AIと概念理解する方法を考える-AI共創ラーニングの可能性―
最近、研究仲間の田原真人さんから「AIで概念理解を深める」という新しいアイデアを伺いました。認知科学者の三宅なほみさんは「深い概念理解には従来の大学の教え方を改革する必要がある」と述べています。
大学授業でよく行われている概念の背景・定義・事例を説明する方法だけでは概念理解は不十分だとずっと感じていました。これまでにも様々な方法を試してきましたが、今回は「AIと共に概念理解を深める方法」を探るため、ChatGPT4oと対話をしてみることにしました。
わたし:
まず、中学校社会科の公民分野で学ぶ概念「効率と公正」というを理解してみたいと思います。ChatGPT、この概念について「深い問い」を提案してもらっていいかな?
ChatGPT:
もちろんです。以下の問いが考えられます。
「効率を追求することで、公正さを損なうことがあるのはなぜか?」
「公正を優先することで、効率が犠牲になる状況にはどのようなものがあるか?」
「効率と公正をどのようにバランスさせるべきか?」
「効率が最大化された社会と、公正が最大化された社会の違いは何か?」
「どのような状況では、効率よりも公正を優先すべきか?」
一つ目の問い:「効率を追求することで、公正さを損なうことがあるのはなぜか?」
わたし:
具体的な例が思い浮かばないのだけど、いくつか挙げてもらえますか?
ChatGPT:
はい、具体例をいくつかご紹介します。
教育におけるリソース配分: 成績優秀な生徒にリソースを集中させると効率的ですが、他の生徒が十分な支援を受けられず、公正さが損なわれます。
医療の優先順位: 命にかかわる重症患者を優先すると、軽症患者が待たされ、公正とは言えない状況が生まれます。
企業のリストラ: 業績改善のためのリストラは効率的ですが、解雇される従業員にとっては不公正です。
わたし:
なるほど。教育現場でのリソース配分については特に考えさせられます。効率を追求することで、公正さが損なわれる場面があることがわかりました。
二つ目の問い:「公正を優先することで、効率が犠牲になる状況にはどのようなものがあるか?」
わたし:
例えば、政府が経済支援金を全員に同じ額配布する場合、公正に見えますが、本当に困っている人々にとっては十分ではないし、裕福で支援の必要のない人には「無駄」になりますね。
ChatGPT:
その通りです。一律の配布は公正ですが、リソースの効果的な活用という意味では効率が低くなります。
三つ目の問い:「効率と公正をどのようにバランスさせるべきか?」
わたし:
三問目、バランス問題。たとえば医療における優先順位について考えてみます。重症患者を優先的に治療しようとした場合、「救命率」といった価値を社会的に承認してもらい、それを一つの目安、つまり分水嶺とします。それ以上の重症度であれば重症患者を優先し、それ以下であれば軽症の患者は先着順で治療するというふうにしたらいいんじゃないかなと思います。つまりポイントになるのは、分水嶺となる目安を社会的に合意するということかなと思います。教育においても多分それでいけると思います。
ChatGPT:
おっしゃる通りです。効率と公正のバランスを取るには、まず基準となる価値や目安を社会全体で合意することが重要です。
・医療の例: 救命率や重症度といった客観的な指標を基準とし、それを社会的に承認します。重症度が一定の基準を超える患者は優先的に治療し、それ以下の軽症患者は先着順や別の方法で対応します。これにより、限られた医療資源を効率的に使いながら、公正性も保つことができます。
教育の例: 学習到達度や支援の必要性を基準に設定します。特定の基準を超える生徒には追加のサポートを提供し、それ以外の生徒には基礎的な教育を提供することで、全体の学習効果を高めます。この場合も、基準を社会的に合意することが重要です。
ポイントは、分水嶺となる基準を社会的に合意し、それに基づいてリソースを配分することです。これにより、透明性が確保され、関係者全員が納得しやすくなります。また、基準の設定プロセスに多様な意見を取り入れることで、公正性を高めることができます。
わたし:
基準を社会的に合意することで、効率と公正のバランスを取ることができるのですね。このアプローチ、他の分野でも応用できそうです。
四つ目の問い:「効率が最大化された社会と、公正が最大化された社会の違いは何か?」
わたし:
効率が最大化された社会では、生まれながらの不利な条件を持つ人々が取り残される可能性があります。一方、公正が最大化された社会では、「復活戦」のような再挑戦の機会を提供する仕組みが必要だと思います。
ChatGPT:
その通りです。再挑戦の機会を提供することで、全ての人が平等にチャンスを得られる社会を目指すことが公正の最大化につながります。
わたし:
ただ、「復活戦」を可能にするためには、財源の問題が出てきます。例えば、ベーシックインカムのような制度は理想的ですが、実現可能性についてはどうなのでしょうか?
ChatGPT:
ベーシックインカムは全ての人に一定額の収入を保証する制度ですが、財源の確保が課題です。既存の社会保障制度を統合し、効率化することで財源を確保する案もありますが、社会的な合意が必要です。
わたし:
そうですね。税制の再編や社会保障制度の見直しが必要になるでしょう。
五つ目の問い:「どのような状況では、効率よりも公正を優先すべきか?」
わたし:
やはり「人権に関わる問題」では公正を最優先すべきです。また、透明性を担保するために、議論を通じて公正を優先する場面を見極めることも重要と思います。
ChatGPT:
おっしゃる通りです。人権は効率よりも優先されるべき領域ですね。ディベートや透明な意思決定プロセスを通じて、公正を確保することが重要です。
学習プロセスの振り返り
わたし:
今回の探究を通じて、効率と公正のバランスの取り方について「深く」考えることができました。ただ、私が見落としている点はないでしょうか?
ChatGPT:
はい、追加の視点があります。
相対的公正の視点: 公正は個人の立場によって異なる場合があります。特別支援教育のリソース配分では、支援を受ける生徒にとっては公正でも、他の生徒にとっては不公平に感じられるかもしれません。
持続可能性の視点: 公正を追求することでリソースが過度に消費され、長期的な持続可能性が損なわれるリスクがあります。
わたし:
特別支援教育の例は興味深いですね。相対的公正の問題を解決するには、どのようなアプローチが有効ですか?
ChatGPT:
リソース配分の透明化と関係者全員での議論が重要です。誰がどれだけの支援を受けているのかを明確にし、それについて意見を交換することで、納得感のある解決策を見つけることができます。
学習理論との関連
わたし:
ちなみに、「深い問い」に答えることで概念理解が深まるのは、どのような学習理論に基づいているのでしょう?
ChatGPT:
この学習プロセスは、主に以下の学習理論に関連しています。
構成主義(Constructivism): 学習者が自らの経験や思考を通じて知識を構築することで、深い理解が生まれます。
社会的構成主義(Social Constructivism): 他者との対話や共同作業を通じて、知識や理解を深めます。
探究型学習(Inquiry-based Learning): 自ら問いを立て、それに対する答えを探す過程で学習が深化します。
教育現場での応用とAIの役割
わたし:
このプロセスを中学生の学習に取り入れる場合、AIをどのように活用すればよいでしょうか?
ChatGPT:
以下の方法が考えられます。
学習者自身が問いを立てる: 生徒が自分の疑問から学習を始められるようにします。
AIの設定を工夫する: 教師がAIの役割や介入のタイミングを事前に設定し、効果的なサポートができるようにします。
リフレクションの促進: 学習後に生徒が自分たちの議論を振り返り、学びを深める機会を提供します。
わたし:
つまり、教師がファシリテーターとしてAIを適切に設定し、生徒の主体的な学びを支援することが重要ですね。
ChatGPT:
はい、その通りです。教師とAIが協力して、生徒の深い概念理解を促進する学習環境を作ることができます。
まとめ:
今回、AIであるChatGPTと共に「効率と公正」について探究し、概念理解を深める新たなアプローチを体験しました。AIと共に概念理解する方法を考える中で、「AI共創ラーニング」(@田原真人)の可能性を強く感じました。深い問いに取り組むことで、自分自身の考えを整理し、学習理論に基づいた学びを実感しました。このプロセスを教育現場で活用することで生徒たちの深い概念理解を促進できるのではないかと感じています。