22歳、中学生から夢見た東京に住みIT系StartUpの創業メンバーになった話。vol.3
音楽を仕事にする上で感じた生きづらさについて、Instagramに思いを投稿したのをきっかけに、以前に知り合った所山から声が掛かった。内容については全く聞かされていない。話だけでも聞いてみようくらいの気持ちだった。
久しぶりに会うと、隣には大学同期の馬場くんがいる。馬場くんとは、入学してすぐ時々話すような関係だったが、学科も違うためにまともに話すのはすごく久しぶりだ。
訳がわからないまま挨拶も程々に、馬場くんがPCをおもむろに取り出したかと思うと、所山のプレゼンが始まった、、
「僕ら起業したんだけど」
……うん?
私たちが考える、音楽業界における問題。
起業の経緯と事業への熱い思いを語り始める所山、隣で冷静に私にも分かるよう、フォローを入れる馬場くん。考える程にこの状況が不思議でおかしかった。なぜなら2人は、ピアニストとして生きていける十分な経歴を既に持っている。そんな彼らが、しかもITの分野で起業とは、一体何をしようとしているんだろう?
所山は、「僕らが音楽人生を送る上で抱える思い」と、私のInstagramで発信した内容が当てはまったのだと言う。
私は学生の頃から、「人との繋がり」を一番大切に思い音楽活動をしてきた。むしろ、誰かと繋がっていたい為に音楽を仕事にしたと言えると思う。しかしコロナの影響で仕事がなくなってしまった時、経歴も十分にない未熟な自分に居場所がどこにあるのだろうと、音楽をする目的が不明確となりはじめ、焦りを覚えていた。
だが原点を思い返すと、自分にとって音楽をする理由に、経歴や未熟さなどは大した問題ではなかったと気づいた。自分らしさや好きなことは経歴から生まれるわけでも、生き方を左右されるべきものでもないと。
一方で所山は、少し違った視点で音楽のあり方を見つめていた。
彼は、現時点19歳にして、世界でも通用する経歴を持つピアニストだ。実際のところ数年前まで海外で学び、トップレベルのコンテストで何度も優勝を果たしており、今後の音楽界を担う、若手ピアニストとしての活躍が期待されていた。
常に頂点にあり続けた彼だからこそ、見えた景色があったという。
*コンクールで考える、音楽の本質
以前の記事でも言及したが、音楽界で生き残るのには、コンクールで輝かしい経歴を持つことが一番の方法だ。所山は、実力以外の弊害で才能ある若者が大勢埋もれてしまう現状を目の当たりにしたという。
優勝するために、時に審査員、または相応の先生の元に指導を賜り、ツテを広げレッスンに莫大な費用をかける必要があると。極端にいえば、親の収入が未来の明暗を分けるということになる。また審査員の意向を理解し、彼らに受け入れられる演奏をする事が非常に重要である。一流の音楽家になる為に経歴を作る事で必死な若者は特に、審査員や世間の意向に合わせて自分のスタイルをねじ曲げがちだ。
このような社会構造で、素晴らしい音楽を生み出すことができるのか?
国や言語が多種多様に存在するように、音楽も人生の数ほど多様な感性から生み出され、認められるべきだ。権威主義的な風潮が蔓延り、自分らしさで挑戦しにくい世の中になってしまっている。音楽界トップレベルでこれでは、音楽人口が衰退の一途を辿る日本で食べていく事は更に困難であろう。
逆に、今このような音楽界を生きる演奏家たちは、自分の経歴と名前に頼ることなく、表現する音のみでどこまで聴衆を獲得できるだろうか?
私たちにできること。
海外から日本に戻った所山は、日本の音大生を取り巻く現状を知り深く失望したという。音楽活動をする上では経歴が最も力を持つこの業界で、いつしか、見えない圧力に耐え順応する事が目的に変わってしまっている学生は少なくない。
卒業後に独立しようと考えても、日本の音大では独立し音楽活動をしていく為の知識を教える習慣がなく、自身でプロモーションする術を知らない学生がほとんどだ。その為、「若さ」が保守的に作用し、挑戦する意欲を失わせてしまう。
世の中は男女隔てなく働きやすい社会に改善されていくのに対し、音楽業界は全く発展していない。女性が多くを占める日本の音大で、卒業後も音楽活動することを選択できる女性がどれほどいるだろう。音楽と引き換えに、若い時期を貧しく生きる選択ができる者がどれだけいるだろう。若者などの経済力や経歴を持たない者が、最もこの音楽業界を取り巻く権威主義的構造における犠牲者といえるだろう。
人は優れた技術に、洗練された音に感銘を受け羨望するが、その人自身の魅力が彩る音楽に、時に心を強く動かされるものだ。私が思うに、人が人の演奏に心を震わす時は、音楽にその人の人生が見えるからだと思う。
その人自身の魅力が音楽になる。
魅力とは、その人がどのように生きたか。何を好み、どんなことにインスピレーションを受け生きているのか。その人生全てがその人の音楽を彩る。
私たちは3人は、これまで違った人生の中で音楽と向き合ってきたが、見かけは狭い門でも音楽を通して見出せる、可能性が無限に広がる素敵な世界を知っている。私たちにできることは、その門を広げていくことだ。臆病になって挑戦できないだけ、何ものにも臆せず挑戦できる環境があれば、世界はもっと活性化するはず。
以前に比べ人との関わりが薄くなっている今この情勢で、人の温かみを求められているのは音楽界に限った事ではないだろう。全てのことは誰かとの繋がりがあって成り立っているのだから。
芸術分野でAIが人間を超すことはないという思いは変わらないが、だからこそ人にしか生み出せない、貴重な財産の可能性を広げるためにITの力に頼ってみてもいいかなと思っている。
22歳、夢に見た東京に住んでみると、想像していたより遥かに可能性と素敵な人で溢れていた。そして今新しい大きな夢を見つけたところだ。今はまだ遠くに見えても、辿り着く景色はきっと想像と変わって見えるのだろう。だから楽しみだ。その経過をnoteに記すことで、どんなに小さな出来事も私の人生の一部である事を、忘れないように心に刻んでいたいと思う。
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事業内容についてはまだ秘密です。最後まで読んでくださりありがとうございます。