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【色エッセイ#5】私が「赤・オレンジ」から思い出すもの

旅先で出会い、心に残った景色や食べ物、日常で心動かされたものたちを「色」から捉え直す試み。私が「赤・オレンジ」から思い出すのは、こんなもの。

1.        赤富士
見事な赤富士だった。
富士山の周りをドライブしていた冬の日。
車内から、オレンジ色に染まる富士山が見えていた。これはどこかで車を停めて、ゆっくり見なければ、と向かった、近くの白糸の滝駐車場。
駐車場の係員さんも、こんなに綺麗な赤富士は珍しい、と興奮気味に話していた。
大急ぎで車を停めて、白糸の滝と富士が一度に見えるスポットまで走る。このうちに、富士山はついに、オレンジから赤へと変化していた。
息を切らしながら、頂の雪を残して赤く染まった富士を眺めた。

それから少し経った富士山は、さっきの色が嘘のように、すっかり青に戻っていた。


2.        落ち葉の髪飾り
秋晴れの東京国分寺。友人と、秋を探して歩いていた。
見つけた秋は、農家の軒先販売で売られていた柿、おまけでもらったザクロ、それから秋の紅葉だ。
当時、藝大生だった彼女は、公園で赤やオレンジの葉を落とす桜の木の下で、落ち葉を拾って、その場で綺麗な髪飾りを作ってくれた。
その様子を見て、通りがかったご夫婦が「あらステキね」と声を掛けてくれた。
それから私たちは、落ち葉の髪飾りを付けて一日国分寺を歩いていた。
やっぱり私は秋が大好きだ。

3.        メトロ
赤いメトロと言えば、毎日通勤で利用している満員の丸ノ内線が思い浮かぶが、ロンドンやヘルシンキのメトロも赤のイメージだ。
ロンドンのメトロと言えば、赤い輪っかのマーク。車両も赤と白でなんだかカッコイイ。いざ乗ると、その狭さや騒音に驚くが、旅行者の私には、それすらもかっこよく思えた。
ヘルシンキのメトロも、車体や座席が鮮やかな赤色だった。ヘルシンキのメトロは新しく、広告もほとんどなく、とても整然としていたのが印象的。
2カ国と比しても、日本のメトロは、人も情報量も多すぎると思う。


4.        長崎の崇福寺
ある夏、私は一人で長崎市内を歩いていた。
長崎は教会のイメージも強かったが、私はむしろ、至る所に残る、風情あるお寺の方が印象的だった。
中でも長崎らしいと感じたのは、赤い門やお堂が目を惹く中国式の崇福寺。
朝の誰もいないお寺は清々しく、異国の地にやってきたのかと錯覚するほどだった。
長崎は国際色豊かな寺町なんだと、この時思った。


5.        焼りんご
紅玉リンゴを見つけたら、作って食べたくなってしまう。
小さいころから、秋になると母とよく焼リンゴを作っていたからだと思う。吉祥寺の武蔵野茶房の秋冬限定の焼リンゴも毎年食べに行くし、いつかの秋は、友人宅で焼リンゴ作りをした。
今年も焼リンゴが楽しみ。シナモンとレーズンは購入済だ。


6.     エストニア   タリンの屋根
エストニアの首都、タリンの旧市街は、中世から残る街並みが世界遺産に登録されている。
数か所ある展望台からは、オレンジ屋根の旧市街が一望できる。旧市街の街並みは、中世にタイムスリップしたかのように美しい。
中世の人々も感じたであろう、バルト海から吹く爽やかな風が気持ちよかった。


7.        ラズベリー摘み
フィンランド、エスポ―在住の友人が、近所のピクニックスポットに連れて行ってくれたときのこと。
途中、「ここのラズベリーは美味しいから!」と教えてもらい、ラズベリー摘みをした。近くの大学に通う日本人留学生もちょうどラズベリー摘みをしていて、「フィンランドの夏は最高だね!」と言いながら、ラズベリーを頬張ったのもいい思い出だ。
困ったことに、味の濃い、このラズベリーを食べてからは、市販のラズベリーの味には満足できなくなってしまった。


8.  三宅島 赤場暁
三宅島のジオスポットの一つに赤場暁がある。
1940年と62年に起きた噴火で作られた地形で、その名の通り、赤色の地層を見ることができる。
溶岩の滑りやすい斜面を登る必要があるが、そこから眺める海も美しく、地面の赤と海の青のコントラストが何とも不思議な場所だった。


9.        イギリスのベイクドビーンズ
ロンドン在住の友人宅滞在中、毎朝食べていたのがヘインズのベイクドビーンズだった。毎朝決まって、ベイクドビーンズ、ハム、チーズ、パン、ヨーグルトを食べていた。
コッツウォルズの街、サイレンセスターのレストランでは、イングリッシュブレックファーストを注文した。こちらのベイクドビーンズの方がより素朴な味だった。
私は帰国後、ベイクドビーンズロスが続き、何度かスーパーで手に入るものだけで試作している。


10.     夜の九份
大学1年の頃、初めての海外は、台湾に行った。
夜の九份は、赤い提灯の灯りが街並みを彩る。あまりに多くの観光客がいて、写真を撮るのも一苦労だったが、「これでも人が少ない方」と聞き驚いた。
ひと通り散策した後は、阿妹茶酒館のテラスで、台湾茶を飲んだ。
生ぬるい海風を感じながら、九份の夜景を眺めたのは、初海外、台湾旅のハイライトとなった。


11.     キャロットラペ
私の常備菜。人参を細切りにして、オリーブオイルとお酢、塩、コショウで和えるだけ。たまに、食パンにチーズと一緒に挟んで、サンドイッチにして会社に持参することもある。鮮やかな色が食卓を華やかにしてくれるので、今日も作ろう。


12.     囲炉裏の炭の灯り
福島県いわき市に、何度か滞在している古民家ゲストハウスがある。江戸時代から残る古民家には、囲炉裏があって、オーナーやほかの宿泊客と囲炉裏を囲んで語らうのが楽しい宿だ。囲炉裏に炭火を入れて、鍋を囲んだり、おにぎりを焼いたりするのも恒例。
夜は、部屋の灯りを消して、炭火の灯りだけにして、友人と語らう。炭火の赤い光は、落ち着いた、あたたかい色をしている。

13.     知床のイクラ
知床の宿に一人で泊まったとき。夜は夕食会場で知床の海の幸・山の幸を一人でお腹いっぱい楽しんだ。鹿肉の焼肉、めんめの煮付け、ホタテ鍋、、。どれも本当においしかったが、前菜で出てきたイクラは、特にまた食べたいなと思う。採れたての鮭を宿で捌いて漬け込んだという。
鮭の水揚げ量屈指の知床ウトロ港。今頃行ったら、鮭の水揚げの様子が見られるのかな。

14.    節分の思い出
私がおそらく3歳くらいのころだと思う。節分の日に、父が赤い鬼のお面をつけて、私を驚かせたことがある。私の最古の記憶の一つだが、鬼に家中追いかけまわされて、恐怖で大泣きした記憶がある。
今考えれば、お面以外は、普段の部屋着姿の父だったのだけれど。
父は来年、還暦を迎える。
来年は、一緒にどこか旅行や食事に出かけて、赤色の何か気の利いたものをプレゼントしたいなと思う。今から私は密かに楽しみにしている。


これから、どんな赤やオレンジと出会えるのだろう。
見てみたい赤・オレンジは、朝焼けのアルプス、夕暮れ時の砂漠、紫禁城など。そして何よりも、赤のプレゼントを渡した時の、父の照れながらも喜ぶ顔が見たい。


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