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ショートショート¦やさしい刃

「おじさん、これあげる!」

少女が差し出してきたのは、焼きたてのパンだった。わたしは「武器と食い物を交換する店じゃねぇんだよ」と言いながらも、結局受け取ってしまう。

こんなことを、ここ最近ずっと繰り返していた。割と強面な顔をしているので、周りから見たら話しかけづらい部類に入る。それなのに、なぜか懐いてくる。

不思議に思っていると、少女は笑って言った。

「おじさんの武器、どれも優しい目をしているの。おじさんの作る武器、大好きなんだ」

そう言って、翌日もまたパンを持ってきた。

それからしばらくして、街で騒ぎが起こった。盗賊団が襲ってきたのだ。兵士や傭兵たちは武器屋で、剣や槍を手に、必死に応戦した。

誰一人命を落とすことなく、盗賊団は完全に敗北した。

「やっぱり、おじさんの武器は優しいね。優しくて強いね」

戦いが終わったあと、少女は嬉しそうに言いながら、今度は焼き菓子を差し出した。

わたしはそれを黙って受け取り、ゆっくりと噛み締めた。

終-【410字】


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紫吹はる
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