【超短小説】年雄とカニ、カニ、カニ。
年雄が高校生の頃の話だ。
部活を引退して、夏休みが始まった頃、年雄はバイトを始めた。
焼き肉とカニの食べ放題が売りのお店だ。
そこのバイト先には、2つ上の元ヤンキーの先輩も働いていた。
宴会が入ると、大量の肉とカニが注文される。
そうなると、全体的に現場はピリピリとする。
「年雄!おせーぞ!早くカニ持ってこい!」
元ヤン先輩の怒号が飛び交う。
年雄は「はい!」と返事を返しながら、"うるせーな!"と思っていた。
そんな年雄に気付いたのか、元ヤン先輩が年雄に言った。
「お前、バイト終わったら屋上に来い」
年雄は絶対ぶん殴られると思って、憂鬱になった。
大忙しの宴会も終わり、タイムカードを押して年雄は屋上に向かった。
"めんどくせ"
年雄が屋上に着くと、元ヤン先輩がいた。
「なんすか?」
年雄は強気で言った。
元ヤン先輩は「ほら、これ食え」と言って大皿一杯のカニを年雄に見せた。
「これ!どうしたんすか?」
年雄が聞くと、元ヤン先輩は「客が手をつけてないカニを、片付ける時に取っておいたんだよ」と言った。
「あざす!」
年雄は空腹もあってカニに貪りついた。
元ヤン先輩は「いっぱい食えよ」と奢ってるかのように自慢げに言った。
カニ、カニ、カニ!
カニを食べながら年雄は思った。
"カニって飽きる"
そんなに沢山食べられないと思った年雄は「ごちそうさまっす」と言って大皿を元ヤン先輩に返した。
元ヤン先輩は「俺はいい。お前食え」と言った。
「いや・・・でも・・・」
元ヤン先輩は優しい顔で「お前頑張ってんの俺は見てるぞ」と言った。
年雄は食べた。
カニ、カニ、カニ!
その日から、年雄はカニを食べなくなった。
浜本年雄40歳。
あれから20年以上たって、ようやくカニチャーハンは食べれるようになった。