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黑世界からLILIUMを振り返った

こちらは9/26日現在、サンシャイン劇場で上演している音楽朗読劇『黑世界 ~リリーの永遠記憶探訪記、或いは、終わりなき繭期にまつわる寥々たる考察について~』と、その前日譚である演劇女子部ミュージカル「LILIUM-リリウム 少女純潔歌劇-」についての記事になります。
黑世界は東京公演は配信、東京・大阪公演は追加チケットや当日券の販売がございますので、LILIUMを観た方は絶対にGOだ!!

両作品の内容について明確に触れていますので、どちらか一本でもご覧になられていない方は、この先を読まないでください。


黑世界を見てからのLILIUM


リリーが普通の女の子として生きている。
その質感に開幕から感情がぶっ壊されそうだった。

 オープニングテーマ『Eli, Eli, lema sabachthani?』で、リリーとスノウが互いへ手を伸ばして離れていくところ、二人の運命が別れてしまうんだ、という気持ちが黑世界を見たことで強まってしまいました。スノウは死の寝床に横たわり、リリーは永遠に寥々たる旅を続けることになるんだって。もう二度と二人は手を取れない。
 にしても見れば見る程、スノウの方が背が高くて(肩の位置が結構違う)美人系の顔で、リリーの方が小さくて可愛い系の顔、っていうのが本当にいいな…。並んでるだけでギュってなる。最高傑作…。

 チェリーとキャメリアとリリーが、夜中にクランを抜け出したとか、昔のヴァンプ狩りの逸話だとか、『仲良くなんかない!』とかやってるのをみて、これが……リリーがただの少女だった頃の手に触れるぬくもりのある日常…ウッていきなりなる…。何でもない世界観説明しつつの人間関係描写だった筈なのに…どうして……。
 時系列が前後しますが、ラストシーンで目覚めたリリーに降りかかる言葉、一番最初はこのときチェリーが言った「あたしたちは化け物とおんなじなんだから」なんですよね。このときは何気ない言葉だったけど、シルベチカとキャメリアの回想で不死のファルスに向かって「この化け物め」とキャメリアが言ったことで質が変わっていた。それが最後に目覚めたリリーの頭上に降り注ぐんだ。そうして、唯一リリーに「化け物」という言葉を聞かせたチェリーが、黑世界で現れる幻覚に名前を貰い受けられる。あんなに仲の良い友達にどこか似た幻覚。
 新良さん演じる幻覚チェリーの攻め攻めな服装と、ダメじゃん?と思ったらズバッというところと、ちゃんと自分が幻覚だという自意識があるところとか、すごくいいよね…。こいつやかましいなぁ~~~と思うことも多々ありますが、幻覚チェリーがいなかったら寂しいし、リリーの感情がさらに見えなくなりそう。舞台の構成の上でもとても良いキャラですね。
 幻覚チェリーがリリーと重なって歌うところがたくさんあるのもいいですよねぇ。お二人の声の感じが似ていてとても調和しているのもよくて、それが一層リリーの心の中に生まれた幻覚感があります。あと二人で歌う時に、大体チェリーがリリーの後ろにいるのが良い。チェリーがリリーの心のなんなのかは、唇の動きでしかわからず聞き取れませんが、チェリーがリリーに寄り添うようでいて縛り付けている感じもするのがたまらないね…。(「罪悪感」と読み取れるのでは?説がありましたが……良いですよね…。)
 22日ソワレの日和を見た時、同じ公演を見た友人(私にLILIUMを見せてくれた人)が「チェリーを石田亜佑美ちゃん、リリーを鞘師でいつかやってくれたらすごくない?」という趣旨のことを私の耳に囁きました。その時は「石田亜佑美ちゃんの演技とても好きだし、本人も芝居に興味ありそうだし、いつか叶ったら面白そうだなぁ(でもあるかなぁ…そんなこと」と思ったんですけど、LILIUMみたらその妄想が自分に突き刺さってしまった。あの新良さんの演じる幻覚チェリーのようなちょっとねっとりした嫌味と色気のある感じで、本物チェリーの顔で出てきて、鞘師里保のリリーの罪の意識をいたぶって頬とか撫でたら私はしぬ。しにます。

 LILIUMの中で描かれるリリーに対して、元から強くて正しい女の子なんだな、と黑世界を見たことでより認識が強化された気がしました。例えば序盤、マリーゴールドをみんなから庇うところとか。コミカルに描かれてますけど、マリーゴールドは種族としてこびりついた差別の対象で、石を投げられてるマリーゴールドを身を挺して庇うのは並大抵のことじゃないと思います。実際、リリーにも石が当たっているみたいだし。いじめられてる子を庇うのって勇気がいることをして、それをなんのてらいもなく「友達だもの」と返すリリーの正しさと強さには芯が通っているなと。ただ、正しくて強いから花園を壊そうと思うし、花園を壊せてしまうのだけど。リリーがリリーである限り、花園はいつか壊れたのかも知れない。

 それにしても繭期の説明シーン。「いつの日か立派な大人のヴァンプになるために~♫」「お前たちの毎日のお薬は、その繭期の症状を抑えるためになくてはならぬもの♪」いけしゃあしゃあとだましやがって!! その薬めちゃくちゃヤバい薬じゃねーか!!! こんなしゃあしゃあとだましてるのに、幻覚になって永遠にリリーを責め続けるなんて酷いや。でも二人は、いちおう言葉の上では、永遠の命を求めてファルスに協力してたからね…だから責めるのかもね。イニシアチブで何処まで本心なのかは傍目にはわからないけど。
 「いつのか立派な大人のヴァンプになるために~♫」で竜胆に肩を抱かれたまま、立派な大人のヴァンプの自分が立ってそうな明後日の方向をぽけっと見上げるリリー。少女達を大人のヴァンプにするつもりなどない人が、永遠の少女の肩を抱いて歌ってる絵面が、後から見ると因果だな…と思います。リリーのまたぽけっとしてる感じが、当然自分は大人になると疑ってない感じがするのがこれまた…。

 「よしよしよしよし」とか当然友達と触れ合っていたクランでの日々と、誰とも触れえない、本を通してしか誰とも語らえない黑世界との対比を思うと、音楽朗読劇の形は必然だったように思えてきます。あの日、ただの少女であった頃ともう変わってしまったのだ、と見せつけられるようです。
 LILIUMを見ながら、この後の旅路を何度も思って辛くなっちゃった…。何十年にも渡って殺され続け実験に供されるのも、ずっと罪の意識を持ち続けるのも。肉塊となって岩盤の下で蠢き、やがて川へと流れだして人の形にまた戻るのも。この花園は覚めない方が良い夢だったんだろうか。でも、リリーはずっと覚めない夢を否定し続けるんだろうな。夢から覚ます為に皆を手にかけたのだから。そもそも悲劇の始まりは、覚めない夢のせいだったのだから。

 黑い世界で誰にも触れ合えないリリーが、サナトリウムの中でしっかりと手を取った人はマリーゴールド、抱き締め合ったのはスノウ。
 マリーゴールドはソフィ自身の業が生み出した破滅の引き金だと過去作を見ると思わされます。そしてマリーゴールドは本当の自分の名前を覚えているんだろうか、と疑問に思いました。自分を救い出した少女を神格化ささてしまったのも、過去作を見ると仕方のないことに思えます。そのマリーゴールドも永遠に覚めることのない幸せな夢が続くことを祈っていたけど、彼女は灰になってしまった。ソフィとスノウに人生と最期を握られて。
 スノウが真実を知りながら黙認しているのは、ファルスの卑劣な行いを積極的ではないにせよ支援してるんですよね。TRUMPのソフィとウルと違って、リリーとスノウの運命が入れ替わらないのはこういうところかも知れないな、と思いました。スノウは決してリリーにはなれない。自分は死ぬのが怖かったと言いながら、クランで少女達が薬を飲まされ続けていることも、裏で殺され記憶さえ消し去られていることも知りながら何もせず、最期は他人の手を使って死ぬのだから。そのために、手を汚させられた子が炎に消えることになるのに。
 リリー、スノウ、マリーゴールドの歌う『TRUE OF VAMP』。この歌詞と歌割が黑世界を観た後だとグサグサきます。スノウが「もしもこの世に終わりなどなく、命が永遠に続くというならば、愛する人たちの命の火がただ消えるのを待つばかりよ」と歌えば、リリーは「たったひとりきりで」とその心情に想いを馳せる。そして、「滅びぬ者は命のためにレクイエムを捧げるでしょう」に対して、リリーが「それが不死なる運命よ」と強く歌い認める。自分の運命になるとは知らずに。この歌の通りに、リリーは黑世界で愛する人たちの命の火が消えていくのをいくつも見ていって、なおもひとりなんですよね…。

 そして、何百年の時が経とうと拒絶され続けるソフィ。ソフィには人とまともに話し合って説得する、というプロセスがまったくないですよね。みんなのことは何も知らないうちに薬を飲ませ記憶を操作し、操作されなくなったリリーには頭ごなしに永遠を受け入れろと怒鳴る。スノウが死を選ぶ前に、懇切丁寧に自分の事情を説明したり、クランのみんなの中には受け入れてくれる子もいるのだとか、ダンピールは短命だけどここなら生き続けられるマリーゴールドの母はそれを望んだとか教えて、リリーの糾弾との妥協点を探せば、全てをリリーに破壊されることはなかったかも知れないなと。リリーも真実を知っていきなり滅ぼそうとしたわけではなくて、ファルスの狂気と所行を見せつけられ、スノウが死を選び、マリーゴールドが灰にされる、とプロセスを踏んでから決断しているので、言葉を交わす余地がまるでなかったわけではないと思うんですよね。でも、端からファルスは自分の話しかしなくて、自分の孤独を埋める為だけにみんなの体を作り替え、不死になったかを確かめるために殺し続けた、としか言わない。真実そういう感情だけなのでしょうね、奪ったマリーゴールドの記憶を思えば。
 ソフィにとっての「ライネス=決定的な過ちを犯した」は、マリーゴールドの時に流れたのかもしれない。あれを行わせていたのはソフィなのだから。

 リリーは自分の罪を自覚する限りソフィにはならない。被害者であったのに歪んでしまったソフィと、加害者として永遠を歩み始めたのに狂うことのないリリー。

 『永遠の繭期の終わり』の歌詞、黑世界観た後にヴッてなった…。「永遠の繭期が終わり、あたしたちは夢から目覚める。おとぎ話は結末を迎える。」おとぎ話…フェアリーテイル……坑道にリリーを追い詰めたヴァンパイアハンターがリリーをそう呼んだ…。結末のないフェアリーテイルそのものになってしまったリリー…。はぁ…。
 どんなふうに、あの古城でヴラド機関に発見されたんでしょうね。呆然自失となって倒れた姿のままで見つかったんじゃないかな、とふと思います。実験の最中に眉一つ動かさなかった、人形のようだったリリーと言葉を交わした人はヴラド機関にはいなかったんじゃないかと。周りの少女達の血肉は朽ちて腐臭を放つ中、乾いて真っ黒になった血で胸を染めた少女が、ただ白い頬を晒している……みたいな光景が、広がっていたのではなかろうか…。

 『少女純潔』の歌い手の変化による意味の差も去ることながら、歌詞よ。「枯れることなく咲き続ける花よ。孤独を孤高に変えて気高く咲きほこれ。さすれば花は滅びぬ少女のように、儚き美しさは永遠となるだろう。」この、「滅びぬ少女」が先に存在してからの、その似姿として「枯れることなく咲き続ける花」があるというこの歌詞の構図。滅びぬ少女の方が絶対の存在としていることが……黑い世界に佇むリリーを見てしまった私の胸には突き刺さります。

 TRUMPを観た後、マリーゴールドを観た後でLILIUMの見え方は変わりましたが、黑世界を観た後でまた変わってしまった。あの日犯した罪と、愛しい昔日に。
 『Eli, Eli, lema sabachthani?』はソフィの曲だと思いますが彼は星を夢想しているけど、『La Vie en Noir』でリリーは星を夢想できないと歌ってますね。星がかつての友を指すなら、どれほど愛おしく懐かしくとも、自分の手で皆を殺めてしまったリリーには、星を想うことなどできなかったんでしょうね。血塗れの手と向き合うことになるから。
 黑世界の旅路の果て、空に手を伸ばしたリリー。いつか星に手が届くことを祈ります。


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