SORAからHARMONIAへ ── フルリモートだったリブランディングの舞台裏 ──
こんにちは。
ハルモニアのデザイナー、武田ななです。
(旧社名)空は8月24日をもって(新社名)ハルモニアへ社名変更をしました。
この記事では社名変更に合わせたロゴの刷新やブランディングなどデザインに関する経緯についてお話しできればと思います。
デザイン以前の経緯については、別の記事で掲載予定です(お楽しみに!)。
旧社名のダークサイド
もともとの空という社名ですが、創業から6年間名乗っていたこともあり、社内メンバーはもちろんのこと、周辺の方も実際かなり親しんでいた名前でした。
しかしながら、初めてのお客様にご挨拶すると、必ずと言っていいほど言われるのです。
「プライシングの会社で、なんで空なんですか?」
ついでにいうと、空のロゴは飛行機をモチーフにしており、こうも言われました。
「なんで飛行機なんですか?」
実はこれにはワケがあって、スタートアップにはつきもののピボットを空も経験してきたという歴史があります。創業当時、空は航空事業に携わっており、そこからダイナミックプライシング領域へと進化を遂げてきました。
今でこそ業界を跨いでサービス展開していますが、上記のような背景に触れられない場所では、常にプライシングと社名の間で疑問を持たれていたのです。
ダイナミックプライシングの分野でだんだんと空が注目されるにつれて、このギャップを野ばなしにし続けてはいけないな、という気持ちがありました。
コロナ禍で世の中が仕切り直しになっているこのタイミングで、空は社名を変え、組織の実態と見え方を統一することに決めました。
ユーザーと自社課題、どっちが大事なの!? に対する答え
上記の課題がありつつも、これまで手をつけられていなかった理由がもう一つあります。それは社内リソースを常にプロダクト改善へ全振りしてきたことです。
社名と実態のミスマッチは解消したい。でもそのためには空社内での議論やリソースもかなり必要…。現状少人数精鋭なわたしたちは、とても社名変更に関わる様々な作業にリソースを割く余裕がありませんでした。
そこに時間をかけるより、少しでもプロダクトをいいものにしたい、多くのユーザーを幸せにしたい、という想いを優先し続けてきた結果、なかなか社名変更ができずにいました。
そんな中、私たちの答えとしては、信頼できるパートナーにディレクションとVI提案をお任せすることで、プロダクト改善を妨げずに社名変更を行う、という方法をとることにしました。
これによって、ユーザー課題も自社課題も同時進行で解決することができます。
GOと走り出すまで
本リブランディングは、クリエイティブエージェンシーのGOさんをチームに迎えて行いました。
世の中にたくさんのデザイン会社がある中で、わたしたちがGOさんとパートナーを組んだのにはいくつかの理由があります。
まず、GOさんはスタートアップのブランディングに関して多くの実績がありました。スタートアップの抱える懐事情や未成熟さをよくご存知でしたので、そういった意味ですでに知見があるというのはとても心強く感じました。
つぎに、リブランディングの領域を超えて私たちへのサポートを考えてくださったことです。相談をさせていただいた際に、リブランディング面だけでなくGO FUNDからの投資のお話が上がりました(そして実現しました)。
投資というのは、わたしたちの成長に期待してくださって、長期的なお付き合いになる覚悟がないと難しいものです。そんな姿勢は、自分たちが大切にしているカスタマーサクセスの文化にマッチする気がしました。
実際プロジェクトがスタートすると、壁を感じることなくコミュニケーションが取れましたし、プロジェクトの本筋ではない周辺の相談にも乗ってくださいました。本当にありがたく感じています。
完全リモートのリブランディングプロセス
タイトルにもある通り、今回のリブランディングはすべてオンラインで進められました。それは対GOさんだけでなく、社内メンバー同士も完全にオンラインのコミュニケーションです。
コロナのリスクを減らすためとはいえ、わたしの中ではブランディングって「壁にいっぱい付箋張って、ブレストして…」というイメージだったので、どれくらい中身の質を高められるのか正直不安でした。
しかし今回はGOさんという強力な助っ人を信頼し、「とにかくやってみよう!」という気持ちでスタートすることに。
キックオフではGOさんディレクションのもと、まず全体のスケジュールをざっくりと確認し、いざフルリモートのリブランディングプロジェクトが幕を開けました。
1. CEO 松村からVisionの抽出
何よりも最初に手をつけた(そしてメインである)社名の検討ですが、これは松村の想いを中心にヒアリングしながらイメージの解像度を上げていきました。
GOさんとzoomで対話を重ねる中、松村の言葉もどんどん整理され、目指す世界観がより具体的に見えるようになりました。結果的に社内メンバーにとっても松村のvisionの理解が深まる機会になったと思います。
このフェーズの結果として、Vision / Mission / Value が今〜未来に向かってどんな切り口で語られるべきなのか共通見解が持てました。
Vision / Mission「世の中はダイナミックで良い」
価値とはその時々の状況や人によって変化するもので、価値につける価格に「固定」な答えはない。本来はダイナミックな世界こそがありのままの姿。
慣習として存在する「固定価格」にとらわれることなく、テクノロジーの力でダイナミックな世の中への選択肢を増やすことが使命。
Value「ビジネスの幸せとパーソナルな幸せを両立する」
パーソナルの幸せとは持続可能な社会で、自分や子どもたちが安心して暮らせること。ビジネス(経済成長)とサステイナビリティ(持続可能性)はどちらかが犠牲になるものではなく、人はデザイン次第でこれらを両立することができる。
2. 社名の検討
抽出した情報をもとに、GOさんが社名のたたき台を展開してくださいました。
この過程で「これはいい」「あれは違う」という対話をしていると、目指している世界観の外側にある自分たちのパーソナリティが浮き彫りになっていきます。
私が感じたのは、自分たちがちょっとSFチックな未来への期待を持っていてることと、逆に歴史や神話を由来とする過去へのリスペクトも持ち合わせているということでした。名前の議論を進めていくと、そういった要素に由来するネーミングが残っていきました。
結果として、ギリシャ神話の調和の女神である「ハルモニア」を社名とすることに決まりました。
ほかの候補に比べて発音が日本的でもあり、また私たちが昔から掲げている「経済活動と個の幸せの両立」を「調和」という言葉でわかりやすく示せるワードでもありました。
(実は、この名前にはとあるSF作品へのリスペクトも含まれています笑)
3. ロゴの検討
社名も決まり、いよいよロゴの制作にあたります。
今回実作業に携わってくださったのはGOの横山徳(よこやま のり)さんです。凛々しいですね。
週一回のオンライン定例の場で【ロゴを展開する】→【フィードバックを得る】というやり取りを繰り返しました。
これまで話してきたVisionや世界観を発展させて「最初のうちはとにかく色々な方向性を探った」という横山さん。
初期のロゴ案 ↓
調和やダイナミック性というテーマの難しさ
まず、調和というテーマについて。
横山さんとの後日談で、「ハルモニアのロゴデザインで大変だったのは、利益追求と環境追求だったり、一見すると相反するを調和させるというテーマでした」と、伺いました。
私から見ても、これはかなり難しいテーマだったと思います。
調和という言葉が設定されているものの、その中で表現したいキャラクターとしての像が見えない……そんな状況でした。
その時はとにかく色々なロゴを当てていただきながら対話を重ねました。
そうこうしているうちに、自分たちも具現化しきれていなかったハルモニアの調和の背景にある特性が浮き彫りになってきます。
調和って一見穏やかな響きだけど、相反するものを混ぜて新しい解をつくっていくビジョンは、かなりパワフルな意味を持っているよね。わたしたちの言う調和とは、ただただ優しいだけの調和じゃなくて、混沌としたイノベーションを経た先にある調和なんだよね。
この姿に意識を向けてから「求めてるのって、穏やかな印象のロゴではなくて、少し強度のある印象のロゴなんだろう」ということに気が付きます。
つぎに、ダイナミック性というテーマについて。
そもそもロゴは認知されるためにあるのに、ダイナミック性(固定概念のなさ)を表現するというのは一見自己矛盾をはらんだテーマなんですよね。
こちらについては、GOさんにダイナミックアイデンティティの可能性を模索していただきました。
ダイナミックアイデンティティとは、変更できる流動的な姿をしていながら、その中に一貫したペルソナを持つ構造のことです。
例えば、人種の坩堝(るつぼ)と言われるニューヨーク市のロゴはダイナミックアイデンティティを採用することで「多様性」自体をブランドに取り込んでいます。
まさにハルモニアとして表現したいダイナミック性を表現できるような気がしました。
ただ、ダイナミックアイデンティティと一言でいっても、その表現の幅は広く、ゴリゴリに形が変わるものからパーツの色が変わる程度のものまで様々です。
世の中へのプレゼンスをもっと上げていくぞ!というフェーズのスタートアップにとって、激しすぎるロゴの変形は認知訴求にむしろマイナスの影響があるかもしれない…と正直不安がありました。
そこで、基本のロゴは1つにして共通認知をとりつつも、イベントやメディアなど派生ブランディングの場ではダイナミックアイデンティティを利用できるような構造を模索することにしました。
もう一つの隠れ要素、黄金比
ロゴの設計では、当初から黄金比での構成が会話にあがっていました。
黄金比によって見た目が美しくみえるのはもちろんですが、それ以上に「自然との調和」を表す1つのメタファーとして取り入れたいと思いました。
作成した横山さんによると「黄金比と一言にいっても、形だったり、貝みたいな自然界のものだったり、はたまた数値だったりさまざまな取り入れ方があります。どんな方法で黄金比を取り入れたら良いかも思考したポイントの一つです。」とのことでした。
ちなみにギリシャ神話のハルモニアの母親は、美の女神アフロディーテ(ビーナス)であり、いちばん有名な絵画「ビーナスの誕生」では貝のモチーフが使われています。
このことから貝っぽいロゴ案もいくつかありました。
(残念ながら採用されたのは別ロゴでしたが…!)
ロゴの決定
そうして最終的に決まったのが、こちらのロゴです。
パターン展開↓
かなりシンプルに削ぎ落とされた形で着地しました!
シンプルな中にも、これまでに上がった創意がしっかりと込められています。
まず、波の形は黄金比を示す円の組み合わせで作られていて、前章で述べた「自然との調和」というメッセージを密かに込めています。
また、このロゴは2つの波形から構成されていて、赤い波と青い波はそれぞれ「ダイナミック」と「サステイナブル」を表し、相反する要素が波のように混ざり合う様子を表しています。
そして、2つの波が重なる部分には黒色を使っていますが、ここについては横山さんが素敵な工夫をしてくれました。
横山さん「黒(もしくは白)は通常モノトーンで、落ち着いてて、シックなイメージを連想させるカラーですが、今回はさまざまな色を混ぜ合わせた混沌からの調和という意味合いで黒を利用しました。
光の3原色を混ぜ合わせると白だったり、リアルの色を混ぜ合わせると黒に近づいていきますよね。
ハルモニアにとってはクールなイメージの黒ではなく、異なる要素がぶつかり合った先にある調和という力強い意味合いを持たせています。」
さいごに、社名のタイプフェイスですが、こちらはフォント「Gotham」のインスパイアです。
ジオメトリックで力強いフォントですが、あえて空間に余裕をもたせて、窮屈すぎない調和を示しました。
そして、ほんとうにわずかだけ角にRをもたせて、価格を扱うサービスのお固い印象の中に、どこか温かみを感じる調整をしています。
ロゴのアウトプット
ガイドライン(1部抜粋)
グッズ
基本のロゴはこの形ですが、今後の派生形として、以下のダイナミックアイデンティティ表現もできる作りになっています。
・黄金比の円の組み合わせで違う波形を作る
・派生ブランディングでは赤と青以外の色も展開できる
・波形をアニメーションに取り入れてブランド想起させる
今後の展開にご期待ください。
完全リモートのリブランディングはどうだったか?
ここまでのプロセスを振り返ってみると、個人的に良かったと思える部分がいくつかあります。
まず、オンラインでの対話はミーティング時間がきっちり決まっているので、限られた時間内で濃い会話ができたということです。
とくにGOさんのような自社メンバー以外の方もいる場では、そういった強制力が強く働きます。
ずるずると話が伸びてしまって「あれ、これってどこに向かうんだ?」みたいな迷子状態がまず起こりませんでした。
そして、そのおかげで参加者の士気が下がるという事態も起こりませんでした。
当初に懸念していた「リアルミーティングに比べて、内容の質が下がるのでは?」という課題は、正直リアルでのリブランディングを行わなかったので比べるのは難しいです。
しかし、個人的にはオンラインだからといって発言しづらいとか、表現しにくい、というのはありませんでした。むしろ、一つの画面でメンバー全員の顔が見えるので集中しやすかったです。
そして、これは一長一短ですが、直接リブランディングに関わるメンバーが広がりすぎなかった、というのもポイント。
今回の体制では、自社側はCEO・マーケター・デザイナー・PdMの4名がGOさんとやり取りし、その途中経過をCEO自らが社内プレゼンしてフィードバックを得る、というやり方でした。
オンラインだからチームの境界線が曖昧にならず、それぞれのメンバーが自分の仕事に集中できた → 限られた時間で良いアウトプットができた、と感じています。
そしてこの負の側面としては、やはりリブランディングのプロジェクトから遠かったメンバーの心理的ハレーションだと思います。
社名候補を社内プレゼンしたときは、当然さまざまな意見が出ました。
親しみやすさ全開の「空」から「ハルモニア」に変わるのは、「太郎」が「マイケル」になるようなものです。
いくらプレゼンでこれまでの過程を聞けたとしても、人から聞いた情報と自分で体験した情報では、全然納得度が違いますよね。
この部分は、いまだに100%解消できたとは思ってないのですが、少しづつ社内の温度が変わってきていると感じます。
それは、ロゴ発表のリリース準備を進める中で、自分の名前が入った名刺が手元にとどくとか、ロゴを使って「あれほしい、これほしい」と話をするうちに、だんだんと各メンバーの自分ごとになっている感じです。
GOOD
・要点を絞った会話ができ、プロジェクト進行がスムーズ
・発散のしすぎての迷子や、それによるモチベーション低下がない
・メンバーがそれぞれの役割に集中できる
BAD
・プロジェクト外メンバーの心理的ハレーション
→ 少しづつ自分ごとへシフトするためのコミュニケーション/語り場が必要
さいごに
さて、ここまでの長いストーリーを読んでいただいてありがとうございます。
改めまして空はハルモニアとなったわけですが、リブランディングはここからがスタートです。
わたしがいつも大事にしている考えですが、ブランドというものは人の頭の中にしかなく、ビジュアルアイデンティティーはそのブランド形成を助ける1要素でしかないということです(もちろん強力な要素だとは思っています)。
社員はもちろんのこと、これまでお世話になった人、これからお世話になる人の心に届いて初めてブランドが息をします。
これからの活動を通じて、皆様に「経済合理性とサステナビリティが調和した世界」をお見せできるよう、邁進していきます。