かごめ ep.9
かごめのことをもっと知りたかった。彼女がどんなことを考え、生きていたのか。これからの未来をどんな風に描いていたのか。あまりにもなにも知らないうちに生を終えてしまった。
一方で七瀬のことも実はよく知らなかった。同じ教室で過ごして、笑い話をすることもあったのに、そのくらいの距離にいても分からないことがいっぱいあった。彼女がどれほど先生を愛し、愛したが故に正体を失ったか。全部、決定的な瞬間に至ってから理解した。
七瀬は手を汚したものの、ショックのあまりかその場ですぐに意識を失い、倒れた。佳奈たちはそのまま屋上に残っていたらまずいからと、協力して七瀬を担いで、その場を離れた。
七瀬はしばらくしてから意識を取り戻したが、都合のいい記憶の改竄が行われて、屋上での出来事のすべてを憶えていなかった。かごめの死は碌に調べられないうちから自殺と決めつけられたこともあり、佳奈たちは真実を胸に秘めておくことにした。それは、女学生が抱えるにはあまりにも重い秘密だった。
やっと吐き出せた、と佳奈は思う。ずっと隠しておくのはつらい。
耳を澄ますと、ドアの向こうから階段を上がってくる足音が聞こえた。一人足りない、とここにやって来たときから感じていた。その足音の主が現れれば、今は亡きかごめ以外の、あの日のすべての顔ぶれが揃うことになる。
佳奈の両目から涙が溢れてきた。どうしてこういう運命を辿ったのか、神様の差配の意図を疑う。どうすることもできない鳥籠の中の少女たちは、自由な空へ羽ばたける日を夢見て、だけど今はここに立ち尽くしている。
ドアがそっと押し開けられた。
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