【超短小説】年雄と北風
夕方、年雄は趣味のジョギングを公園で楽しんでいた。
この時期にしては、暖かかったのでいつもより薄着だった。
40分ほど走り、そろそろ日が落ちるかなと思った頃、年雄の頭上を、激しい音が飛び交った。
年雄は驚いた。
まるで飛行場にいるかの様な音だったからだ。
もちろん音の原因は飛行機ではない。
風だ。
風が公園の木々に激しくぶつかる音だ。
一瞬。
ポカポカした陽気を一瞬で北風が持っていった。
年雄の汗と共に、体温を一気に下げた。
ついさっきまで楽しかったジョギングが、罰ゲームの様に辛く感じた。
昔観た映画で、氷河期が一瞬でやってくるパニック映画があったが、それを思い出し実感した。
早く家に帰りたいが、北風がそれを邪魔する。
前に進まない。寒い。関節が痛い。薄着の後悔。無意識に出る涙。
年雄は「バカやろー!」と叫んだ。
でも誰にも届かない。
北風が全部持っていく。
ようやく家に着き、鏡で自分の顔を見た。
一瞬"誰?"と思うほど老けていた。
浜本年雄40歳。
北風に3年ほど歳も持っていかれた日。