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高校からの就職における自己理解
自己理解とは選択に影響を与えている自己を意識化することである.人生に関わる選択や日常的で些細な選択まで,明確な基準や根拠がなくても,意識化されていない価値観や自己に影響を受けている.それを明らかにするのが目的である.自己を分析し,職業を分析し,それに対する適応を考えるという方法は,当たり前のことであるが,パーソンズのマッチング理論の実践そのものである.
適性検査は自己理解のきっかけとして用いることができる.最も代表的な適性検査は,厚生労働省の一般職業適性検査(GATB)である.中学2年生以上の生徒・学生・求職者が対象となっている.戦後,GHQからの提案で開発されて以降,改定が重ねられており,現在では事業所用と進路指導用の2つが用意されている.事業所用は個人の特性から適合する職業の特性を検討するもので,進路指導用は次個人の特性から適合する職業の特性を検討するものである.9つの適正能が測定できる.適正能とは仕事をするのに必要な基礎的能力のことである.他にも,労働政策研究・研修機構による職業レディネステスト(VRT)がある.こちらは中学2年生から高校3年生までが対象となっている.6つの職業領域への興味と自信,日常行動特性を調べて分析するものである.他にも採用活動の適性検査などがあるがここでは触れない.職業適性には能力的適性以外にも職場の人間関係に対応することができる性格的適性,組織が保持する価値を受け入れて積極的に適応していくことができる態度的適性なども重要な要素であるが,一般職業適性検査は能力的適性しか測定していない.そこで,個人の特性をさらに拡大することや個人と環境の相互作用に注目するなどの工夫もされている.
生徒をめぐる問題については正解がないことも多いが,十分な生徒理解,問題理解なしには考えられない.学問的な知識を得たからといって生徒の心理が分かるわけではない.多角的な生徒理解には,標準的な事実や統計などに基づく蓋然的理解と個別的な事情や特徴に目を向けて理解する個別的理解の視点が必要であると言われている.また,客観的理解と共感的理解の視点も重要である.