2022年夏 胸膜播種と診断されるまで


コロナが治らない


コロナになって、東京都から物資をもらったり、高価な薬を無料で試せたりしたのだが、熱が下がっても呼吸苦は10日以上続いた。
喘息から来ているのだろうと思っていたが、近所の呼吸器のクリニックを受診すると左の肺が真っ白でなにも映らないほどに水が溜まっているので、コロナ専門病院に搬送されることになった。

コロナ専門病院はさながら野戦病院のようだった。
ここに入院できるのは、コロナでも別の病気のために生命の危機にある人なのだろう。
廊下で見かける患者たちはストレッチャーや車椅子に乗っていて、お互い目を合わせて会話できる状態ではなかった。

わたしが入院した部屋は4人部屋であるが、対角線上に入院患者が入るしくみだった。
斜めの同年代の女性はおそらく同年代だと思われた。
ナースコールを頻繁におしていて、私より具合が悪そうだなと思った。
後で聞いたところによると、糖尿病の既往があり、インシュリンを打っている人だった。
入院するとき、薬の管理はすべて取り上げられ、医師の判断により飲む薬が再び処方される。
彼女も糖尿の薬すべてを病院に提出していた。

コロナの治療は点滴治療になる。
薬を薄めているのはブドウ糖だ。
彼女はそのブドウ糖の連続点滴により、高血糖になってしまい、血圧を下げる薬を返してほしいと言っていたが、看護師に「医師の判断が必要だから、お待ち下さい」と言われ、随分待たされてしんどい思いをしているのだった。

彼女から見た私も、呼吸苦でとても具合が悪そうと思われていたようだ。
ずっとベッドで酸素を吸っているときは落ち着いているのだが、トイレに行くのにも伝い歩きで息切れが酷く、バイタルを計るといつも酸素の値は93だった。(90を切ると酸素不足で体の色々なところの細胞が死んでいくという)

入院二日目。
院長直々の診察で衝撃を受ける。
「あなたはコロナの肺炎ではなく、肺がんだと思う。ここの検査では詳細な検査もできないし、肺の水を抜くこともがんが広がるからできないので、なるべく早く専門の病院に移ったほうがいいよ」
斜め向かいの彼女はこの話が聞こえていたようで、とても同情してくれた。
でも女のカンの鋭いタイプの女性で「絶対大丈夫だよ」とも言っていた。

私はすぐにガンの主治医に電話をした。
2016年6月、私は左乳がんの部分切除手術、抗がん剤、放射線治療を受けており、半年に一度検査を受けていたのだ。
コロナになる2ヶ月前に、再発が多いと言われる5年の節目を迎え検査の結果「どこにもガンが転移・再発も見られないので、今後は1年に一度の検査でいいよ。おめでとう!」と卒業証書をもらったというのに。

主治医はがん専門病院にいて「ここにも隔離病棟があるから、入院の用意をしておくから、いらっしゃい」と言ってくれた。
そしてその翌日。
紹介状を持って、またガンの専門病院に5年ぶりの入院をすることになった。

胸膜播種の診断

コロナの陽性反応がしばらく出ており、その間は隔離病棟になっている個室に入院していた。
隔離病棟にレントゲンがやってきて検査したが、肺に水がたまっており、どこにガンがあるのか、どういうものだか分からないと言われていた。

血液検査の結果は炎症反応があるが、腫瘍マーカーは正常値。
腫瘍マーカーに反応しないガンだということだ。

息が苦しいので肺の水を抜きましょうということになり、鎖骨の間からドレーンが差し込まれた。
ドレーンは痛いのだが、肺の水がぬけると呼吸は楽になった。
コロナ専門病院では「ガンが広がるから胸水は抜けない」と言われたが、そんなことはないそうだ。
胸水は普通は尿のような薄い黄色とのことで、最初は黄色い水が出たが、次第に血の混じったような茶色い水となった。
それは癌性胸水といわれており、ガンがあるのは間違いがなさそうだった。
そしてその水のなかにガンが見つかって、左肺の胸膜にチラホラとガンが散らばっている、胸膜播種というガンだと診断された。

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