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ライプツィヒ バッハと共に聴くクリスマスコンサート
今年のクリスマス関連記事の最後は、ライプツィヒ。
この街のクリスマスマーケットも、歴史が古く規模も大きく、そして美しいと讃えられる。
街の玄関の中央駅から、桁外れに凄い。
なんと、駅構内にメリーゴーランドやクリスマスピラミッドが設置されている。
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ついでに、世界一美しいスタバと呼ばれる(このように呼ばれるお店は、あちこちにあるようだが)駅構内のスタバ。
二階席もあり、とても広々とした造りだ。
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さて、ライプツィヒのマーケットは全12ヶ所。
ニコライ教会前広場
大きなクリスマスピラミッドが立つ広場には、たくさんの人が集まる。
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このマーケットで、美味しいものに出会った。
この街以外では見たことがないのだが、非常に薄いワッフルに、クリームがたっぷり挟まれている。
このワッフルは、私の好きなクリスマススイーツの一位に躍り出た!
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教会に入った時には、コンサートのリハーサル中で、教会の見学はできなかった。
練習曲は、バッハのクリスマスオラトリオ。
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アウグストス広場
観覧車は、マーケットの華やかさを倍増させる。
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近くには、コンサートホールのゲヴァントハウスも。
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観覧車の正面は、メルケル元首相も通ったライプツィヒ大学。(当時はカール・マルクス大学)
元夫とは、学生結婚をしている。
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一番長く屋台が連なるグリム通り。
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この通りでは、ラクレットを頂いた。
辺りに漂うチーズの香りに、ついそそられてしまったという訳だ。
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ザルツガッセ
メリーゴーランドから流れる音楽と、子供達のはしゃぎ声が、クリスマスの雰囲気を一層盛り立てる。
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ナッシュマルクト
中世を再現したマーケット。
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市庁舎広場
この広場には、高さ20mのもみの木が立てられ、屋台の数は300にも及ぶ。
ぐるりと四角く囲まれたマーケットは、いくつか門が設けられ、屋台は碁盤の目のように建てられている。
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市庁舎のバルコニーでは、13時から、中世の衣装に身を包んだ4人のラッパ隊により、クリスマスソングが演奏される。
曲が終わる度に、大きな拍手が広場を埋め尽くした。
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以前この街に来た時に、見逃してしまったものがある。
ここはバッハが過ごした音楽の街だが、音楽に関係するものをほとんど見学する事ができなかったのだ。
今回は、バッハ博物館を訪れた。
1723年の2月、宮廷指揮者だったバッハは、トーマス教会の音楽監督としてこの街にやって来た。
つまり今年は300周年。
博物館の建物は、バッハと交友のあったボーゼ氏の住居跡で、トーマス教会の向かいにある。
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かつて、この教会の隣には少年合唱団の宿舎があり、その建物にバッハ一家も住んでいた。
今は取り壊され、別の建物がある。
博物館についてはここでは書ききれないので、写真を少しだけ。
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ライプツィヒ再訪を決めた時、トーマス教会にて、トーマス教会少年合唱団とゲヴァントハウス管弦楽団のコンサートが開かれると知った。
バッハは、少年合唱団に特に多くの時間と労力を費やしたという。
その教会で、300周年のタイミングでコンサートを聞けたら、どんなに幸せだろう!
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コンサートは、全3回。
会場は1584席。
私がチケットを購入した途端、全てのチケットがキャンセル待ちに変わった。
私は、強運の持ち主かもしれない。
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教会の前方には宝物庫があり、楽器や楽譜が展示されている。
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教会には、二つのパイプオルガンがある。
こちらの小さい方は、バッハオルガンと名付けられている。
たまたま練習をする方がいて、その音色を聴く事ができた。
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そしてこちらが、教会後部の立派なパイプオルガン。
パイプオルガン前の二階部分で、コンサートが演奏される。
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以下、コンサート詳細。
Weihnachts-Oratorium BWV 248 (Kantaten 1 bis 3)
Kantate "Sie werden aus Saba alle kommen" BWV 65
Kantate "Christen, ätzet diesen Tag" BWV 63
ゲヴァントハウス管弦楽団は、ベルリン・フィル、バイエルン放送交響楽団、ザクセン州立歌劇場管弦楽団らと共に挙げられる、ドイツで最も人気のある管弦楽団の一つ。
少年合唱団のルポルタージュを見た事があるが、今も昔と変わらずに共同生活を送っている。
その生活は細かく時間が区切られ、遊ぶ時間も限られており、子供達にとっては厳しいとも言える。
しかし少年達は、歌う事に喜びを感じているのが伝わってくるのだ。
バッハは三つのオラトリオを残しており、昇天祭オラトリオ、復活祭オラトリオ、そしてこのクリスマスオラトリオだ。
日本ではベートーヴェンの第九だが、ドイツのクリスマスは、こちらの曲が最も演奏されると言う。
因みに第九は、大晦日に耳にする事が多い。
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トランペットの力強い音で、オラトリオが始まる。
バッハが音楽に力を注いだ場所で、バッハの作った曲を聴く。
ライプツィヒのゲヴァントハウス管弦楽団の演奏と共に。
この曲は、この教会で1734年に初めて演奏された。
二階部分から、まさに音が上から降ってくる。
これは、私がスピーカーやイヤホンで聴いている音とは明らかに違う。
聴き慣れた曲だが、その音にはまるで感情があるかのように、遠くまで響くのだ。
正面に位置する祭壇まで届くように。。。
祭壇には、バッハも眠る。
この音楽は、神に捧げられているのだと感じる。
この曲は、この場所で、このように歌われる事を想定して作られているのだと、改めて実感するのだ。
そして私達は、それを聴く事を許されている。
祭壇や中央通路に向けて椅子が設置されている理由もあるだろうが、多くの人は合唱団や管弦楽団を見る事なく、静かにうつむき、音に集中しているようにも見える。
アルテュール・オネゲルが最後に作曲したクリスマス・カンタータは、受難の苦しみを伝える不協和音が耳に残る。
それと比較すると、バッハのオラトリオは全く違う音と調べで、クリスマスへ向けての明るい希望を与えてくれる。
そして少年合唱団の歌声は、まるで天使の声。
演奏終了後は、いつまでも拍手が鳴り止まなかった。
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年末の時期は、大掃除の時期。
音楽と歌声は、目に見えない霧のように空気に溶け込み、私に降り注がれる。
心の傷や悩みが、音と共に教会内に解けて蒸発し、消えてなくなる。
まるで、心の大掃除。
私は、キリスト教信者ではない。
しかし、その音楽は私に、生きていること、生かされている事に対する感謝の思いを湧き上がらせた。
音楽とは、言葉では伝えきれない感情を伝えることが可能な、一つの手段なのかもしれない。
厳かな教会内の雰囲気と、清らかな調べ。
289年前から、この音楽を受け継いできた人々と、その音楽を心待ちにし、癒されてきた人がいる。
音楽と信仰の力を目の前にし、私は静かに、そして深く激しく感動した。
教会の硬い木の椅子は、オペラ座のようなフカフカの座り心地ではない。
しかしそのコンサートは、バッハの懐にすっぽりと包まれ、まるで暖かい羽毛布団の中にいるような、そんなニ時間だった。
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教会祭壇にあるバッハが眠るお墓には、コンサート後に多くの人が詰めかけ、曲の素晴らしさをバッハに伝えている。
バッハもきっと、コンサートに満足しているだろう。
クリスマスオラトリオは、世界のどこでも聴くことができるが、バッハと共に聴けるのはこの教会だけだ。
教会にいるみんなが一体となって、音楽に耳を傾ける。
バッハと共に。
ようやく人波が途切れた瞬間に一枚。
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こちらは、別の日の写真。
祭壇とお墓は、通常は立ち入り禁止。
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市庁舎広場に響く、ラッパ隊が奏でる高らかな音色。
ニコライ教会内のコンサートリハーサル。
トーマス教会のパイプオルガンの音と、クリスマスオラトリオ。
300年前、まだバッハのいないライプツィヒは、一体どのような街だったのだろう。
ライプツィヒの街は今、至る所に音楽が溢れている。
それは、バッハの愛した街に相応しいクリスマスだ。
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2018年度の同コンサートはTV放送されたようで、YouTubeに残っていました。
コンサートの様子が伝われば幸いです。
みなさま、音楽と共に、どうぞ素晴らしいクリスマスをお迎え下さい。
以前書き残したライプツィヒの記事