【超短小説】年雄と尖った善意
年雄は思った。
悪意があればまだ良かったと。
年雄が会社の事務所に行く度、事務員のおばちゃんが言ってくる。
「なんで痩せないの?」
初めは会話の一つだった。
「痩せた方がいいんじゃない?」
年雄の身体を心配しての事だった。
でも年雄はそんなに気にしていない。
少し痩せようとジョギングはしているが、すぐ結果を出そうとはしていない。
「ジョギングしてるんですけどね」
年雄は軽く返す。
「じゃあ走る距離が短いんじゃない?もっと頑張んないと」
善意が徐々に尖っていく。
「普段何食べてるの?」「間食してるんじゃない?」「頑張りが足りないのよ」「自分に甘いからよ」
悪意なら怒鳴り返したい。
でもあくまで善意だ。
善意で言ってる。
ムカついた方が悪なんだろう。
尖った善意。
刺さるぜ。
浜本年雄40歳。
うるせえ!まずお前が痩せろ!
と言ってはいけない。
刺さってるのは善意だから。
めんどくせ。