ノイス ヴィヴァルディ四季を聴く
クラシック音楽のコンサートチケットを買うと、ありがたい事に(困った事に?)様々なオススメが届く。
その一つが、このヴィヴァルディの四季だった。
お隣の街ノイスでの公演だと知り、早速お出かけしてきた。
コンサート前に、クリスマスマーケットを散策。
場所は、Stadthalle。
演奏は、チェコフィルハーモニー管弦楽団。
一曲目は、アントニオ・ヴィヴァルディの四季。
これが私のお目当てだった事もあり、一曲目から感激だ。
四季は、たしか小学校の音楽の授業で取り上げていて、あれは四季の中でもよく耳にする、春の演奏だった。
でも私は、四季の中では、特に冬が好きだ。
美しく激しいバイオリンの響きは、静寂を破り、ホールを埋め尽くす。
会場の外は寒いが、私の心は感動で熱い。
長い蛇足になってしまうかもしれないが、四季の聴き比べをしている時に、ある日本人バイオリニストの演奏を勧めていただいた。
オランダ・バッハ教会で、音楽監督兼コンサートマスターを務めていらっしゃった佐藤俊介さんだ。
古楽器や、更にはガット弦(羊の腸を使ったもの)を使った演奏をされている。
バイオリニストそれぞれ個性的な演奏をされるけれど、佐藤さんの演奏には驚いた。
古楽器で演奏される音は、聴き慣れていたその音とは違う。
そして、そのメロディーまでも、聴き慣れたものとは違う。
それでも、その違いまでもが心地良いのだ。
あぁこの演奏が好きだ!とすぐに惹き込まれてしまった。
同じ四季でも、演奏によって曲の雰囲気が変わる。
音楽家が生きていた頃の楽器を使うこと、それはすなわち音楽家の頭の中にあった音そのものを、再現する事であると思う。
いつか私は、佐藤さんのコンサートを実際に聴いてみたいと願っている。
2曲目は、ヨーゼフ・ハイドンの別れのシンフォニー。
ハイドンがこの曲を作った時の経緯を、いつだったか読んだ事がある。
休みなく働き、家族にもなかなか会えなかった楽団員達を思い、ハイドンは一人ずつ舞台から去る演出をしたのだとか。
今までは、その演出は映像でしか見た事がなかったが、やはり会場でしか分からない雰囲気と、感動がある。
一人ずつ楽団員達が舞台から減っていく演出に、会場からはクスクスと笑い声が起きる。
指揮者は、指揮棒を観客に渡して自分も舞台から降りようというパフォーマンスをして、観客席からは笑いが起こる。
ヴィヴァルディの四季も素晴らしかったが、別れのシンフォニーも、とても思い出に残る演奏だった。
最後は、ジョージ・フリデリック・ヘンデルの水上の音楽、管弦楽組曲第1番。
朗らかで明るいメロディーは、いつ聴いても心地良い。
ハノーファー侯のご機嫌を取るために書いた曲だと言われているが、こんな素晴らしい曲を聴かされたら、いつまでも怒ってなどいられないだろう。
私はピアノを習った事があるが、人前で演奏できるほどの腕前にはなれなかった。
それでもドイツに来てから、ピアノが置いてあるところで軽く演奏をすると、それがきっかけで会話が弾む事があった。
言葉が上手く伝えられない時でも、お互いに知っている曲を歌うだけで、何かが通じ合えた気がしたものだ。
まさに音楽は、言葉も国をも超える。
コンサートホールに集まった人々に、言葉は要らない。
ただ、その音と旋律だけが共通言語。
その美しい旋律に酔うことのできる幸せを、お互いに共有する。
暖かい会場を出ると、外は冷たい風が吹いていた。
私の頭の中には、風の音と共に、先程のバイオリンの激しい旋律が流れ始める。
これから、本格的な冬がやって来る。
暖かな春が来た時には、私はきっと小鳥のさえずる『春』を思い出し、口ずさむだろう。