【超短小説】年雄と苦味
年雄はアイスコーヒーを飲みながら思った。
いつからブラックコーヒーを飲むようになったのだろう?
初めてコーヒーを飲んだのは、小学生の頃だった。
両親が仕事でいない時、大人の真似をしてインスタントコーヒーを作って飲んだ。
あまりの苦さに絶句したのを覚えている。
それから、高校生になるまで口にしなかった。
高校生になると、缶コーヒーが流行り、年雄はその流れでよく飲んでいた。
ミルクと砂糖たっぷりのコーヒー。
苦くないコーヒー。
大人になってからも、甘くて苦くないコーヒーをしばらく飲んでいた。
たしか、初めてブラックコーヒーを飲んだのは、当時付き合っていた彼女と初めて、喫茶店でデートした時だった気がする。
25歳くらいだったか?
カッコつけて頼んだブラックコーヒー。
苦くて不機嫌になった。
そんな年雄も今ではブラックコーヒーだ。
今は甘いコーヒーは飲めない。
いつからだろう。
苦味が好きになったのは。
香りが好きになったのは。
体がシンプルな物を求めてるようになったのは。
いつだ?
浜本年雄40歳。
このままいくと、水だけで満足しそうだ。
それはそれでいいか。