですが、ヘリの到着時に音楽が流れるように設定できます。設定曲の選択リストには、なんと『ワルキューレの騎行』も! 完全に『地獄の黙示録』を意識したもので、映画オタクの小島秀夫監督ならではの遊び心が反映された要素です♩

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ここまでお読みになって、薄々お気づきになっていらっしゃるでしょうか? キルゴア中佐という人物のクレイジーさを!

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周りにドッカンドッカン弾が降り注いでいる状況で、部下たちは必死に「伏せろー!」とパニクっているというのに、全く動じていない。伏せたりなんてしない。何なら、大好きなサーフィンのことを考えているキルゴア。笑

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――からの、あの名セリフ

朝のナパーム弾の臭いは格別だ
"I love the smell of napalm, in the morning."

本作に登場するキルゴア中佐のこのセリフは、AFI(*)の「アメリカ映画の名セリフ ベスト100」で第12位に選ばれています。

* AFI(American Film Institute)

強烈な印象を残すキルゴア中佐を演じたのは、ロバート・デュバル

コッポラ監督の『ゴッドファーザー』では、コルレオーネ・ファミリーの頼れる “相談役”(コンシリエーレ)、「トム・ヘイゲン」役を演じました。

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控えめ、冷静、知性派という役柄で、この時のロバート・デュバルも格好良かったなぁ……♡

ボートに乗って、川を上れ!

情報部によると、カーツ大佐の王国は、ベトナムから川を上ったジャングルの奥地にある模様。

ウィラードは、身を隠すのに好都合な、現地の河川をパトロールするアメリカ海軍の哨戒艇(小さめのボート)に乗って移動することに。

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このボートには、4人の乗組員がいました。

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操舵手の「チーフ」(アルバート・ホール)。哨戒艇のリーダーとして、あまり軍人らしくない(=統制の取れない、笑)他の3人のまとめ役になることが多い。

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シェフ」(フレデリック・フォレスト)。従軍する前は料理人を目指し、料理学校でソースを作る「ソーシエ」の修行をしていた。

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ランス」(サム・ボトムズ)。兵士になる前は、有名なサーファー。戦地に来てもサンタン(日焼け)に余念がない。笑

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クリーン」(ローレンス・フィッシュバーン*/*当時のクレジットでは、ラリー・フィッシュバーン)。まだ少年のあどけなさが残る17歳。

ローレンス・フィッシュバーン、若いですねー。そして細い

ローレンス・フィッシュバーンが若過ぎて細過ぎて、後で名前見るまで判らなかった!驚

と、感想ツイートにも。

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このように、ウィラード大尉と同行するボート乗組員4人のうち、操舵手「チーフ」以外の3人は「兵士」と呼ぶにはあまりにも素人っぽい面々。元料理人に、サーファーに、まだ悪ふざけして遊びたい年頃の少年――ですからね。

おまけに、ボートの目的地は彼ら4人には知らされていません

ろくに訓練も受けないまま戦場に駆り出され、ただ命令に従い、ボートで川を上ってゆく乗組員たち。道中、様々なものを見て、体験します。それぞれのエピソードを通して描かれる、戦争の狂気、欺瞞、混乱の描き方が見事です。コッポラすごい

ウィラードは、船の中で一人静かにカーツ大佐の資料を熟読。彼の人物像を頭の中で形づくりながら、自分に課せられた “暗殺” という任務に疑問を抱き始めます。

一行は、果たしてどうなるのか!? ――ぜひ本編で確かめてみてください。

コッポラ監督、えらい!

「前半、最高! 後半、ホラー??」とよく言われる(笑)本作ですが、言うことをきかないキャスト、台風による被害、膨れ上がる製作費――などなど、困難を極めた映画製作(興味のある方はググってみてください)の中で監督自身が心労で倒れる、という事態にまで陥ってしまいます。

当時の製作の模様は、ドキュメンタリー映画『ハート・オブ・ダークネス コッポラの黙示録』や、コッポラの妻エレノア・コッポラによる手記『ノーツ - コッポラの黙示録』に収められているそうです。(これは気になる~!)

そのような難航プロジェクトを、ここまでのクオリティで作品に仕上げたフランシス・フォード・コッポラ監督の力量根気。これって、素直にすごいことでは? と思います。

コッポラ監督、えらい

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作中にちょこっとカメオ出演するコッポラ監督(写真左端)。戦地で取材をするテレビ報道班のディレクター、という役。カメラを担いでいるのは、実際に本作の撮影を担当したカメラマン、ヴィットリオ・ストラーロ

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役柄のイメージが大きく崩れてしまうほど肥満体になってしまったマーロン・ブランドを、光と影のコントラストを使った巧みな撮影と演出で、王国を意のままに牛耳るカリスマとして描くことに成功しています。お見事!

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カーツ大佐に心酔する報道写真家役のデニス・ホッパー。マーロン・ブランド同様、彼もなかなかの “困ったちゃん” だったみたいです。笑

『地獄の黙示録』4つのバージョン

大監督の有名作品「あるある」かもしれませんが、『地獄の黙示録』には下記の4つのバージョンがあるそうです。

オリジナル劇場公開版・70mm(1979年/147分)

当時70mmの公開が可能な一部劇場で上映されたもの。コッポラ監督が “オペラのような” 公開形式を望んだために、冒頭のタイトルやエンドクレジットがないバージョン。キャスト/スタッフ名が記載された印刷物が入り口で配布されました。ラストの爆破シーンなし

オリジナル劇場公開版・35mm(1979年/153分)

多くの劇場で公開されたバージョン。70mm版のラストに爆破シーンとエンドクレジットを加えたもの。

特別完全版(2001年/196分)

ベトナム戦争終結25周年の2000年を迎え、コッポラ監督の意向で再編集。53分の未公開シーンが追加されたバージョン。「フランス人入植者の農園に立ち寄るシーン」、「ヘリが不時着したプレイメイトたちと再会するシーン」、「戦況を楽観視しているマスコミ記事をカーツ大佐が読み上げるシーン」、「ウィラードがキルゴアのサーフボードを盗むシーン」などがある。原題 "Apocalypse Now Redux"。

ファイナル・カット版(2019年/181分)

製作40周年を迎える2019年に、どちらのバージョンを上映するかと聞かれたコッポラ監督が「自分が好きな新しいバージョンを作りたい」と再編集。デジタルリマスターにより画質や音質を大幅に改善したバージョン。過去バージョンでカットまたは追加されたシーンのうち、監督自身が妥当だと思った重要なシークエンスだけで仕上げたもの。ラストの爆撃シーンとエンドクレジットなし

わたしは、「オリジナル70mm版」と「特別完全版」を観ています。

ちなみに、U-NEXTには「70mm版」と「ファイナル・カット版」がありました。(2021.3.30現在)

観るバージョンによって、作品への印象が少し変わってくるかもしれませんね。

最後に。

○ 動物がお好きな方へ

戦場を描いた戦争映画ではありますが、本作は(同様ジャンルの作品の中では)痛い、怖い、残酷なシーンは少ない方だと思います。わたし自身、そういった描写が大の苦手なので、ホラーやゴア表現のある映画はほとんど観ません(観られません)が、そんなわたしでも許容「OK」な作品でした。

ただ、ほんの一部ですが、“動物好きな方が観たら、つらくなるかも?” というシーンがあります。「子犬」と「水牛」が出てきたら、ちょっと注意が必要です。「子犬」の方はほぼ大丈夫かと思いますが、問題は「水牛」のほう。薄目で見た方が良いかもしれません。わたしは結構ショックでした。涙

オープニング・シークエンス

今回の記事は、こちらの曲で締めくくりを♩
本作のオープニング・シークエンスです。

何かを象徴するような映像と共に「ホロホロホロ……」という音が。左から右へ。右から左へ。ヘッドホンやステレオのスピーカー環境で聴くとよくわかります。

「ん??」と耳を澄ませていると、それがヘリコプターのプロペラの音だとわかるんですよね。わたしが「おっ♩」と感じた、コッポラの演出センス。

重ねてフェードインしてくる曲は、ドアーズ(The Doors)の "The End"。本作とは切っても切れない、有名な曲です。冒頭と終盤の2つの場面で使用されています。


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