サルトルのこと
高校の倫理の授業でいちばん理解できた人。
ジャン=ポール・サルトルは1905年パリ生まれ。哲学者であり、作家でもあった。
2歳の時に父親を亡くし、ドイツ語教授で音楽や文学に精通する祖父のもとで育った。実家に出戻ることになった母親は再婚するまで働きづめ。父の死は「母を鎖につなぎ、私に自由を与えた」と彼は振り返っている。
彼はパリの超秀才校・高等師範学校哲学科へ進み、その後教師として哲学を教える傍ら、ベルリン留学。詩や小説を書くようになった。チャップリンなど娯楽映画を好んでいたらしい。
彼の作品で好きのが、戯曲「出口なし」。
凄惨な過去をもつ3人が密室に集められる。反戦主義を掲げる新聞社のジャーナリストの男、他人を苦しめずには生きられない女、歳の離れた裕福な夫をもち若い恋人があった女。彼らは互いを知らず、なぜここにいるのかもわからない。自らを語り、犯した罪が明らかになっていくが、その先に救いはない…。
2018年夏に、シス・カンパニーが上演。
新国立劇場 小劇場であった東京公演を鑑賞した。大竹しのぶさん、多部未華子さん、段田安則さんの感情がぶつかり合う演技に、観終わってどっと疲れが出るような、重みのある舞台だったと記憶する。
共感と批判で生まれる2:1の構図に納得も、変わる組み合わせに人の心情は滑稽だと思ったり。劇中、鏡がキーアイテムになっていて、鏡がない密室で「自分」という存在を見ることができるのは「他者」。他者の評価によって自らをようやく認識できる。多部さんの役が鏡を求めて狂って、大竹さんの役の瞳に映る自分を見て安堵するシーンは印象的だった。他者との関係性が、地獄にも救いにもなるなと。「出口なし」は彼の主著「存在と無」を大衆向きに簡単に表現した劇といわれているという。説明は難しいけれど、観れば言わんとすることは理解も共感もできる。
実存主義者の彼は、学生時代に出会った哲学者のシモーヌ・ド・ボーヴォワールと契約結婚を選び、互いの自由恋愛を認めつつ、生涯よきパートナーであり続けたという。フェミニストの彼女だから、互いの理想の形を求めた結果でしょう。自分を抑え込まず、一女性として男性との対等な共同生活を送るには、素敵な形だと思う。彼は女性にモテたようだし、気持ち的にも楽そう。
*記憶に加え、シスカンパニー公演「出口なし」のパンフレットを参考に書きました。つらつら書きたい題があるので、その前置きとして。