オランダ デン・ハーグ②エッシャーのだまし絵
エッシャーと言えば、だまし絵。
2018年には、視覚の魔術師と名付けられたドキュメンタリー映画も作られた。
絵の中の一箇所に視点を置くと、そこから自然にゆっくりと周囲に視点が動き、現実にはありえない景色に踏み込んでいる事に気付く。
まさに、魔術師。
絵を何度も見返してしまうので、一度見たら忘れる事がない。
私は、これらの作品を見たくて、デン・ハーグにあるエッシャー美術館を訪れた。
Museum Escher in The Palaceと名付けられている通り、ここはエマ王妃が冬の宮殿として利用していた建物であり、2002年に開館した比較的新しい美術館でもある。
元々、デン・ハーグ市美術館が持っていた作品を、こちらに移したそうだ。
マウリッツ・コルネリス・エッシャー
Maurits Cornelis Escher
1898年、オランダ北部レーワルデンに生まれる。
1972年に亡くなっているので、去年はちょうど没後50年だった。
彼のサインはMCE。
彼の写真としてよく使われるものが、美術館にも飾ってあった。
この写真の通り、彼は画家であり、また版画家でもある。
彼の父ゲオルギは、土木工学者として、明治時期に来日した事があるそうだ。
淀川の修復工事をはじめ、福井県には彼の名前の付いたエッセル堤(エッシャーをエッセルと表記したもののようだ)という場所もあり、日本の土木技術の向上に尽力されたかただ。
ここからは、館内の展示順に振り返ってみる。
彼は幼少期から身体が弱かったそうだが、とても裕福な家庭に育った。
エッシャーは、父の強い希望でデルフト工科大学に(父のコネで)入学する。
しかし、建築家になる夢を持てなかった彼に、転機が訪れる。
一人のグラフィックアート教師、サミュエル・ジェスルン・デ・メスキータに出会い、彼に才能を見出されたのだ。
その後、ハールネムにて、彼からグラフィックアートを学ぶことになる。
美術館内は、エッシャーと共に、デ・メスキータの作品も多く展示されている。
その後、イタリアに移り住み、風景画などを残している。
昆虫や植物の描写が、非常に繊細で驚いた。
後に、スペイン、アルハンブラ宮殿で見たモザイク模様をヒントに、繰り返し模様やテセレーションに興味を持ったと言われている。
これらは、彼の作風の一つとして挙げられる。
版画の原型も展示されていた。
デザインだけでも凄いと驚くのだが、この版画の繊細さには、もっと驚いてしまった。
彼のメモや日記など。
当時、ナチスの勢力はオランダにも侵入していた。
恩師デ・メスキータは、セファルディム(移住ユダヤ人)だったため、ドイツ軍に捕えられ、アウシュビッツのガス室で亡くなった。
エッシャーはとても義理堅い人で、恩師が亡くなった後、彼の作品を集めて回顧展を開いたそうだ。
この展覧会は、日本でも開かれたという。
そして、彼の代名詞でもある、不可能図形。
私が初めて見たエッシャーの作品は、こちらの滝だった。
オリジナルを見ると、より一層細部まで注意が行く。
一番最初に目が行くのは、流れ落ちる滝ではないだろうか。
流れ落ちた水は、ジグザグの水路を通り、また滝となり流れ落ちる。
と、ここで、この絵のおかしさに気付くのだ。
これは、現実には起こり得ない現象だと。
そして、相対性。
ここには、13人の人物が描き込まれている。
ある人にとっての床は、誰かの壁であり、階段は表裏で世界が違う。
よく見ると3つの世界があり、90度ずつずれている。
そして、ここにいる登場人物は、お互いの存在に気付いていないように見える。
ウォーリーを探せのように、人物を探し当てる楽しさとは異なり、ここに描かれた不思議な世界に魅入ってしまう。
逆さまと名付けられた作品。
軸のない世界に、酔いそうになる。
その他、彼の作品として本で見たものが、たくさん展示してある。
さて、ここは静かに展示品を見る美術館ではない。
みんながクスクス笑ったり、絵を指し示しながら、ああでもない、こうでもないと持論を展開しているので、大変賑やかだ。
それほどまでに、絵が面白い。
ガラス玉には、彼の部屋の様子が詳細に描き込まれている。
これは彼の、有形の中に無限を閉じ込めるという一つの作風だ。
制作に使ったであろうガラス玉の写真も。
他には、鏡に写った世界を描いた一枚。
こちらは、エッシャーと奥様を描いたとされる婚姻。
彼の代表作、日と夜。
下の畑が、上に行くにつれ、鳥になる。
左側の昼は、右に行くにつれ、夜になる。
テセレーションを使った、彼の最高傑作とも言われているそうだ。
部屋の中央にある円形の展示物は、図形が少しずつ変形していく様が描かれており、一周するとまた同じ図形に戻っている。
一周ぐるりと動画を撮ったのだが、ここに載せられないのが残念だ。
最後の部屋にあった一枚は、メメント・モリ。
右の人物は自画像だそうだ。
その他、動画での展示や、ガラス玉のオブジェ等も。
館内にはカフェもあり、疲れた足を休め、中庭を見ながらゆったり寛ぎのひととき。
オランダと言えば、アップルケーキ。
スペインのダリ美術館でも、独創的な作品に目を奪われ、その世界に引き込まれた。
そして、このエッシャー美術館でも、彼が計算し尽くして創り出したその世界に、ぐいぐい引き込まれる。
今ではきっとパソコンを使えば、このような図形は簡単にできてしまうのだろう。
しかし、数学嫌いのエッシャーが、その熱意で描き上げた絵、そして版画には、感嘆の思いが込み上げる。
騙すという言葉は、肯定的な言葉としては、決して使われない。
しかし、エッシャーの絵に限っては、私は心地良く騙されたのだった。
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彼が暮らしたアーネムの街
ダリ美術館のこと
その他デン・ハーグについて
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