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博士、老いるのはまだ早いですよ!



老いと闘う水道橋博士


 お笑い芸人の水道橋博士氏が還暦を過ぎて老いを感じつつあるとの心境を語っていました。以下の博士氏の言葉は事の重大さを伝えています。

< 60歳を超えて、ますます肉体は経年劣化が進んでいる。一日中、身体が痛い。この与えられた躯体のなかに、今後も老いた精神が住んでいけるのか?毎年不安が増していく。しかし、人間ドックは誰もがアチコチで呟くように、健康体であることの太鼓判を押されても、「あら??マジで?」と釈然としないものだ。空振り感がつきまとう。
 むしろ、金と時間をかけて食事と酒の楽しみを削りながら、自分の知らざる病魔の進行ぶりを科学の叡智に知らされ、人生の方針転換を迫られるのが一番の「当たり」なのだ。
 そういう意味では長年通っているが、何時も「チップ」止まりの当たりなしが続いている。芯を捉えた重大な病名宣告はボクの最も望むところなのだ。この日に向けて飲み続けてきたのだから。>

水道橋博士 note『【博士虎人舎日記】★24年12月10日(火曜)虎人舎の3人で「新赤坂クリニック青山」へ。健康診断(人間ドック)は大人の階段のくだり坂でやるものだ。帰宅後、初めてのゲーム実況。「ドラクエ3」で。』2024年12月11日


 水道橋博士氏は飲酒と美食(?)の習慣が身についてしまっているようです。博士氏にとって、人生のささやかな愉しみであることは間違いないでしょう。
 2024年9月に逝去した文芸評論家の福田和也氏は10代から30代まで食と酒飲を派手に繰り返し、美食三昧の生活を送ってきました。ただ「暴食」といえるほどの食べっぷりが徐々に福田氏の体を蝕んでいくことになったのでしょう。
 福田和也氏のゼミの門下生だった作家の鈴木涼美氏は現代ビジネスのコラムで福田氏との想い出の中で、日本の伝統料理店と食文化を守るべきだと主張する恩師の言葉に胸を躍らせたと言います。

< 保守として「靖国神社よりもキッチン南海を守る」ことを生き様とする先生は、私たち門下生を連れ歩く時も、自分の信頼する通い慣れた店を使った。ゼミの納会は決まって新宿の末廣亭正面の中華屋だった。
 それは贔屓の店を守ることにとどまらず、若者たちに日常を作っていく悦びを伝授し、私たちをのっぺりとした世界から守ることでもあった。刹那の煌きだけで生活を構成しようとしていたような二十歳前後の私も、何年かゼミ生であったことで大学や中華屋や蕎麦屋を組み入れた日常を送らざるを得なかった。>

現代ビジネス『保守とはポルノ女優に本を読ませ、蕎麦を食わせることでもあった《福田和也『保守とは横丁の蕎麦屋を守ることである』に寄せて》』2023年4月27日

 鈴木氏は「保守論客」としての福田和也よりも「美食の店」を「保守」する福田和也の方が印象深かったそうです。晩年の福田氏はやせ細った姿で最期となる書を書き終えていました。美食巡りは人生の至福の時間を充実なものにさせていたことでしょうか。それだけ日本の料理文化を守ることに想いを馳せていたのです。
 好きなものを食べたい時に食べる。それは構いませんが、暴飲暴食が命を縮めることは誰でも理解しています。ほどほどにしたくてもできないのは人間の宿命なのかもしれません。


タモリさんに学ぶ「僕はまだ若造だ!」の心意気


 水道橋博士氏もまだまだ食文化を応援したい一心であるはずです。食べたいものややりたいこともたくさんある。それならば、「博士!老いるのはまだ早すぎますよ!!」と申し上げたいです。

 人は誰しも「老い」から目を逸らすことができません。若者たちもいずれ必ずやってきます。それでも、身体も心も若々しくありたい、と願う人は多いでしょう。そんな時は「オレはまだ若造だ!」「オレはまだ、はなたれ小僧の一人だ!」と自己暗示をかけるのです。この言動は心理学的に正しいとされています。タレントのタモリ氏(森田一義)も「僕は大人じゃないんですよ。」と口癖にしています。

 心理学者の内藤誼人氏は『タモリさんに学ぶ「人生のたたみ方」(廣済堂出版)の中でタモリ氏の言葉を例に出し、次のような提言がなされています。

< タモリさんは、自分の精神年齢がかなり若いと思っているようです。

「僕はずっと流されて生きてきたんですよ。流れに乗ってるだけなんです。自分で動かさないんですよね。(中略)大人じゃないんですね。成熟してないんですよ」
(『ターザン』1998年10月28日号 p58)

 自分が成熟した大人ではないということを自己認識できるのは、立派に老成しているあかしであろうとも思うんですが、ともかくタモリさんは自分を若造のように思っていることは間違いありません。
 読者のみなさんも、できるだけ自分のことを子どもだと思うようにしてください。そのほうがいつまでも元気なままでいられますから。
 フランスにあるモンペリエ大学のヤニック・ステファンは、1995年から1996年と、2004年から2005年に行なわれた全米の中高年生活調査(3209名)と、2011年と2013年に行なわれた健康と加齢傾向調査(3418名)について分析し、3つの研究ともすべてで、「主観的に老けている」と感じている人ほど、病気になりなすいことを突き止めています。

「いやあ、私も老けたな」と思っていると、身体のほうもどんどん弱ってしまいますので注意してください。
「私なんてまだまだ若造」だと思っていたほうがいいですね。若いと思っていたほうが、自己暗示の効果もあって、いつまでも若々しくいられるのでははないかと思われます。
 政治の世界では、高齢の議員も現役で活躍しているので、50歳になっても60歳になっても、「まだまだ洟垂はなたれ小僧」と言われるという話を聞きますが、自分のことを洟垂れ小僧だと思えるのは、悪いことではありません。政治家には高齢でも元気な人がたくさんおりますが、主観的に老けたと思わないので元気でいられるのでしょう。
「私はずいぶん老けた」と思ってはいけません。主観的に老けたと思っていると身体も老け込んでしまいます。
 たとえ何歳になっても、私は中高生くらいだと思っていたほうがいいですよ。精神年齢が若いほうが、身体もずっと若いままでいられます。

『タモリさんに学ぶ「人生のたたみ方」』廣済堂出版 p.108-110

 内藤氏の見解は説得力があります。「俺ももう老けたなあ…。」と口癖にしてしまうと、身体も心も思うようにいかなくなります。逆に「オレはまだまだ若造だ!やりたいことはたくさんあるんだ!!」と自己暗示をすれば、身も心も軽くなるのです。水道橋博士氏はやりたいことがあるのであれば、「僕はまだまだ若い!」と暗示していただければよいと思います。博士氏の弟子たちも「おおお!!」と喜ぶこと間違いなしでしょう。


現役バリバリのささきいさお



 私が思い出すのは『宇宙戦艦ヤマト』の主題歌を披露した歌手で声優のささきいさお氏の言葉です。あれは確か2012年4月12日のNHKのど自慢で、ささき氏がゲストとして出演した頃です。ささき氏のファンである出場者の一人の男性が熱唱を終えた後のインタビューでこう語っていました。
 司会は元NHKアナウンサーの徳田章氏でした。

男性  いつもダンディーでかっこいいですが、その若さの秘訣を教えてください。
ささき  いやあ、もうね。暇になると、ジムに行ってね。エアロビクスをずっとやっているんですよ。寄る年波を追い返すって。ははは (笑)
男性  か!かっこいいです!!
徳田  ね、(ささきさんは)体を鍛えてらっしゃるということで。

※太字は筆者強調

NHKのど自慢 2012年4月22日放送 インタビュー

 82歳を迎えた今も現役を続けています。コロナの影響下で音楽活動は自粛ムードが広がっていました。けれども、それを乗り超えた今、元気に歌を披露しています。最近でも2024年5月19日の生放送に出演し、見事な熱唱ぶりだったそうです。

 水道橋博士氏は周りの老いにまつわる悲観的な話に右顧左眄うこさべんせず、思う存分に楽しんでいただきたいです。そうなれば、若林凌駕氏(放送作家・22歳で古本興業を開く代表取締役社長)をはじめとする若者たちは博士氏のマインドに大いに共感することでしょう。

 タモリ氏やささきいさお氏のような明朗快活な芸能人であることはエンタメを愛する私たちにとって「生きる勇気」を与えてくれるものではないでしょうか。
 是非、寄る年波を「老い」返していただければと思っています。


<参考文献>

内藤誼人『タモリさんに学ぶ「人生のたたみ方」』廣済堂出版 2024

<参考写真>

※ 写真は借用させていただきました。この場をお借りして感謝を申し上げます。ありがとうございました。


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ハリス・ポーター
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