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ショートショート¦芽吹く思い出

空を見上げる。雲ひとつない真っ青な空。

四十九日を終え、祖母の遺品を整理していると、丁寧な字で「種」と書かれている封筒が出てきた。中には、数粒の小さな種が入っている。

「なんの種だろう?」隣で懐かしむように写真を見ている母に聴いてみたが、母も首をかしげる。

植物を育てるのが好きだった祖母のことだ。気になって、庭の片隅にその種を蒔いてみることにした。

数日後、かわいらしい芽が出て、やがて細長い葉をつけた不思議な植物に育った。葉からは、ふわりと甘い香りが漂う。

「これ、どうやって食べるんだろう?」

湯がいてみると、ふわっと懐かしい味が口に広がった。その瞬間、祖母が笑いながら、わたしに何かを話している姿が、ふっと瞼の裏に浮かんだ。

涙が頬を伝う。

「こういうことなんだね」

寂しいとき、大切な人を想うとき、わたしはこの種を育てる。誰かを想い、誰かに想われる。大切な人との絆。その気持ちを思い出させてくれる、優しい魔法の植物「逢いたい菜」

終-【410字】


こちらの企画に参加させて頂きました✧*。

#毎週ショートショートnote
#逢いたい菜

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紫吹はる¦言葉をこよなく愛する人
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