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ミケランジェロ〜追憶の果て〜フィレンツェ革命編①

【主な登場人物】(1527年現在)
ミケランジェロ・ブオナローティ(52歳)……フィレンツェ共和国の彫刻家、画家、建築家。名声を得、メディチ家出身の教皇から、数々の作品依頼を受けている。
フィレンツェの実質的支配者のメディチ家がパトロンになっているが、民主主義、共和制を支持している。
女性には興味がなくて、男性に恋したこともある。頑固な性格だが、弟子など目下で慕って来る者には優しい。
5人兄弟の次男。

ブオナロート・ブオナローティ(50歳)……ミケランジェロのすぐ下の弟。一番仲が良い。羊毛商を営み、プリオーレ職(短期間の議員)の経験あり。
妻子がいて、温厚で人当たりが良い性格だが、未だにミケランジェロの金銭援助に頼っている弟たちの一人。

バティスタ・デラ・パッラ(47歳)……ミケランジェロの友人で、反メディチ派を支持する共和主義者。
職業は美術品の仲買人で、フランス王に職人を派遣するエージェントもしている。

アントニオ・ミーニ(19歳)……ミケランジェロの弟子。少し美青年。実力は伴わないが、フランスに渡って王様がパトロンになってくれることが夢。

フィリッポ・ストロッツィ(38歳)……銀行家兼商人。フィレンツェでメディチ家に次ぐ有力者。(参照①)

アレッサンドロ・メディチ(17歳)……フィレンツェ一の有力者、メディチ家の放蕩息子。素行が悪く、市民から評判が悪い。故メディチ家当主の庶子ということになっているが、実はローマ教皇の庶子。②


(注)M…モノローグ N…ナレーション T…テロップ


〇服装参考 

“THE BORGIAS” (ボルジア家~愛と欲望の教皇一族~)  Paramount Pictures

"The Agony And The Ecstasy"(華麗なる激情)  20世紀フォックスホームエンターテイメントジャパン㈱

プラート市主催「聖帯祭」での仮装


当時のフィレンツェやローマ市民の服装のイメージ
女性はメディチ家、ストロッツィ家など高貴な家柄のイメージ


歩兵の服装イメージ(皇帝軍ランツクネヒト?)
   

【本編】

N    ――1527年5月6日 ローマ教皇と対立していた神聖ローマ帝国の皇帝による軍が、ローマ市内に侵攻し、一夜にして陥落する。
   16世紀のイタリアの地図と大勢の皇帝軍の兵士たちのイメージ。

N    この時、給金も貰えず、飢餓状態にまで陥っていた皇帝軍の兵士たちが、無防備な市民や聖職者に襲いかかり、殺傷、破壊、略奪、強姦の限りを尽くす。
   流血と、剣を振り上げる兵士、マントをかぶり逃げ惑う人々、子どもを抱えひざまずく母親のイメージ。

N    そして、メディチ家出身のローマ教皇は、聖天使サンタンジェロ城に監禁されることとなった。
   頭を垂れ、座り込む教皇のシルエット。

N    ――のちに「Sacco di Romaサッコ・ディ・ローマ(ローマ劫掠)」と名付けられた事件である。①
   火災、落書きされた宗教画、壊された彫刻、破られた多くの書物のイメージ。

T    フィレンツェ共和国 首都フィレンツェ
〇フィレンツェの街並み
〇ミケランジェロの工房
仕掛の彫刻が数個並べられている。
ミケランジェロの風貌は短髪黒髪に顔に少しの皴。髭は無し。当時の標準服で、黒長袖、膝までのチュニックを着、ベルトを締めている。アントニオ・ミーニ。帽子をかぶり、肩までの髪(ベタ無し)。少し美青年。腿までのチュニックで、ウエストをベルトで締めている。
 
震える手でビラを持ち、目を見開いて読むミケランジェロ。頬に一筋の汗。
傍で立ちすくむアントニオ。
アントニオ   「ローマで大変なことに…」
       「教皇様やセバスティアーノさんは無事でしょうか?」

アントニオ   「…この前のダヴィデの被害どころじゃなくなりますね…」
ミケランジェロ 「……」(不安な表情)
N    ――これより少し遡る4月下旬、事実上メディチ家の支配下にあったフィレンツェで、反メディチ派の暴動が勃発し――

N    鎮圧されたが、市庁舎の窓から投げられた長椅子が、入口正面に置かれていたミケランジェロの「ダヴィデ像」の腕に当たり、破損する。②
   左腕が折れたダヴィデ像と四方に散る腕のイメージ。

〇路上
人々がデモ行進し、叫んでいる。
市民     「メディチ家を追い出せ!」
      「フィレンツェから出てけ!」

デモの声を聞きながら、蒼い顔のミケランジェロ
ミケランジェロ 「……」

〇ミケランジェロの自宅 
居間(時間経過)
テーブルに向かいミケランジェロとブオナロートが並んで座り、反対側にバティスタと20代の(反メディチ)市民2人が座っている。ブオナロートは穏やかな風貌に耳までの髪。皆、服の形は前述のミケランジェロに準ずる。バディスタは淵のついた帽子をかぶっている(イメージ写真参照)。
バティスタ    「——あなた方にも是非、我々に協力していただきたいのです」

ミケランジェロ  「……」
ブオナロート   「…わたしと兄はメディチ家に、ずっと世話になっていて。それを裏切るのは…」

バティスタ    「おっしゃることはわかります、しかしそれとこれとは別だ」

酒を飲んでバカ騒ぎするメディチ家の放蕩息子2人と、教育係の枢機卿のシルエットのイメージと、熱心に話す姿の市民1。
市民1    「メディチ家の横暴ぶりは目に余るものでした――」
      「メディチ家出身の教皇様を盾に、議会を無視した傲慢の数々——」
      「戦争によるツケ、理不尽な納税」

祈る教皇と、武装兵のシルエットのイメージと、激しく話す市民2。
市民2    「教皇様が、捕らえられた今こそ、我が国フィレンツェ本来の姿民主主義に戻すチャンスです!」
      「そのためなら我々は、いかなる犠牲を伴っても戦います!」

ミケランジェロ「……」(目を見開いてゴクっと唾をのむ。頬に汗。)

バティスタ  「あとここだけの話、フィリッポ・ストロッツィ殿にもご協力いただけることになりました」(ちらっとヴオナロートを見る)
ブオナロート 「……!」(驚き目を見開く様子)
  
(回想)
机をドンと握りこぶしでたたく市民の手。
市民(セリフのみ)「あなた様もこれまで色々、メディチ家に異議を唱えて来たでしょう!」
フィリッポ  「わ、わかった」(手のひらを前にし、戸惑う)

フィリッポ  「あのせがれどもには、確かに私も見かねていた…」
高慢そうに笑うメディチ家当主の息子アレッサンドロと、イッポリート(表情なし)のイメージ。

フィリッポ  「だが知っての通り私の妻はメディチ家の人間だし、教皇様には恩義もあるし、あいつらも親族だ」(頬に汗)
       「どうかまだ、内密に…あと、殺したりしないでくれよ!」
(回想終わり)

バティスタ  「…ですからあなた方も、個人的な恩義より、国の行く末を優先してもらえませんか」

      
(時間経過)
ミケランジェロの家の前のギベリーナ通りを歩く人の姿 夕刻の情景
〇居間
向かい合って座るミケランジェロとブオナロート
ブオナロート 「…どうする?」
ミケランジェロ「……」

ミケランジェロ「…お前はストロッツイ家で働いてたし、世話になったよな」
ブオナロート 「昔のことだ。彼らの目的は兄貴だよ。その話をしたのも、きっと俺を説得役にしようとして…」

ミケランジェロ「お前だって行政高官プリオーレ職まで務めたことあるから、呼ばれたんだよ。どうしたい?」

ブオナロート 「…お、俺は兄貴に従うよ。プリオーレになれたのも、前の教皇様から爵位をもらえたのも、全部兄貴のおかげだし」(頬に一筋の汗)

「ハーッ」とため息をついてのけ反るミケランジェロ。
ブオナロート 「ごめん、こんなことしか言えない頼りない弟で」

ブオナロート 「……兄さんは今、教皇様からメディチ家礼拝堂や、図書館建築の大きな仕事を受けてて。…当然、給料もたくさん貰ってるんだよね」
ラウレンツィアーナ(サン・ロレンツォ)図書館のドアのスケッチ(ミケランジェロ作)と、メディチ家礼拝堂に置く、仕掛の彫刻のイメージ。

ブオナロート 「あと、墓碑の訴訟のことも、教皇様が兄さん側に付いてくれて、保留にしてもらってるんだろ」④
故教皇の墓碑に祀られるミケランジェロ作「モーゼ」のイメージ。

ミケランジェロ 「ああ。だがローマがあんなことになった以上、どれも、どうなるかわからんよ」(立ち上がりながら)

ブオナロート  「…じゃやっぱり、この国の行先が優先?バティスタたちに協力するの?」(笑顔で前のめり)

ミケランジェロ 「何でそう思う?」

ブオナロート  「さっき会ったあの2人見て…。昔の兄貴を思い出したからさ」
熱心に話す2人の市民の姿の回想。

ミケランジェロ 「俺?全然違うだろ」
ヴオナロート  「立場は違うけど…」

ブオナロート  「必死で、命がけで取り組んでる姿が」
紅潮して微笑むブオナロートを、口をへの字にして見るミケランジェロ。

ブオナロート  「俺にはとても真似できないよ。彼らと同じくらいの年に、兄さんはあの巨人のダヴィデを完成させたろ。そのあとは身体や目を悪くするまで、ローマで天井画を描いたっていうし、危険な大理石の発掘に何年もかけたり」
ローマのシスティーナ礼拝堂天井画と、ダヴィデのイメージ。

目が合う2人。
ブオナロート 「共感しないか?彼らと」

ミケランジェロ 「…別に。考えもしなかったよ」(目をそらせる様)

ミケランジェロ 「お前だってもっと自信を持て。お前の経歴はお前の実力なんだよ。俺の弟だってことも含めて」
「それにお前だけ結婚して、子供も3人いるんだし」
目をそらして話すミケランジェロと、紅潮して聞くブオナロート。

ブオナロート  「…ありがとう」(微笑)


(時間経過)
グラスのワインを口にするミケランジェロに話すブオナロート。
ブオナロート  「ところでごめん…せっかく融資してくれたのに、店を閉めることになって」
ミケランジェロ 「ああ、その話もあったな。前に話したが、これからは俺名義の農場の経営をたのんだぞ」
N    当然のように、次々と金銭的援助を求めて来る父や弟たちに、ミケランジェロは不平を言いながらも応じていた――

ここからコメディタッチ
ブオナロート  「あ、あとさ、そろそろ父さんに会いに来てやってよ」
        「この前カネのことで大ゲンカして…それ以来兄貴は、セッティニアーノうちに来てくれないじゃないか」

(回想)
ロドヴィコ(父) 「お前オレの年金資金を、勝手に自分名義に変えただろッ!💢」
ミケランジェロ 「はぁ!?💢」
(回想終わり)

口をへの字にふてくされるミケランジェロ。

ブオナロート 「その前は、兄貴に家追い出されたって、外で騒ぎまくったよね…兄貴が怒るのムリないけどさ」((´Д`)ハァ…)

ミケランジェロ 「別に。仕事が忙しくて、セッティニアーノに行くヒマがないだけだっ」

ヴオナロート 「来てくれよ~、80過ぎのボケたガンコ親父、オレや弟たちだけじゃ手に負えないんだよ~」(ノД`)シクシク
ミケランジェロ 「うっせーな!用が済んだらとっとと帰れ!」

警備兵の服装のイメージ

〇数日後 ミケランジェロの工房
鑿と金づちで仕掛の彫刻に向かうミケランジェロ。傍でアントニオは別の大理石を荒堀している様子。

バティスタ登場。胴にだけ防具を付けている。
バティスタ    「ミケランジェロ!」(息せき切る様子)

バティスタ    「メディチ家が追放されます!」
驚く表情のミケランジェロとアントニオ。

バティスタ    「ストロッツィ家の手で、これから護送されます」
         「わたしはこれから警備の手伝いに行きますが…」

ミケランジェロ  「…俺も行く」

〇メディチ邸
路上で数人の槍を持った兵士。その後ろにたくさんの人が見ている中、
出入口から女性や子どもが出て来て、馬車に乗せられる様子。

その中に母親らしき女性に腕を抱えられ、ムスっとした顔でいるアレッサンドロの姿。少し癖毛の黒短髪。

ミケランジェロが兵士やバティスタと並び、群衆の手前にいる。それに気づくアレッサンドロ。

アレッサンドロ 「ミケランジェロ…」(怒ってにらみつける)

アレッサンドロ 「おまえ!俺たちにさんざん世話になっておきながら…!!」(怒鳴ってミケランジェロに向かっていく様子)
兵士      「おい、こら!」(セリフのみ)

兵士とバティスタに腕を抑えられ、引きずられるように後ずさりするアレッサンドロ。鋭い目つき。
アレッサンドロ 「…っ!」
兵士       「こっちへ来るんだ!」

 辛そうな表情のミケランジェロのアップ。頬に汗。
N            ――反メディチ派の運動はやがて革命と称されるようになり
ミケランジェロはそれに協力していくことになる。

参照
①|Sacco di Roma(ローマ劫掠)…1527年5月6日神聖ローマ帝国の皇帝軍が、ローマの街を襲撃。無防備な一般市民や聖職者に対し殺戮、暴行、強奪、そして聖堂や教会に備えられていた聖具、聖遺物、芸術作品などの破壊や強奪などの犯罪行為を行った事件。
皇帝軍は主にスペイン兵、ドイツの傭兵ランツクネヒトで構成されていたが、イタリア兵もいた。


②のちにミケランジェロの元弟子、G・ヴァザーリなどの手で修復される。

③ミケランジェロはローマで故ユリウス2世教皇の墓碑の制作依頼を受けていたが、完成できず遺族から5年程前より訴訟を起こされていた。


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