【超短小説】年雄と小さなストレス
年雄の住むマンションのエントランスに、自転車が停められていた。
恐らく住人の自転車だろう。
駐輪場はある。あるが、マンションの裏だ。
エントランスに停めて家に帰る方が少し楽なのだろう。
でも、駐輪場がある以上エントランスに停める事はダメだ。
邪魔な訳ではない。
邪魔ではないが、マンションに帰る度に小さなストレスを感じる。
"なんでお前だけが楽をしているんだ"
エントランスに停めていいのなら、そっちの方が楽だから皆んな停めたい。
でもそれをやると、エントランスは自転車で溢れ返る。
だから皆裏に回って駐輪場に停める。
自分だけ楽していいと何故思った?
何故特別な存在だと決めた?
仮に一台だけなら、邪魔にならないから停めていいとしても、お前じゃない。
小さな小さなストレス。
気にしなければいい話。
でも年雄は、その小さなストレスが日に日に溜まっていく実感を感じる。
管理会社に連絡すればいい話だが、それも一手間。
何故俺がその一手間かけなければいけないのか?
取るに足らないストレスが、年雄の生活に水を差す。
自転車を蹴り倒したい感情。
それはやりすぎだろうとブレーキがかかる。
気にするなと言い聞かせるが、器の小ささが邪魔をする。
年雄は今回の事で思った。
小さなルールこそ守れ!正義が動き辛い!
浜本年雄40歳。
「何かいい事ないかな」と呟く。