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【何気ない言葉】

何気ない言葉が他人を救うことがある。
本人が言った記憶すらないことでも。

たしか新卒一年目の5月後半だったと思う。
当時、就職を機に上京し右も左もわからない状態だったが、
営業のため、神田周辺を歩き回っていた。

本格的な夏ではないとはいえ、かなり気温が高く、
未だ着慣れていないスーツを身にまといながら、
これまた慣れない東京の街を駆けずり回る生活が続き、
心身共にそれなりに堪えていたことを覚えている。

そんな中急ぎ足で交差点を渡っていると
私の背後にいた紳士風の老人二人が何やら会話しているのが聞こえた。
前にいた私のことを話していたようで
「ほら見てみなさい、こんな暑い中ジャケットも着て頑張ってるね」
といったことを話していた。

名前も顔もわからない人たちのその言葉が
胸に沁み、なんだか勇気づけられたのを覚えている。

時々そのことを思い出し、
今でも心がふっと軽くなることがある。

本当に何気ない会話に私は少し救われたのだ。
自分もあの二人の老紳士のようになりたいと思う。

だが逆に何気ないもので人に一生消えない
傷をつけることもできるのが言葉だ。

そしてこんなことを書いていると
キーボードが誤作動を起こし、口汚くPCに文句を吐いてしまった。
道のりは遠いようだ。



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