【超短小説】年雄と色あせたトレーナー

年雄はお気に入りのトレーナーを捨てる事にした。

3年・・・いや、4年は着たか。

買った時は真っ黒だったが、すっかり色あせてグレーに見える。

毎年2回。

春から夏まで、秋から冬まで。

着れば着るほど体に馴染む感じ。

お気に入りのトレーナー。

捨てようと思ったのには、きっかけがある。

色あせたトレーナー。

家で着る分には問題ない。

それが、"コンビニくらいならいいか"になり、"近所のスーパーまでなら"になり、"隣の駅くらいなら"と距離が伸びていった。

年雄はその色あせたトレーナーを着て、五つ先の駅にある映画館に行った。

映画館にある大きな鏡を見て"薄汚いおっさんがいるな"と思ったら自分だった。

年雄はお気に入りのトレーナーを捨て、新しいトレーナーを買う事を決めた。

長年馴染んでくれてありがとう。

浜本年雄40歳。

捨てる時「また会おう」と一言。

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