【超短小説】年雄の仕事納め
年雄は朝5時に目が覚めた。
目覚ましより先に目が覚めた。
眠い感じもなく、スッキリした感じだ。
年雄は今日仕事納めだ。
午前中に一件だけ現場に行き、終われば会社に戻って換気扇を掃除すれば今年の仕事は終わりだ。
15時には家に帰れるだろう。
それが嬉しいせいか、朝5時にスッキリ目が覚めた。
小学生の頃の土曜日を思い出す。
午前授業だけで家に帰れる。
特別な日の感覚。
このまま家でボーっとしててもいいが、せっかくなので缶コーヒーを自動販売機に買いに出かける。
寒さよりも、特別な日である嬉しさが勝る。
少し遠くまで歩こう。
自動販売機に着くまで、誰にもすれ違わない。
貸し切り状態。
大声で叫んでもいいんじゃないの?と錯覚するほど静かな道のり。
なんか嬉しい。
年雄は自動販売機に着くと、小銭入れを出した。
10円玉が多い。
130円くらいあるだろうと、10円玉を入れる。
10・・・20・・・30・・・120円しかない。
あとは・・・5円と1円。
うーん・・・買えない。
いつもなら「クソっ!」とイラついてしまうが、今日は気分がいい。
ここまでの道のりを10円で貸し切ったと思えば安いもんだ。
年雄は何も買わずに帰った。
それでも、いい気分だ。
浜本年雄40歳。
このあと、二度寝をしてしまい、遅刻する羽目になる事を、この時まだ知るよしもない。