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第13話 治験の終焉 ①
数値と見た目の乖離
『これ、かなり効いてますね〜!』
担当医師が、CTの検査結果の数値を見ながら言う。
『ぅありがとうございますっ!!』
ありがとうの前に、小さな『ぅ』が入るくらい、前のめり目に、力強くアニが言う。
ココ最近、体重の減りも緩やか(だが減り続けてはいる)だし、
食欲もあるし(朝カレーも段々残すようになってきてはいたが)、
アニ本人としては『気分上々』なのだ。
が、
素人のワタシから見てもアニは
『良くなっている』様には到底見えない。
担当医師が『効いている』と言っているのは、
あくまで、治験の『数値』であり、
あくまでも、『尿管癌』に対する『新薬の好反応』であって、
それと引き換えるように、アニ本体は、
日に日に弱っていっているのが分かる。
ワタシが来た最初の頃は、タクシーから降りたら、
歩いて建物に出入り出来ていたのが、
一ヶ月経つ頃には、
移動するのに、ほとんど車椅子に頼るようになっていた。
余命と延命という言葉
考えに考え、思いあぐねて、
アニが治験点滴を受けている間に、担当医師に時間を作ってもらい、疑問に思っている事、不安な事、今後の事など、聞いてもらった。
『このままの体調で治験は続けられるのか?』
『治験薬でどのくらいまで良くなるのか?』
『治験はどのタイミングで終了なのか?』
『アニの余命はあとどのくらいなのか?』
担当医師は、
『まず、勘違いしないで欲しいのですが。』
と前置きをして続けた。
『お兄様の場合、もう治療ではなく、延命処置、と思ってください。』
『この新薬がどんなに尿管癌に効果があっても、がん細胞もバカではありませんので、段々、新薬が効かなくなってきます。まぁ数ヶ月といったところでしょうか。』
『やめるタイミングは、お兄様本人がギブアップなさるか、新薬の会社が、効果がなくなった、と判断した時のどちらかです。』
それから、
『お兄様の余命は、
まぁ…もって年内(3ヶ月)…でしょうねぇ。
でも本当なら、ゴールデンウィークくらいには
亡くなってたはずなんですよ。
だからお兄様はスゴいんです。
本当に、頑張っておられます!』
最後はワタシを励ますように医師は答えた。
やめさせたいワタシ、続けたいアニ
『アニ。もう帰りましょう。ワタシには、アニが良くなるどころか、命を無駄遣いしているようにしか見えません。』
『おいおい何の話だよ。』
『先生(担当医)も仰ってました。治験はアニにとって、もう治療じゃなくて延命処置だって!こんな遠く離れた所で、残された時間をどんどん無駄遣いするより、残された時間を大切に、会いたい人に会う、やるべき事、やりたい事をやる方が優先なんじゃないんですか!?』
『そんな話ししないでくれる?今せっかく新薬の効果が絶好調なんだよ!やめるなんて選択肢、オレにはないね!!』
『どこが絶好調なんですか!!ワタシには日に日に悪くなってるようにしか見えませんよ!』
『もうこの話しは終わりだ!終わりっ!!』
アニはそう言うと顔を背け、ドアを指差し、ワタシに追い払うような仕草をしてみせた。