【超短小説】年雄とホールケーキ
大人になったら絶対にやりたい事の一つに、"ホールケーキを1人で全部食べる"が年雄の子供の頃に思った事だ。
でも、大人になってから一度にホールケーキを1人で全部食べた事がない。
理由は、"いつでも出来る"と思ったからかもしれない。
大人になり、社会人になると、今やらなきゃいけない事がある事に気付く。
そうすると、いつでも出来る事は後回しになる。
いつでも出来る事を後回しにすると、だんだんと魅力がなくなる。
子供の頃、あんなにやりたかった事なのに。
きっと、出来ないから魅力があったのだろう。
出来ると分かった途端に後回し。
そんな理由で後回しになった"出来る事"はきっと沢山ある。
気がつくと、何もやってないのかもしれないと思えてきた。
年雄は決心した。
ホールケーキ!一個食べよう!
誕生日でもなく、クリスマスでもない。
なんでもない日。
今日。
今だ!
年雄はケーキ屋さんに行き、ホールケーキを眺めながら思った。
"こんな大きいの1人じゃ無理だな"
年雄は小さめのモンブランケーキを買って帰った。
浜本年雄40歳。
やりたい事を後回しにしたせいで、やれない事になっていた。