原健太がAA Health Dynamicsを立ち上げアフリカのヘルスケアに取り組むまでの軌跡
日本人のアフリカでの活動といえば、ボランティアを想起する人が多いだろう。しかし対価のない協力はお金が尽きれば絶える。真にアフリカを含めた開発途上国のためを思うならサステナビリティ(持続可能性)のある開発をすべきだ。AA Health DynamicsのCEO・原健太(はら・けんた)は日本に生まれ、アフリカと出会い、可能性を感じた社会起業家である。順風満帆のキャリアを歩んできた彼が、日本とアフリカを繋ぐビジネスをする理由は何か、話を伺った。
(プロフィール)
原健太(はら・けんた):東京農業大学大学院修士課程(国際農業開発学)を卒業後、同大学にて助手として勤務。2014年にJICA青年海外協力隊として野菜を通じたヘルスプロモーションを行うためサモア独立国に赴任。帰国後は、立命館大学にて、大学リサーチアドミニストレーター(URA)として知的財産管理、新規事業開発、プロジェクトマネジメントに従事。大阪大学・立命館大学リーンローンチパッドプログラム修了。同プログラムのメンターとして参画。東京大学ischool(デザイン思考)アドバンスド・ファシリテータープログラム修了。ソーシャルマーケティングを行う『AfricaScan』のゼネラルマネージャーとして、ケニア・東アフリカの医療課題の解決や健康増進に関わり、AA Health Dynamics株式会社を設立。アフリカ・アジアのヘルスケア課題の解決を日本のパートナー、テクノロジーと共に目指します。
「人前に立つのが好きだった」。アフリカとの出会い
子供時代を振り返ると、相手を楽しませるのと新しもの好きの子どもでした。小学校夏休みの自由研究では持ち前の想像力を生かして大人顔負けの作品を作り周囲を驚かせたこともあります。
中学・高校時代はテニスに身を捧げました。中学のときは万年一回戦負けの弱小チームを部長として県16位に導きました。テニス推薦で入学した高校では、再び部長としてチームを全国2位のチームに育て上げました。
白衣姿で仕事をする研究者への憧れから、大学は東京農業大学(アクアバイオ学科)に入学し、4年間を北海道で過ごします。大学では人の食が肉体の筋肉に与える影響に興味を持ち研究しました。そのまま大学院に進んで研究を続けることに迷いはありませんでした。
大学院では、ジャマイカの元陸上競技選手ウサイン・ボルトのお父さんが「ボルトはヤム芋を食べていたから金メダルを取った」という話に関心を持ち、人間の筋肉の発達にヤム芋がどのような効果があるか、研究しました。
研究の結果、ヤム芋は確かに人間の筋肉痛を軽減させ、より強度の高いトレーニングを可能にする効果があるとわかりました。ボルトのお父さんの言うことは妥当性があったのです。この頃から食べ物と人間の健康との結びつきに深い関心を持つようになりました。
そんなときに、「ヤム芋の栽培をしているパプアニューギニアに行ってその様子を直接見てきたらどうか」という教授の一言で、パプアニューギニアに2週間行くことに。今思えば、これが人生の転機でした。
印象的だった出来事は、パプアニューギニアのおじさんが足を切ってしまったときのこと。現地では、植物を傷口にすりこむ習慣がありましたがひどく腫れるのが常でした。そのとき私がたまたま持っていた100円均一のオキシドールをおじさんの足にかけ消毒しました。すると全く腫れがなく完治し「お前が持ってきたのは魔法の薬だ!」と驚かれました。
この体験は強烈に私の脳内に記憶として残りました。本当にちょっとしたことで、人々の生活に大きなプラスを生み出せる。このときですね、発展途上国の健康課題に強い意識を向けるようになったのは。
サモア独立国への赴任で感じたサステナビリティの欠如
大学院修了後は、「食べ物と健康」と「発展途上国」のテーマを深掘りするために、JICAの青年海外協力隊のプログラムに参加し、サモア独立国へと赴任しました。プロジェクトのテーマは「野菜の栽培を通じて同国の人々を健康にすること」でした。
サモア独立国にはふたつ島があって、それらの面積を合わせると大体鳥取県と同じ。人口は18万人で、多くの人々が出稼ぎに行っています。象徴的なのは世界一の肥満大国であること。女性の平均体重は約80kgです。私はこの肥満という問題を解決するために派遣されたわけです。
1年目は、サモア独立国に10くらいある病院の近くに野菜畑を作る活動をしました。しかし半年経つとメンテナンスがされないため、畑地ではなく草原へと戻る。これを繰り返しても仕方がないと思い、違うことをしようと決めました。
決定的に欠けていたのはサステナビリティの視点でした。保健所の職員や看護師とどうしたら持続可能性のある開発ができるか討論し、中学校/高校でのヘルスケア・プロモーションに力を入れることにしました。
現地でワークショップをすると驚くことがたくさんあります。例えば、現地の子どもにスプライトのカードを持たせると野菜に分類するんですね。「え?」って思いますよね。でも彼らからするとパッケージに果物がプリントしてあるので、野菜の仲間だろうと認識するのです。これでは保健省がいくら野菜を食べようと言っても、スプライトを野菜と思っているんだから効果はないですよね。
しかしこのようなプロモーションは単発的には上手く行くものの、現地に根付かせるためには何かが足りない⋯⋯。そんな折に、サモア独立国にある矢崎総業というトヨタの部品を製造している企業と出会いました。矢崎総業の現地従業員は、日本企業の文化である規律の精神が根付いており、遅刻や盗難をしないと評判でした。
このとき感じたのは、現地の人々にきちんとインセンティブを与えれば、正しい振る舞いをするようになるという洞察でした。そのために必要なのはビジネスの視点ではないか⋯⋯そんな課題を感じながら日本へと帰国します。
日本のテクノロジーとアフリカの医療を繋げる架け橋に
日本帰国後は、ビジネスについてアカデミックな視点から学ぼうと決めました。立命館大学でURA(University Research Administrator)に就き、順天堂大学や大手企業との産学連携プロジェクトに従事しました。
この経験は日本の科学技術の活用の方法や大企業などがどのように事業を作っていくかを考えることができた意味で、私のキャリアの上で大きなターニングポイントになりました。特に新たなイノベーションを生み出すためにビジネス開発をする上で私の考え方のベースとなっている「リーンローンチパッド(※)」での新規事業の生み出し方に大きな可能性を感じ、実践したい気持ちが強くなりました。
※新規事業立ち上げの手法のひとつ
その後、国連大学のグローバルリーダーシッププログラムの奨学金をもらい博士課程に進みます。そこでは、現地の農家の人たちが生活習慣病になってしまう要因を深く調査・研究していました。私の興味は、どうしたら医療以外の手法で現地の健康問題を解決できるかでした。
ここでケニアの友人の紹介により、アフリカでヘルスケア・マーケティングを行うAfricaScanという企業へとジョインします。AfricaScanでは、予防医療のワークショップやウェビナーを通じて、患者の健康に対する意識を変えることで、健康的な振る舞いへと導く取り組みをしています。
AfricaScanに私が着任した2020年前半では事業として上手くいかないところもありましたが、2020年後半から少しずつ案件が取れるようになり、創業以来赤字だった会社を黒字化して事業を復活させることに成功しました。
そして、AfricaScanの事業を活用し拡大させるために設立したのが「AA Health Dynamics」です。弊社では、日本の技術や知識を上手く現地の医療関係者に届けることで、医師一人ひとりの生産性を向上させることを目指しています。
「手応えはある」。原健太のこれからの挑戦
現地の医療関係者と繋がることは日本企業にとってもメリットがある話です。内需が頭打ちとなる中、アフリカという新規市場に進出したい日本企業は数多くいるでしょう。
我々はこれまでのべ10,000人の医師へと医療教育プログラムを提供しています。これらを通じて我々には現地の医療関係者のリアル・インサイトという一次情報が集まっています。アフリカに進出をしたい日本企業にとっては非常に有益なものとなるでしょう。
日本企業向けのウェビナーやワークショップを日々開催しています。そして確かな手応えを感じています。我々としては、現地の生活者と医療関係者、日本企業が三方よしとなる形で持続可能的に事業を展開しているため、現地の課題に中長期的に取り組む基盤が整っています。
以上、これまで原健太が歩んできた軌跡です。これからの使命は、事業をスケールさせること。少しでも原健太のやっていることに興味・関心を覚えた方は、ぜひ「いいね」や「フォロー」をしてくださいね。これからも継続的に情報発信を続けていきます。
<vol.2>
<vol.3>
我々はさまざまな形でお付き合いのできるパートナーを随時、募集していますのでぜひホームページをご覧になって、お気軽にお問合せください。
AA Health Dynamics
取材・文:師田賢人
撮影:師田賢人
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?