【海外ゲーム】Stories Untold日本語版はすごく惜しい【翻訳解説】
「Stories Untold」は2017年にSteamで発売されたアドベンチャーホラーゲーム。4つのチャプターに分かれたそれぞれの物語から、1つの悪夢が蘇ります。
当時は対応言語が英語のみでしたが、2020年に日本語を含む11言語に対応したSwitch版が発売されました。
本記事は、このゲームの英語版と日本語版両方をプレイした筆者が、ゲームのココ好きポイントに触れながら、「日本語版のここが惜しかった!!!!」と思うシーンを書き連ねたものです。
ゲームシステムとSwitch版
Stories Untoldは「アドベンチャーホラーゲーム」と先述しましたが、基本操作は(強いて言うなら)ノベルゲームに近く、チャプターごとにシーンがほとんど固定されています。
ただし、このゲームでは与えられた選択肢から主人公の行動を選ぶのではなく、自分で行動の内容を決めて打ち込む、という一歩踏み込んだ操作が可能です。周りを見渡して確認したい時は「look aroud」と打ち込み、誰かに話しかけたい時は「talk to 〇〇」と文字列を打ち込みます。
また、ゲーム内では指示された文字やキーを自分のキーボードから直接入力する場面もあり、よりゲーム内の主人公になった気分でゲームに没入できるという仕組みです。アクティブな動きを抜きにして、ホラゲ特有のFPSの没入感を実現しているというわけです。
型にハマったゲームに飽きた方には真っ直ぐ刺さってくるギミックかもしれません。私にはものすごく刺さりました。
…が、それはあくまでPC(Steam)版の話。Switch版はキーボードに対応していないため、行動は選択肢式となり、キー入力の際には画面上にキーボードが表示される仕様となりました。
それでも、選択肢がプレイヤーの行動を制限しすぎないよう、行動の動詞部分(見る、行く、話す等)と目的語部分(何を、どこに、誰と、等)が切り分けられてそれぞれ選択できるようになっており、非常に行動の幅も広げられています。
また、ゲーム翻訳という意味では、様々な言語の様々な言い回しに対応したシステムの再構築よりも、あくまで動詞や目的語の単語単位で翻訳し、その組み合わせで展開を決めるという方が現実的だったのかなとも思います。
一番の旨味とも言える直接入力システムが使えないのは残念ですが、それを捨ててでもローカライズしてくれたディベロッパーには正直「よくぞ踏み切ってくれた!」と言いたいところ。どのゲームもそうですが、やはり言語ベースになればなるほど、その言語を知らない人にお勧めするのは難しく、日本の皆様にも海外の良ゲーを布教したい私としては、翻訳版が出ることは基本的に喜ばしいことなのです。
軽く脱線しましたが、とにかくこのゲームをこれからプレイする方で「少しなら英語がわかる」という方には迷わずPC(Steam)の英語版をおすすめします。行動を直接自由に入力できるからこそ、最後の展開はより衝撃的になるはずです。文章量もなかなかのものですが、1チャプター30分程度で終わるためヘビーすぎることはないかと思います。ぜひ。
Switch日本語版はダメ?
結論から言えば、全然ダメではなく、むしろ遊んでほしい!というクオリティです。他のゲームと比べても、謎直訳のような違和感のある部分がほとんどなく、翻訳の質が非常に高いと感じました。さながら、英文の小説を日本語で読んでいる感じ。海外小説の翻訳文の雰囲気が好きな方向けのゲームかもしれません。
さらに、ゲーム内の謎解き要素としてマニュアルを読む場面がありますが、このマニュアルもほとんど和訳されており、違和感がありません。こういう細かい部分の和訳は、微妙なフォント使いも気になってしまうタチなのですが、非常に自然な作りになっていると感じました。
さらにさらに、(軽いネタバレですが、)オリジナルの第4章ではヘルプ画面の文字が変わりますが、日本語でもその雰囲気を受け継いだ訳がされています。個人的にはかなり感動した部分。
もっと言えば、Switchだけのギミックもすごくいい。Switchの振動がシーンに合わせたタイミングで襲ってきます。バイブはつけた状態がおすすめです。
…ただ、完璧にこのゲームの面白さに迫れているか、というとそうではなく、所々「惜しい!!!」という部分も。
ここからは、日本語版をプレイした方にぜひ読んでほしい、「オリジナルだとこうでした」解説をしていきます。ガッツリネタバレありますのでご注意ください。
英語版だとこうでした!日本語版の「ここ惜しい」ポイント3つ
謎解きの答えが字幕でバレる
第3章、主人公は何らかの部隊の隊員として雪山の観測所に駐まり、通信機から聞こえる怪しげな声に耳を傾けながら暗号解読をしていきます。
この際、PC英語版には字幕が表示されず、流れて来る音声を聞き漏らさないようにしっかり聞いて入力する必要があるのですが、日本語版では字幕が表示されるため、その文字通り入力する流れになります。正直なところ、このシーンの怖いポイントは、アナログホラーで多用されるようなノイズ混じりの自動音声を何度も聞かなければならないシチュエーションだと思うのです。しかし、Switchの日本語版だと字幕通りに暗号を打ち込むだけで怖さも半減、ただの作業です。
このような状態になってしまったのは、音声が英語だからなのですが(字幕がないと、英語のリスニングテスト状態になってしまうので、それはそれでムズカシイ…と思うのですが)、だとすれば英語の部分だけ字幕をつけてほしかった!
問題は、チャプター中盤、モールス信号を聞き取るシーン。日本語版ではここにも字幕が入り、謎解きの面白さがなくなってしまっているのです。例えるなら、求めてもいないヒントで正解を教えてもらったような感じ。ここはせめて、字幕無しで楽しみたいところです。
(追記:この仕様は、Switchの英語版でも同じようです。PC版と比べると、Switch版は全体的にゆとり系なのかもしれません…)
“I’m sorry, I don’t understand.”
第4章、ジェニファーの死が母親に知らされる場面。ゲーム内のゲームThe house abandoned を進めていると、どんな行動をしても答えが変わらず、画面いっぱいに「ごめんなさい、何を言っているのか…」という文字が表示されて、病院内の映像と母親の声に切り替わります。
このシーン、英語版で表示されるのは、「I’m sorry, I don’t understand.」という言葉。これ実は、第1章のThe house abandoned プレイ時にも、プレイヤーの打ち込む言葉をゲームシステムが理解できないときに表示される言葉です(イメージとしては、Siriに話しかけた時に理解してもらえず「すみません、よくわかりません」と表示されるのと同じです。ちなみに日本語版では「何を言っているのかわからない」と表示されます)。
この流れを踏まえると、英語版プレイ時、第4章の同じシーンで表示される「I’m sorry, I don’t understand.」は、最初システムエラー(これも怖い)のように見えます。ところが実はこれは母親の言葉で、何を伝えてもジェニファーの死を受け入れられないという気持ちが表現されていた、というのがわかります。
この言葉選びが本当に秀逸で、個人的に非常にグッときたシーンなのですが、日本語版ではあくまでそれぞれのシーンに合わせて違和感がないように訳文が変えられていました。非常に自然で違和感のない翻訳が日本語版の強みですが、逆にそれが裏目に出て、演出の面白みを減らしてしまったとも言えます。
伏線も暗号のまま
このゲームの面白いところは、第4章のクライマックスに向けて第1章から第3章までの随所に伏線が張られている点です。第2章の宇宙船からの脱出や、第3章の雪山に響き渡る警告音などは、その後第4章で「あの時のアレか!」としっかり話に結びついてきます。
こうした伏線の中でも、かなり明示的であるにもかかわらず、日本語版では翻訳されていない部分があります。それが、第3章、マニュアルの見出しです。(勘が良く、英語が少しわかるプレイヤーには伝わるかとは思いますが、)見出しには「Sacrifice(犠牲にする)」「Chevron(警官袖章)」「Sibling(兄弟)」など、その後の物語で重要なキーワードが散りばめられています。
とはいえ、第3章の時点ではこれらの単語はあくまで信号解読のための識別子に過ぎず、あえて翻訳するのも野暮ったい気もします。とはいえ、(主人公の記憶を辿るという展開も含めて)伏線回収はこのゲームの一つのテーマであり、その醍醐味が伝わり切らないのは非常にもどかしいように感じました。
Stories Untold日本語Switch 版は確かに惜しい、でも。
ここまで、「オリジナルではこうだった、でも日本語版では面白さが減ってしまった」という話をしてきました。でも私としては、ぜひ、日本のみなさまにもこのゲームをプレイしていただきたい!!!
記事の中で触れてきた通り、Stories Untoldはただのホラゲではありません。独特なギミックと伏線が光る、一味違ったゲームなのです。日本語版では、その練り込まれた展開とゲーム独自の雰囲気を決して邪魔しないように、丁寧な翻訳がされているように思います。先述した「惜しい!」ポイントも、英語版をプレイしたからこそわかる部分であり、ストーリーの流れ自体は非常に自然で極端な意訳などもありません。
この記事を読んでくださったみなさまが少しでもStories Untoldというゲームに興味を持ってくださり、日本語版も、そして機会があればPCのオリジナル英語版も、楽しんでいただければ幸甚です。
読んでいただきありがとうございました。
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