怖くないホラー、とは?
読書感想文 『火喰鳥を、喰う』原浩
横溝正史ミステリー&ホラー大賞ということで、かなり期待して購入。期待値が高すぎたのかもしれない、というのが感想。
まず、主人公含めて登場人物がぼんやりしている。どんな人なのかわからず、感情移入もままならない。人間は物語の装置でしかないのかな。主人公も意思があるような無いような立ち位置で、キーともなる主人公の妻は結局よくわからなくて仕方がない。魅力が感じられない、のかな。
現実と夢が交互に描かれるのだけど、夢の描写はおどろおどろしくしようとして、でもなんか、映画とかで観たことあるなーっていう範囲。夢が現実と呼応して現実を侵食していくけど、驚きが無い。サイレントヒルの方が、侵食されてる様子が怖かった。
そう、ホラーなのに怖くなかった。
最後の選考委員の書評があり、そこに「怖くなかった」という意見が見られ、やはり、となる。ただ「怖いというのは主観的であり、誰かにとっては怖いかもしれない」ということも書かれており、なるほど、とも思う。
なぜ、怖くなかったのだろうか。
一つ目は、モチーフとなっている火喰鳥かな。日本ではあまり馴染みがないからかもしれない。ダチョウほどもある体高は世界で2番目に重い鳥なのだそう。克明に描写はされていたけど、想像が難しい上に、怪鳥としての火喰鳥を重視するがあまり現実の火喰鳥の記述が乏しい。日記と現実に隔たりがあって、地続きじゃないから、火喰鳥が怖くない。
二つ目は、主人公の危機感が伝わってこない。謎の展開に流されすぎていて、考えているようで思考を放棄している。妻はやたら怖がってるけど。
三つ目は、筋道がたっていないこと。きっかけとなる墓石が削り取られていたことや、弟の行動などがどうも説明しがたい。当初は、呪いかなんかの想像し得ない力と片付けるけど、進めば進むほど、それでは片付かないのでは?となる。そういう些末な部分が気になるようになって仕方がなくなる。
四つ目は、結局、火喰鳥関係ねぇな?ってなるから。ちゃんと恐怖とモチーフがリンクしてない。してなくても怖い作品はあるけど、本作は最後まで火喰鳥を引っ張るのだから、ちゃんと火喰鳥と重なってほしい。あれ、火喰鳥ちゃんは?こういう感じなら、フラミンゴでも鹿でも変わらんな、となってしまった。
と、ここまで書いたけど、もちろん大賞だけあって面白いところもあって、ホラーって田舎をめちゃめちゃ良いように使ったりするけど、田舎の描写に好感が持てたし、表現は好みが別れるかもしれないけれど、一文一文が丁寧だったし。構造は面白かったし、オチも好きでした。作者、常識人なのかな。恐怖するほどのヤバさを感じる登場人物がいなくて、そういう人間が嫌いな人もするっと読めます。
あと、表紙が素敵。
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