しょっぱくて愛おしい焼きそば
焼きそばが食べたい。わたしのその欲望は、唐突に降りてくる。朝起きてすぐに、スーパーに直行して、焼きそば麺をカゴに入れる。あとは…人参は家にある。キャベツは高いから、白菜ともやしを買って、ぶらぶらと家に帰った。
仕事が休みの日は、たまに旦那が料理を作ってくれる。炒め物は、旦那の方が、きっと上手い。わたしが食べたい焼きそばを、そっと旦那に押し付けて、作ってくれている間に、わたしは、本を読むことにした。
ジュウジュウとフライパンで焼かれる音が聞こえ始め、キッチンから漂う香りが、わたしを包みこむ。休日の昼間から、ふわっと日本酒の香りが広がる。きっと、鶏肉をお酒に漬け込んでくれているのだろう。頭の中で、ふわふわな鶏肉を想像して、本に集中出来なくなってくる。
早く…早く食べたい。
「はい。出来たよー!!」
気づいたら、わたしは、すやすやと眠っていた、らしい。ほんのりと甘いソースの香りが、鼻をくすぐる。お腹が、ぐぅと鳴った。
「ありがとう。いただきます」
箸を伸ばして、まずは鶏肉を一口食べる。あぁ、これだ。わたしには作れないこの食感。噛むたびに、お酒の風味がふんわりと鼻から抜ける。そのまま、ズズっと麺を啜る。しょっぱい。旦那の料理は、すこしだけ味が濃い。それを、白菜で中和する。シャキシャキ。ズズッ。
すこしだけ、しょっぱいけれど、それが良い。マヨネーズが合いそうな罪な味。ジャンクフードを食べたい気持ちが満たされる。麺を啜り、鶏肉の柔らかさに感動し、白菜で中和。あっという間に平らげてしまって、ふたりで手を合わせる。
「鶏肉、すごい柔らかくて美味しかった。ありがとう」
旦那は少し得意げに「そうそう。お酒に漬け込んで、じっくり焼くと全然違うでしょ?」と、笑った。
旦那はいつも、鶏肉を焼く前に、日本酒に漬け込む。これが驚くほど効果的で、どんなに安い鶏肉でも、柔らかく、ふっくらとジューシーになる。
そのひと手間を惜しまないところ。「美味しくしよう」と思ってくれるその気持ちが、なによりの隠し味。
休日の昼間に、ジャンキーな焼きそばを食べる。「孤独のグルメ」を観て「ここ行きたいね」と言い合いながら。しあわせだなあ。幸せな時間。
食べ終えた後、散らかったキッチンを見て、苦笑する。頑張ってくれたんだね、ありがとう。わたしが皿洗いをしている間、今度は旦那が眠っていた。思わず、写真を撮ってしまった。愛おしい寝顔を、いつまでも見られますように。