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【恋愛小説】 恋しい彼の忘れ方⑨
「恋しい彼の忘れ方」 第9話 -応援-
「はぁっ?!なにそれっ?!めっちゃキュンキュンじゃーん!!」
「シーッ!大きな声出さないの!」
私は、幼馴染の真奈美と、カフェで3日前の話をしていた。2人共育休中で、赤ちゃん連れだ。丁度タイミングよく隣で寝てくれている。
「え!だってさー!何?11年ぶりに会った教え子から、"初恋"でした?!
クゥ~!!もうこれ少女漫画の世界じゃん!!あんた、少女漫画描きなよ!昔から絵上手かったじゃん。」
「もーそんな大袈裟な。でも、まぁ……本当に救われたよ。なんかさ、思い出すと……、またうるうるきちゃうけど。」
「まあねぇ。先生も色々大変だったろうからね。でもさ、先生でよかったね!そんな素敵な教え子とまた会えて。」
「──ね。でさ、ここ来る途中、バイクを見かけたんだけど、なんか……。そのバイクが愛おしく見えちゃって。カッコイイ車体だなぁ、とか。海東くんみたいな人が乗ってるんじゃないか、とか、ツーリングとかいくのかな、とか、考えちゃって。」
「へー。バイクのこと邪険にしてたのにね?」
「いや、邪険にはしてないよ。でも……なんだか、見える景色が180度変わって見えた感じ。桜も綺麗だなぁ、って、いつもと変わらない道なのに、世界が鮮やかに見えた。凄くない?海東くんの力。」
「あー葵、もしかして、恋しちゃったんじゃないのー?」
私は、真奈美にまだ言っていなかった。大輝のことを。本当に、罪深く、恥ずべきことだと思っていたのだった。
私は、小学校を卒業するタイミングで、少し離れた家に引っ越しをしたため、真奈美と大輝は面識はない。だけど、名前は出さない方がいいと判断し、切り出した。
「真奈美、実はね……。私、好きな人が出来ちゃって。1年以上前の話。」
「はああっ?!」
ちょっとちょっと、と真奈美を落ち着かせ、少しずつ話した。
「なにそれ?2次元?!俳優?」
「違う違う、実は……漫画家さんでね。その人とも、久し振りに再会して……。」
話している途中に、大輝のことが好きな気持ち、感じていた罪悪感、それを赦してもらえたような安堵感……想いの全てが一気に押し寄せ、ツーっと涙が頬を伝った。
真奈美が、何も言わずハンカチを貸してくれた。
「……うん。話せるとこまで話してみ?」
私は、記憶を辿りながら話した。大輝と再会し、好きになって毎日のように考えてしまったこと、そんな自分が嫌いになったこと、大輝が背中を押してくれた"絵"を練習し始めたこと、海東くんに「恋は素敵」と気付かされたこと、その出来事をイラストに書いたことなど。
「でもさ……家庭を壊すつもりはなかったんでしょ?」
そう言われて、更に涙が溢れた。
そう、私は、家庭を壊す気持ちなんて、少しもなかった。家族が大好き。
ただ、本当に、ただ……大輝のことが好きになってしまったんだ……。私は自分の気持ちに気付き、顔を押さえながらコクンと首を縦にふった。
「いいじゃん、そんならー。ただの"推し"に会いに行ったと思えばさー。推しに会って、食べて、話して。心はときめく。めっちゃいいじゃん!」
「うん……ありがと。」
「で、海東くんからは何て返事返ってきたの?」
「"人は、生きてく中で無数の出会いがあるから、その中で人を好きになるのは仕方ない事かなって思います"って……。」
「ほらー。ね。」
「うん。あと、なんか"清い"って言われた。私は、自分のこと"汚い"って思ってたのに……。」
「ふふっ。そう思ってたんだ。」
私は頷いた。どうしてこんなに、私の周りの人は優しいのだろう。私の嫌なところを知っても、受けとめてくれる。
「葵はさ、恋した自分を責めてるけど、恋って"異分野"に触れる、ってことじゃないの?その人に対して、何でそんな事考えるんだろう?って興味をもってさ。それは探究心から来るんじゃないの?
旦那さんは安定、2人で1つ。幸せで風がない凪いだ海。もちろん、そういう家族には感謝しながらも、もっと新しい事、新しい風を取り入れていくのもいいじゃん。」
「そっかあ……。」
「家族は、揺るぎない大切なところで、簡単には壊れないでしょ?私は、葵の子どもたち見ててもそう思うよ。」
「うん。」
「今回の海東くんみたいにさ、生きてる世界が違うんだから、価値観も違って楽しいじゃん!インスピレーション貰えて、葵の価値観も広がったでしょ。」
「そう……そうだね。漫画家の彼にも、私、憧れがあった。夢があって、自分の中のものを表現してて、"これがしたいんだ"っていうのを持ってた。カッコイイな、って……。」
「それじゃない?彼が教えてくれてるの。葵は、本当は何がしたいんだ?って。」
ハッとした。そうか──これまで、私に対して好意を向けてくれていた男性、私がいいなと思った男性は、「夢」をもっていた。
私は、何がしたいんだろう──?
真奈美と話しているうちに、小さい頃好きだった「絵」を描くこと、最近周りから「文章」について褒められること、今まで子育てや教育などを学んできたこと、が浮き彫りになってきた。
大輝と出会って、"漫画"で表現出来ることを知った。
私が、海東くんと出会って涙を流した時、「どうしても、この綺麗な世界を表現したい」と思って、思わず、そのとき見えたビジョンを絵にした。
そうだ……。
「表現……したい。人間の美しさを、かきたい。」
そう、私は、醜く、欠けていると思っていた自分から、それは思い込みで、真の「愛」をもっていたことに気づく過程を、かきたい。
心の宝石箱を開ける体験を、かきたい。
──「自分の唯一無二の人生」を表現したい!
自分にしかできない、オリジナルを表現したい!
私は、私の内側から、血が迸る感覚を覚えた。忘れないうちに、と、鞄からメモ帳を取り出して、書き留める。
真奈美は、そんな私を優しい目で見つめていた。
「"漫画"、本当にいいと思うよ。葵がこれまで頑張ってきたこととか、見てきた人生がかけるじゃん。葵、人に説明するのも上手いし。
人生の伏線回収って感じがするな。」
「え?」
「点と点が、繋がる感じ。」
「おー。そうか。それも書いとく。」
私はまだしっかりと腑に落とせないまま、ペンを走らせた。
*
家に帰ってきてから、今日のメモを見返す。
「人生の伏線回収かぁ……。どんな風に回収されるんだろ?」
また、書きたい気持ちになり、ペンを握る。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
心があってよかった。
感情を感じられる人間でよかった。
苦悩も美しさに変わる。
花を見るための、寒く厳しい冬。
ジャンプの前の、しゃがみ込み。
この私の文章も、"漫画"に、込められる。
人にどう思われるか、なんて関係ない。
私は、私のやりたいことをやる。
自分のために。
手に取る、過去の私のために。
1ミリの狂いもない、この人生に、花束を。
自分を責めてしまう、清き人へ。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
私は、「漫画」を描くことを決めた。
今まで、ノートへの落書きや、美術の授業くらいでしか、絵を描いたことがない私。
でも、何の制限もなく、やりたいことがやれるとしたら……私は漫画を描いてみたいと思った。まず、絵の練習から。
それを海東くんにメッセージする。
「新しく、挑戦したいことができたよ。
やってみようと思う!」
海東くんから返事が返ってきた。
「相変わらず、葵さんはキラキラしてるね。」
*
4日後。
またマリさんとテレビ電話をする日。
私は、前回話をした時から今日までに起こったことを話した。
愛ちゃんに、「泣きたい時は、泣いてもいいんだよ」と言えたこと。海東くんと再会し、「クソ教員」だと思っていた過去の見え方が変わったこと。
するとマリさんは、喜んでくれた。
「ちゃんと愛に辿り着こうとしてるね。」と。
その意味がよくわからなかったが、私はマリさんにお礼を言った。
「海東くん、だっけ?
ふと、"会いたい"って思ったんだよね?魂がクリアになると、宇宙から降りてくるの。未来の自分からの信号。
"同じ波動"だと、会えるのよ。」
「"同じ波動"だと会える?」
「そう、今回、すぐ会えたでしょ。」
「確かに。今週の日曜日、って言われて。えっ?って思ったけど。すぐ会えました。」
「でしょ。会えない時は会えないから。
会えるのは、奇跡なのよ。
その時、どう思った?」
「嬉しい……自分は愛されてたんだ、って。」
「ね。あの時は拾えなかったけど、足元でエネルギーを送ってくれてたのよ。葵ちゃんを、応援したくて、エネルギーを送ってくれてた子なのよ。」
「そうですよね……。」
「葵ちゃんはさ、教員としての自分に不甲斐なさを感じてたのかもしれないけれど、子どもたちの純粋なエネルギーが好きで、大切にしたかったのよね。
自分の心の処理方法がわからなかっただけ。それを、自分責めに走っちゃったの。」
「そう…。」
「ほんとは、ピュアな心で守られていたし、実は、色々やってあげたかった。でも、自分にいっぱいいっぱいで、気づかなかった。
それは、"チャレンジ"だったよね。自分は愛されていた、って気づけたんだもん。すごくいい時間だったね。」
「はい、軽くなりました。」
「愛し、愛された時代だったな、って、それでいいのよ。副担任だった時、ゆとりがあるから見えたものもあって。そんな相手のよさが見える自分が好き、だったでしょ?」
マリさんは、言った。
「ゆとり」があるからこそ、「自分を愛せる」、そして「自分を愛せる」から「他者を愛せる」。
自分のキャパがいっぱいいっぱいだと、自分を守ろうとしてしまう。だから、いかに自分をいっぱいにしないか。どれだけ「できない」と言えるか、許せるか。
やってみて、出来ない、出来る、がわかるから、「これが私です」と言えるようになるまで経験することが大切だ、と。
私は、教員時代のある一場面を思い出した。
私が、授業の合間、トイレも行けないまま職員室に道具を取りにいった時のことだ。廊下も走るくらい、忙しかった。そんな時──
校長が、事務の先生と、優雅に、ゆっくりと、コーヒーを飲んでいたのだ。
私はそれを見て、「許せない!ムカつく!」という感情を抱いたことを話した。
「葵ちゃん、それ"サイン"だったね。」
「え?」
「葵ちゃんは、"自分にゆっくりすること"を許してなかったんだよ。
"自分は優雅ではだめだ"、"忙しくしてないと認められない"とか、思ってなかった?」
「はい……。」
「いいんだよ、優雅で。
これ、感謝のポイントよ。」
「え?」
「その校長がムカついたら、ハッとして、"私、ゆっくりしたいんだ"、"ほんとはそれがしたかったんだ"って。気付くの。
気付かせてくれて、ありがとう!って。」
「そっかぁ……。"ムカつく、私は休む暇なんてないのに!"で終わらせてました。」
教員生活に想いを馳せる──。
いつも、生徒の前に立つ者として、「出来ないといけない」「ちゃんとやらなければ」「頑張って当たり前」と思っていた。
自分に対してもそうだし、生徒に対しても強要していた。
「全ては子どもたちのために」。教員の世界では、それが"当たり前"だった。慣習も、新しい取り組みも、取捨選択せず全てをやろうとしていた。
でも、「選んだのは、私」だ。余裕がなく、忙しく振る舞っていたのは、自分だ。
他者の言動が気になって、心に波風が立った時こそ、自分の言動を見つめる必要があったんだ……。"子育て"と同じだ……。
私は、「人の振り見て我が振りなおせ」の、本当の意味を知った。
「校長先生が、それを見せてくれていたなんて……。ただの暇人のお祖父ちゃんだと思ってた。」
「そう。ハッと気づいて、波動を戻すの。
そして、"どんな世界を生きたいか?"を描いくの。"どんなクラス・どんな先生でありたい"か。この"軸"があれば、必ず戻れるのよ。」
第10話 法則
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